後期

そんな休日。



既に習慣化してる事務所掃除を、年末に向けて念入りに勤しんでると…


初めての!隼太さま登場!!



むしろ今まで会わなかったのは、避けられてたんじゃないかと、今更ふと思う…



そして、ガラスクロスとクリーナーを携えてる私を映して、ニッと危うい笑みを浮かべながら…


なぜかこっちに近づいて来る!



気まずくて、思わず横の壁に後ずさったら…


途端。



まさかの、隼太さま壁ドン!!



蛇顔なだけあって、蛇のように冷徹で…

だけど恐ろしいほど妖麗な瞳に見つめられ…


睨まれたカエルのように、その視線に縛られたのも、束の間。



「だからァ…


ほんとに危ない世界に、連れてっちゃうよォ?」



「っ…


行かないよっ!危ない世界には!


隼太は行ってるんだとしたら…

長居しちゃダメだよっ!」


咄嗟に飛び出した言葉。



向けられたその人は、初の驚き顔を覗かせて…


瞬時にそれは、妖麗な笑みへと変化する。



「んん…おりこぉさん。


じゃあ掃除も、今日で最後ねェ?

今までありがとゥ、莉愛…」



その瞳は、すごく優しげで。



正しく今まで、隼太の為に費やした出来事が…


全部、報われたような気がした。




心が潤んで来て、そのまま見つめ合ってると…


そのタイミングで奏曲が事務所に入って来た!



私達の壁ドンに面食らって立ち尽くす様子に…


隼太は挑発的な笑みを向けて。


また妖艶に戻ったそれは、再び私を捉えた。



「でも…


そぉゆう強い莉愛は、もっと見たかったね…」



私の髪に指を絡めて梳くように撫でながら、甘く囁く…


相変わらず、魅惑的な振る舞いの隼太。



ふと。


ちゃんと強い意思を出せてたら、まだ飽きられなかったのかな?


なんて過ぎったけど…



ようやく壁ドンを解いて、一生と仕事話を始めた状況に、ほっと胸を撫で下ろす。



すかさず。


奏曲の態度が気になって、その姿を捉えるも…



運んで来た車の鍵を一生に渡して、こっちを見向きもせずに帰って行った。




うそ、なんか怒ってる…?

まさかヤキモチ!?


って事は、ないよねぇ…





そのあとは…


最後の事務所掃除だから、徹底的に頑張って。



一生に、今までのお礼を伝えて。



少し寂しく感じながらも、

なにより気になる奏曲の元へ急いだ。





その様子は…

怒ってるとゆうより、なんだか辛そうで。


まるで涙なく泣いてるよう。




「ね…どした、の?」



「…


ワリ…、今日は帰れよ…」



そんな状態ほっといて、帰れるワケないよ!



「やだ、帰んない…


…一緒に居たい」



瞬間、僅かに見開いた目が…

思い詰めたように私を捕えて。


–––––刹那。



部屋の床に押し倒される…!




そのまま、奪うように重ねられた唇。



その手はいつもより力強く頬を撫でて…

髪に絡んだ指がそこをグシャリとして、また撫でて…


持て余す感情をぶつけるように弄る。




お互いの舌は溶け合うようで…


もうキスだけで達してしまいそうなのに!



荒くなった息で苦しくなっても、

悶えて身を捩るように抵抗しても、


その唇を解いてはくれなくて…




ああ、もうっ…ダメ…っっ!



ギュウウとしがみついて強くビクついた反応で、それに気付いたのか…


「え…」って微かな声と共に、キスが途切れる。



だけどすぐに興奮を煽られた様子で、もっと激しく唇を求めて来て…!


その手は次第に、私の身体まで弄り始める。




よぎるブレーキの言葉だけじゃなく。


敏感になった身体に、奏曲というDrugは強すぎる刺激で…



「…っ、ダっ…、待…っ!」


思わず抵抗してしまう。



なのにその手は収まる事なく肌を奪うと…


柔らかな膨らみとその先端に触れて!




「…っっ、…イヤっ!!」



狂いそうなほど感じる身体が、我慢出来ずに…


思いっきり押し退けてしまった。




ハッとした奏曲は、


「……っっ…、ごめん…」って狼狽えて。



声にならない私は、ただ首を横に振りながら…


余韻に身悶える身体を抱きしめてた。







せっかく求めてくれたのに…


辛そうな奏曲を拒んで、追い打ちかけたし。

感じ過ぎたから、なんて言えるワケないし。



お互い気まずくて、そのあとはすぐに帰る羽目に。




当然昨日も気まずくて、連絡すら取ってない状況。



だけどさすがに、会いたくて…


仕事帰りに寄ろうと決意!



さらには晩ごはんも作ってあげようと、

終業後にモールの食品フロアを訪れた。



そして、手前のリカーショップを通り過ぎようとした所で…


硬直する。




「ねッ、コレとかよくないッ?」


「どれも変わんねぇだろ」


「やる気なッ!

