第一章

 その証拠に、今までだって多くの嫌がらせを天音は受けてきた。


 コンビニへ行くと言えば万引きをさせられ、海へ行くと言えば服を海に捨てられた。


 カラオケやファミレスに入れば、天音がトイレに行っている隙に店を出て会計をさせる。


 もちろん私もそれをやる側にいたのだから、偉そうなことは言えない。


 遊びで出してもらったお金だけは後からこっそり渡したりもしていたけど、それでも許される問題じゃないことくらいわかってるし。


「ほら、あんたらも来なよ。置いてくよ」


 既に墓地の半分くらいまで進んでいた瑠璃先輩が、こちらを振り返る。


 あからさまに何かろくでもないことを企んでいるのが見え見えな、不快な笑みを浮かべながら。


「……今行きます」


 諦めたような声を零し、天音が歩きだす。


「……」


 そのすぐ後ろを、私は苦しい気持ちを抱えながらついていく。


 朽ちた墓石は、そこにあるだけで呪いを伝播してきそうな不気味さがあった。

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