第一章

「平気よ。お墓に近づいたくらいで何が危ないって言うの? 地面に落とし穴でも隠されてるわけ?」


 心配するように声をかける郁代に、小塚先輩は鼻で笑うように言葉を返す。


「……ふーん、やっぱり古いわね。最後にここ入った人、六十三年前だわ」


 墓碑に顔を近づけ刻まれている内容を伝えると、小塚先輩はさらに墓地の奥へと進んでいく。


「勇気あるなぁ、先輩」


 感心するように呟く郁代の声を近くに聞きながら、私は側に立ち尽くしている天音の腕に振れた。


「平気?」


「うん。大丈夫」


 こくりと頷きながら、天音がさり気なく瑠璃先輩の横顔に視線を這わせたことに気づく。


 ――やっぱり警戒してる……。


 大丈夫と口にはしても、本音は別だ。


 ここに私たちが来た本来の目的は、端的に言えば天音への嫌がらせ。


 首謀者の瑠璃先輩が今回何を考えているのかは不明だけど、こうして休日に私たち全員を集めている時点で平穏に過ごせるわけがない。

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