第33話
その日、それから家に着くまでの間のことはあまりよく覚えていない。クラスの手伝いを少ししたことは確かだが、彼女のことで頭がいっぱいだった。今まで無理にでも意識しまいとしてきたことが一気に膨れ上がって俺の中で溢れそうになった。最初は一方的に憧れていただけだ。彼女は綺麗で、孤高で、だけどどこか儚くて。でも、本当はコミュ障で友達がいなかっただけで、彼女と話すようになってからは一緒にいると楽しかったし、ちょっとした反応もいちいち可愛くて、二人で一緒に目指すものができて―――
今までに味わったことのない胸の高鳴りといえばよいのか。考えれば考えるほどどつぼにはまっていくこの感覚はやはりそうなのだろうか。ただ手を握った。それだけのことで自分がこんなになってしまうなんて思いもしなかった。思考が彼女で支配されている。言い訳がましいが今までの彼女を応援したい気持ちも、感じていた友情も決して嘘だったわけではない。俊之が言っていた男女間の友情についての話を思い出す。俊之が言っていたことはまさにこのことだ。少なくとも男は否応にもなくこの感情に飲み込まれるということをあいつは言おうとしていたんだと今になって理解した。
これは今後彼女のことを直視できないかもしれないな……。
かといって二人でコミュ障を脱却するということは決定事項だし、実行委員でも一緒になる。そして週に二回は彼女と食事をとることになっている。こんなの血気盛んな普通の男性諸君にはご褒美以外の何物でもないはずなのだが、彼女のことを強く女性として意識してしまったことと、一人で勝手に感じている後ろめたさとでまともに話ができる気がしない。
そう、結局は自分の問題なのだ。勝手に憧れて勝手に友情を感じて勝手に応援しようとして、そして勝手に好きになった。彼女が俺のことをどう思っていようがこうなっては仕方がない。一度意識してしまったことはどう足搔いても離れていくことはなく、ただ近づいていくものなのだ。なのだが、俺にはそれを強引に押し通す気概もなければ抑え込んでいく今まで通りにする自信もない。いったいどうすればいいんだろう。
こんな時こそいつも通りに、俺は俊之を頼ることにした。
「というわけで俊之、何か助言を」
「今度は何かと思えば……そんなこと俺に聞くんじゃねえよ」
「まあそう言わずにさ、親友だろ?」
俊之は心底呆れたようにため息をする。
「こっちとしては何を今更って感じだけどな。とりあえず今まで通りにする以外に何か俺がアドバイスするようなことあるか?こんなの相手に不信感与えたら終わりだろ」
さすが俊之。ごもっともである。
「いくら幼馴染のこととはいえ、自分以外の色恋沙汰ってのはなんとも言えんな。こういうのは首を突っ込んだら痛い目見るからな」
どこか遠い目をする俊之。俺の知らない何かが過去の俊之にはあったようだ。
「そうだなぁ、いっそのこと告っちまうとかどうだ? まあお前には難しいか」
俊之の提案はどちらも俺が考えて厳しいと思ったことだ。このどちらかを天秤にかけてみることができれば決心などすぐにできるのだろうか。
「まあ現状維持が一番だと俺は思うけどな。変に焦ることはないよ」
やっぱりそれしかないか。今のままで文化祭を終えることができるのか、不安だ。
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