第一章

 その笑顔から逃れるように、私は斜め前を歩く少女へ視線を向ける。


 肩口まで伸ばした綺麗な黒髪が、歩くたびに小さく揺れている。


 百瀬ももせ天音あまね、十七歳。


 私、間掘まぼり珠美たまみが高校に入学して、最初にできた友人。


 優しくて、勉強もそこそこできて、手先が器用で、でも運動はちょっと苦手で。


 そして、彼女の一番の魅力は何と言ってもその見た目の可愛らしさ。


 控えめな性格と相まって、同学年の男子の間では密かに人気が高い。


 積極的な男子なんか、廊下で話しかけたりすることも珍しくない。


 だけど、それ故に弊害もある。


 男子にしょっちゅうちやほやされるのを見て、それに嫉妬する女子。


 こういう存在が、少なからずいる。


 事実、それはこの場でも言えることだった。


「天音、あんたもさっきから黙ってるけど、具合でも悪い? 寝不足とかかな。昨日の夜は男とホテルでヤリまくってたとか?」


私の前から離れて天音にそう下卑た言葉をかけるのは、入江いりえ瑠璃るり

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