第一章

 ひびの入った表面にムカデが這い回っているのを見てしまい、慌てて目を逸らす。


 ザワザワと揺れる周囲の枝葉が不安感を煽る。


「きゃ……!」


 近くに立てかけられていた卒塔婆そとばが風で倒され、乾いた音を立てた。


 最早いつのものか判別すらできない、長い年月を風雨にさらされ、腐ったように黒くなった卒塔婆だった。


「珠美、ビビっちゃって可愛い」


 私の悲鳴に反応した瑠璃先輩がからかうように笑う。


「ご、ごめんなさい。いきなりだったからつい……」


 こんな昼間から幽霊なんて出るわけないとはわかっているけど、どうにも雰囲気に飲まれてしまっている。


“面白い場所があるって教えてもらったの。今度の土曜日に行ってみない? あたしの彼が車出してくれるから”


 あんな誘いさえなければ、こんな場所まで来てこんな怖い思いをしなくて済んだのに


 三日前に聞かされた瑠璃先輩の言葉を脳裏に思い浮かべ、誰にもばれぬよう息をつく。

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