第119話 化なる男の念記 【古】

昔、浮気な男が形見として残した品々を見て、ある女が、


 形見など今は何の役にも立たない。これがなければあの男のことを忘れる時もあるだろうに。


【定家本】

昔、女の、あだなる男の形見とておきたる物どもを見て、

 かたみこそ 今はあだなれ これなくは 忘るる時も あらましものを  


【朱雀院塗籠本】

無し。


【真名本】

昔、あだなる男の念記かたみとて置きたる物どもを見て、

 かたみこそ いまは怨なれ 是れ無くは 忘るる時も あらましもの


【解説】

『真名』「信」は手紙のことか?


『古今集』0746


『玉勝間』

「むかし女の、あだなる男の云々」、「女の」の「の」もじ、ひがこと也、すべて「の」てふ辞は、心得ありて、おくべき所と、必ずおくまじきところとのあることなるを、これはさるわきまへをもしらぬ 、後の人の、何心もなく加へたるなるべし。『真名本』に、「女の」といふことなし、それも「女」といふことたらず。

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