第34話 朱里視点
文化祭実行委員になってからいつもよりもちょっと忙しく、いつもよりも人と話すことが多くなっていっているのを実感している。これは溝部君と話して決めた、昼食を彼以外の人ともとるようにすることが伊万里のおかげで思いのほかうまくいっているのが大きい。
こうしてみるとやっぱり友達という存在がいかに大切なものかがわかる。溝部君や伊万里の協力がなければ、私は今も変わらず教室で一人毎日を孤独に過ごしていただろう。
ところがここ数日彼、溝部君の様子が以前と違うような気がするのだ。表面上は特に変わった様子もなく見えるが、ふとした拍子にぼーっとしていたり、表情が硬かったり。
心当たりがないわけでもないのだが、それが原因っていうのもなんだか釈然としないというか。
「それで私を頼ってきたってわけね」
こういう時、一人で悩んでいても仕方がない。ということを今の私は知っている。そういうわけで早速伊万里に相談を持ち掛けることにした。
「どうにも彼の様子がおかしいのよ」
「そうかしら? 私が今朝からかったときにはそんな感じはなかったと思うけど」
どうやら伊万里に対してはいつも通りらしい。
「で、朱里には心当たりがあるのよね? 一体何かしら」
「いや、それがね」
私は彼の様子が変わる前、私が後輩たちのコミュ力に震えていた時、急に手を取られ教室の方に向かったときのことを話す。
「……釈然としないも何もそれしかないでしょ。そこから態度が変わったっていうなら」
やっぱりそうなのだろうか。私の方はみんなになんだか変な目で見られていたから恥ずかしかっただけなのだが。
「何不思議そうな顔してるのよ! ……彼も相当だけどあなたもかなりアレね。」
「そう言われても、こっちは全くピンと来ないのだけれど」
「あーもうめんどくさいわね。そうね、あなたたち今まで手をつないではいなかったでしょ?」
それはそうだ。わざわざ手をつないで何かすることもなかったし。
「あなたと彼の関係は? ただの友達でしょ?」
「ただの友達じゃないわよ」
私と彼はコミュ障仲間、一蓮托生のコミュ障脱却同盟である。
「だからそうじゃなくてね、あなたたちは彼氏彼女の関係じゃないってこと」
それはまあそうである。彼も私も友達だと言っている。
「ここからは私の推測に過ぎないんだけど、朱里と咄嗟に手をつないだ時には何も思わなかったかもしれないけど、冷静になってから気づいちゃったんでしょうね。その感触とか朱里の反応で」
「気づいた? 何に?」
「あんたわざと言ってるわけじゃないでしょうね……。そこまで鈍い子だとは思ってなかったけど、これ私が言っちゃっていいのかな……」
そこまで言いかけて言葉を濁す伊万里。しかしそれではこちらも気になってしまう。
「そんな目で見られても……。わかった、言うわよ! それで、もう一度言うけどこれは私の推測だから。多分溝部君はあなたのことを女性として意識しちゃったんじゃないかしら?」
……えーっと。ちょっと聞き取れなかったのでもう一度聞いてみる。
「だから、溝部君が、朱里のことを異性として、強く意識しちゃったんじゃないかなって」
そ、それはつまり、アレ? likeじゃなくてloveの方ってこと? いやいやいやそんな馬鹿な。
「あら朱里、どうしたのそんなに口を半開きにして顔真っ赤にして固まっちゃって。案外、満更でもなかったりして」
「だ、だだだだって私と溝部君だよ? そんなことあるわけないっていうか」
「なんでそう言い切れるの? 男と女なんだからそういうこともあるに決まってるでしょ」
言われて冷静になってみるとその通りである。彼の高嶺の花がどうとかいう発言を思い出してみても友達になる前はそういう風にみていたわけで、私が一度もそんなことを考えなかったかというと……
「まあ私のはただの推測だし? 溝部君が別にあなたを異性として好きかどうかは決まったわけじゃないんだけど。この前の時朱里に気があるかって聞いた時にはノーって即答してたし」
いつの間にそんなことを!? しかも即答って……。
それに今のを聞いて嫌だと感じる気持ちが湧いてしまっている。伊万里の言ったとおり私も満更じゃないのか……。いや待て私、まだ彼の気持ちがそうだと決まったわけじゃないし、焦るな焦るな。
「ふふふっ、相変わらず表情がどんどん変わっておもしろい子ね。可愛すぎて私がもらっちゃいたいくらい」
「だ、だってこんな話あ、慌てない方がおかしいっていうか」
「はいはいそうね」
これから彼とまともに話せる気がしない。それでも避けるわけにはいかないし、文化祭のことだってあるのに一体どうしたらいいのよ!
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