第一章

 整った顔立ちに似合う落ち着いた声音で、小塚先輩はそう言葉を発する。


「歩くったって、そんなに距離ないでしょ。せいぜい二十分くらいの道じゃん。帰りなんて車乗っちゃえば後は庸介が送ってくれるんだし、心配する必要ないって」


「……」


 あっけらかんとした返答をする瑠璃先輩に一瞬呆れたような表情を見せてから、小塚先輩はまた顔を前に戻し黙ったまま歩きだしてしまう。


「もう、こんなとこに来てまでクールなんだから。そんな性格してるから男が寄ってこないのよ。静鶴、学校内で男子から何て呼ばれてるか自覚してる? 高嶺の花って言われてんのよ? 良いんだか悪いんだか微妙だよね。郁代、どう思う?」


「良いんじゃないですか? 女のわたしから見ても大人っぽくてかっこいいし、憧れてる女子も多いんですから」


 小塚先輩の背中を眩しそうに見つめながら、郁代は言った。


「はーん。大人の女性、ね。実は平気で万引きとかするような悪女だって知ったら、皆ドン引きするのかな」

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