第86段 おのがさまざま年の経ぬ
【定家本】
【朱雀院塗籠本】
【真名本】
むかし、いと若き男、若き女をあはむと言へりけり。おのおの親ありければ、つつみていひさしてやみにけり。年ごろ経て、女のもとより、「なほこのこと遂げむ」と言ひければ、
いままでに 忘れぬ人は 世にもあらじ おのがさまざま 年の経ぬれば
と言ひて男、なほあひはなれぬ宮仕へになむいでにける。
【現代語訳】
昔、とても若い男が、やはり同じくらいに若い女と思いを通じ合っていたが、それぞれに親がいるので、包み隠して、そのままになってしまっていた。年頃を経て、女のもとより、「やはり最初のこころざしを遂げよう」と言ったので、男は歌を詠んでやったが、果たしてどう思ったのだろうか。
それぞれ別々の境遇で年を経てしまったから、すでに忘れてしまわぬ人はいないでしょう。
と詠んで、男はなおも、さほど遠からぬところに宮仕えに出た。
【解説】
宣長に従い、『真名本伊勢物語』に基づいた。
『玉勝間』
「今までに云々、とてやみにけり」といふ詞、上に「心ざしはたさむとや思ひけむ」、といへるに、かなへりとも聞えず。此くだり、『真字本』はよくきこえたり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます