第35話 朱里視点

「ねえ上野さん! 上野さんもコスプレしてお店に出ない?」

 時は昼食。今日も今日とて伊万里と一緒にクラスの人たちとなんとか昼休みを過ごしていたわけだが、突然こんなことを言われた。

「それいいわね。上野さんなら何でも似合うだろうし、客引き効果も期待大よ」

 そのまま皆は私に何を着せるかについて勝手に話し始める。私の意思は……。

「やっぱりメイド服がいいんじゃないかな?」

「いや、ここはスーツなんかどうかしら!」

「あえて男装ってのもアリね」

 話はどんどん不穏な方向へと向かっていく。このままではまずい、なんとかしてこの話をなかったことにしなければ。

「え、えっとその、私はあの、実行委員の方が忙しいから……」

「ああ~そっか、それなら難しいね」

 よしよし、これで話は流れるはず。実際は当日そんなに忙しくないのだが接客なんて私にできるわけがない。

 するとそこで突然伊万里が立ち上がった。

「ねえ溝部君! 二人とも実行委員のおんなじ部署だって言ってたけど、文化祭当日ってこっちに手伝いとか来れないかな?」

「き、急に大声出さないでよ……。うちのところは準備と片付けが主だから、当日はそんなに仕事ないし普通に手伝いくらいはできると思うけど……」

「そっかーありがとー! と、いうことで大丈夫そうね朱里?」

「え、ええ。そうみたい……」

 し、しまったー!伊万里はしてやったりといった様子でニヤニヤといつもの笑みを浮かべている。

 こうなってしまってはもう逃れることはできないのか。なにせ他の女子たちも自分はやりたくないと思っているだろうし、実行委員という立場上準備にはなかなか参加できなくても当日は参加可能といった都合のいい存在は接客に向かわされるに決まっている。少しでも女子のコスプレ枠をつぶして自分はやらないようにしようという魂胆が見え見えだ。

「い、いや、でも私、人と話すのもそんなに上手じゃないし、接客なんてできるかなって」

「大丈夫大丈夫! 皆やったことないんだから、案外うまくできるかもしれないでしょ?」

 その理屈はおかしい。

「それに絶対似合うと思うから! やっぱりこういうのは似合う人がやらないとね」

 こ、こうなったら……

「じゃ、じゃあ溝部君にもやってもらわない?」

「えっ溝部君?」

 なぜ? と怪訝な顔になる女子たち。

「ほ、ほら、彼って普通顔だし? ど、どう弄っても邪魔にならない顔してるじゃない」

「なるほどね、言われてみれば確かにメイクさせて女装とか似合いそうね。体型もほっそりしてるしありかも」

 な、何やら真剣に考え始めるクラスの皆さん。そしてその端で一人必死に笑いをこらえる伊万里。まさか皆がこんなに真剣に考え始めるとは思ってもいなかったがうまくいった。こうして女子に興味を持ってもらえれば彼のコミュ障脱却にも近づくのではないだろうか。

 彼の女装を私も少しだけ想像してみる。……うん、ありだな。

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