第8話
「なあ俊之、女子と二人でカラオケに行ったことあるか?」
放課後、俺は俊之に話をしてみることにした。困ったときの俊之さんである。
「......いやないけどさ、最近お前そんなんばっかだな。しかも話が急進的というかなんというか」
さすがに怪しまれているな......。かといって俊之以外に頼れる人もいないしなぁ。いっそ上野さんのことを話してしまおうかとも思ったがこの話題でそのことを明かすのは非常に面倒なことになるのは明白だ。
「いやさ、女子と話すのが苦手なのを克服しようと思ってな。だから経験豊富そうな俊之さんのお話をいろいろ聞かせていただこうと、別にそんなにすぐに変わるような性格ではないと自分でもわかってるけどな」
「まあ何か変化があったことにはかわりないんだろ?悪いことじゃないみたいだし、無理やり聞き出すようなことはしないけどな」
「......助かる」
なんてできたやつなんだ。俺が感動しているのを放置して俊之は話を進める。
「んでなんだっけ?そうそう女子と二人でカラオケだったな。二人で行くならそれはもうカップルぐらいだろうな。ぎりぎり仲のいい友達......う~ん、かなりの信頼がないと普通は二人きりで密室になんかはいらんだろ」
「やっぱりそれが普通だよな」
うん知ってた。
「まさかお前が誘ったり誘われたりしたわけでもないんだろ?そんなのはそういうことがあってから悩むもんだ。まずはそのコミュ障を矯正するんだろ?」
「あ、ああそうだな。ははは......」
誘われたんだけどな。しかもおそらく、ただの思い付きで。
それから数日、上野さんと俺とで予定を話し合って一応カラオケの日程は決定した。
「それにしても私は何時間でもぶっ通しで歌えるけど、あなたは持ち歌どのくらいあるの?」
「持ち歌?う~ん流行りの曲ならそれなりに聴いてきてるから困ることはないと思うけど」
「流行りの曲ね......リア充でもないくせに」
どういう意味だろう。流行りの曲を聴くのにリア充も何もないと思うのだが。
「ま、いいわよ。ちょっと曲の趣味が合わないくらいなんともないでしょ」
それって結構問題じゃないですかね。男二人でもいろいろきつかったのにこの男女二人で持つのか?不安が倍増してしまった。
「それじゃ日曜10時に駅の前のカラオケ屋ね」
「わかったよ」
翌日の土曜日、形の上では初のデートを明日に控え、俺は激しくそわそわしている。
そんな気持ちは露知らず、今日も俊之は俺の家に来ていた。前にも言ったかもしれないが、ここ最近クラスが一緒になったこともあり俺と俊之は以前よりも一緒にいることが多くなった。
「なあ樹~飲みもんとかある~?」
一体何しに来たんだこいつは......図々しいが昔からこんな感じなのであまり気にしない。
「お茶だすわ」
「サンキュー」
「ところで俊之、今日は一体何しに来たんだ。何のゲームも勉強道具も持ってきてないみたいだが」
「ああ、ちょっとお前のことが気になってな」
え、ちょっとやだ、こいつもしかして......俺はジトっとした目でみてあとずさる。
「ちっげーよ!俺はノンケだ!」
「すぐノンケっていうやつってホモっぽいよな」
「はあ......人がせっかく心配してきてやったのに。あれからお前なんかずっとそわそわしてるだろ?やっぱりなんかあったんじゃないのかと思ってな」
「そんなに気になるか」
「そりゃそうだ。あの樹がコミュ障をなおそうだなんて言い出したんだぜ!?どういう風の吹き回しなんだよ」
俊之の俺に対する評価って一体......。
「この前聞き出さないって言ったじゃんか」
「気になるもんは気になる。そうだろ?」
「まあわからんでもないが、俺としてもあんまり人には言いたくないんだよな。後々面倒なことになりそうだから」
「けちー」
半分心配半分好奇心なのだろうが上野さんのことを知られるリスクを考えるといくら俊之でも話すわけにはいくまい。
結局俊之はうちの据え置きゲーム機で一緒に遊んだあと普通に帰っていった。友達も多いだろうに、暇な奴だな。
とうとうこの日が来てしまった......。今更どうしてこうなったとか、どうにかして阻止できなかったかとか、きっぱり断ればよかったとかいろんなことを考えてしまうがもう遅い。連絡先を交換してない以上キャンセルもできない。緊張してやたら早く目が覚めたので結構時間をかけて服を選んでしまった。別にワクワクしているわけではない。
上野さんと二人きりなのもそうだがそもそも女子と初めて遊ぶ俺にこれはちょっとおかしいんじゃないだろうか。夢なら早く覚めてほしい。
重い足を無理やり動かして駅前に到着した。十時を少し過ぎている。
ここから見えるカラオケ店ということだったが......お、あったあった。そしてそこには彼女の姿もあった。近づいていくと彼女もこちらに気づいたようだ。
「ごめん、待たせたかな」
「ええ少しだけどね」
お約束のあの言葉はいただけませんでした。
彼女はジャージで来ていた。そうジャージである。この時期にジャージって暑そうだし、いくら彼女がきれいだといってもさすがにこれは......。
「なによ、じろじろ見て」
なんだか俺が朝に服を選んでいたのがばかみたいだった。そうはいってもTシャツにジーンズだけなんだけどな。
「ずいぶんラフな格好だと思ってな」
「なに、私がおしゃれしてきたほうがよかったとか?」
「いやそういうわけじゃないけど......」
「あなたも楽そうな格好じゃない。歌いに来てるんだから別にいいでしょ」
なんか緊張も解けたしこれでいいのかもしれない。
「さ、入りましょ」
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