第一章

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 綺麗だと思えた桜の花も咲き終わり緑が眩しい葉桜になると、途端に毛虫の雨が降り出すのが私は子供の頃から大嫌いだった。


 幼稚園に通っているとき、ブランコの真上に生い茂る葉桜の中から落下してきた毛虫が私の頭に乗ったあの瞬間の嫌悪感は今でもしつこく記憶の中に刻み込まれている。


 それ以来私は、花が散り始めたら桜の下を歩くのは極力さけて生きることを続けてきた。


 ただ、それでも。


 長く生きていれば、避けきれない事態に飲み込まれてしまうこともあるわけで。



 七月四日、土曜日。午後一時四十分。


 休日の、まだお昼を過ぎたばかりの時間帯に、私は細い山道を歩き続けていた。


 左右にそびえる大きな木々は、全て桜の木。


 春になれば桜のトンネルとして一部の地元人には有名らしいけど、それ以外の人には何故か知られていないという、そんな空間。


 さすがにそろそろ毛虫の脅威は過ぎている時期のようだけれど、それでも万が一視界に捉えてしまったらと思うと目のやり場が定まらない。

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