第118話 這ふ木あまた 【古】

昔、ある男が、女のもとへ久しく訪れもしなかったが、女に「あなたを忘れる心などありません。まいります」と言ったところ、女が詠んだ。


 たくさんの木に枝を這わせる玉かづらのような、浮気性のあなたからの言葉が絶えないからといってうれしくもありません。


【定家本】

むかし、男、久しく音もせで、「わするゝ心もなし。まゐり来む」といへりければ、

 玉葛 はふ木あまたに なりぬれば 絶えぬこころの うれしげもなし


【朱雀院塗籠本】

昔男。久しくをともせで。わするゝ心もなし。まいらんといへりければ。女。

 玉かつら はふ木あまたに 成ぬれは 絕ぬ心の うれしけもなし


【真名本】

昔、男、久しく音もせで、「忘るる心もなし、参り来む」と云へりければ、女、

 玉葛 這ふ木あまたに 成りぬれば 絶えぬ言の葉 嬉しげもなし


【解説】

『古今集』0709


『玉勝間』

「むかし男久しう云々」、『真名本』に、「いへりければ」の下に、「女」とあり。

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