じゃ私選ぶから、支払いよろしく〜ッ」


「チャッカリしてんな、てめ」



周りの注目を集めまくってる、究極の美男美女カップル。



ため息が出るほど見事なまでに秀麗な女のコが、その腕を絡めてるのは犯罪レベルのイケメン…


沖田奏曲。



絡んでる腕を解く事なく、仲良くワインを選んでる姿に…


視線を奪われたまま、立ちすくむ。




「つか、クリスマスどーすんだよ?」


「あ〜、オケッ!

夕方くらいにそっち行くねッ」



その瞬間、走り出してた。





どーゆう事…


クリスマス、そのコと過ごすの…?

しかも自分から催促するなんて…


そのコの事好きなの!?



うそ、特定の相手作らないんじゃなかったの?

ねぇ、誰にも執着しないんじゃなかったの!?



目の前の現実から逃げながら…

頭の中はグチャグチャで…!




こんなトコでデートなんかして…!


今からワイン飲んで、抱き癖でも発揮させる気!?


私が拒んだから、今度はそのコなの!?



やっと求められたと思ってたのに…

結局ヤりたいだけだった…?


途端、視界が歪んで。



気付けば涙で溢れ返ってた。




慌てて、ひと気のない場所に移動して…


それは嗚咽へと変わる。




イヤっ!!

嫌だよ奏曲っ…!


離れて行かないでよ!

他のコと仲良くしないでよ!



お願いっ!!私を見てよっ…!





好きだよ…

大好きだよ!


もう奏曲以外は考えられないし…

奏曲じゃなきゃ嫌だよ…!



その瞳が他のコを映してるのも、

仲良く他のコと話してるのも、


ましてや触れたりするのなんか以ての外で…!



誰にも渡したくなくて、

離れる事なんか考えられなくて、


そんなの耐えられなくて…!



奏曲ナシじゃ居られないって…


激しい嫉妬と独占欲で、おかしくなりそう…!





とっくに、私が…



中毒愛に陥ってたんだね。







ほんとはきっと…


もっと前から好きだったんだ。



気が付けばいつも奏曲を頼って。


その手に触れられると戸惑って。



だけど認めたくなくて!


得体の知れなかった、この中毒感情の兆しが怖くて!



せっかく知らんぷりして来たのに…


なんでキスなんてしたの?



あんなキスされたら、もう取り返しなんかつくワケない!


今さら後戻りなんか出来ないよ…っ!





心より身体の方が素直なもので。



唇から起因した中毒症状は…


身体中の細胞から心の隅々まで蝕んで…




私の全てに、一連の中毒シンドロームを巻き起こす。







だけど、どんなに中毒的に想っても…


その日も、奏曲からの連絡はなく。

私からも、怖くて出来るはずもなく。



あのコとどんな夜を過ごしてるのかと思うと、涙が止まらない。




狂いそうなほど切なくて、

吐きそうなほど苦しくて、


眠れないまま朝を迎えた。





当然仕事も手につかず…



切り刻まれ過ぎた胸は、焼け付くように痛んで。


その熱で縮んだかのような肺は、呼吸まで苦しめ続ける。




「莉愛ちゃん…

その検品、いつになったら終わるの?」



「あ…


っ、すいません…!」



「…


また、恋愛の事?」


呆れ口調の問い掛けに…


沈痛な頷きを返すと、

それに大きな溜息が充てがわれた。




「あのね、莉愛ちゃん…

気持ちは解らなくはないわよ?


でもね?

前々から思ってたんだけど…

仕事に悪影響を及ぼす恋愛なんて、いい恋愛だとは思えない。


そんな恋愛を引きずるより、前向きに頑張った方が、幸せの近道だと思うわよ?」



ドキッ、と覚醒させられた気がした。




とはいえ今までのケースだったら…


そう言われても、気持ちがついていけない…とか。


わかってるけど、簡単に切り替えられれば苦労はしない…

とかで終わってただろうけど。



でも奏曲との事は、悪影響にしたくない。


例えどんな結果になったって、いい恋愛でありたい!



好きだから、大っ好きだから…


ちゃんと仕事を頑張る!!




「店長、すいません…


心を入れ替えますっ!」



改めて、こんな忙しい時期に申し訳なかったと反省。




そんな宣言通り、仕事はスペシャルに頑張ったものの…


終わった途端、スイッチが切れる。




今日は飲み会。


参加をどーしようか、悩む…




正直、会いたくて堪らないし、声も聞きたい。


だけど…



用済みの決定打を下されそうで怖い。




隼太の時みたいに…


このまま連絡ナシが続いたら、それを物語ってるワケで。



だから、奏曲から連絡来たら考えよう!と…


昨日寝てないし、仕事を頑張る為にも仮眠を取る事に。



ケータイを握り締めたまま、ソファに横たわって…



なのに気づけば、朝だった。





その日…


仕事を終えた私は、ガレージを目前に1人佇む。



朝、着信のないケータイを見た時のショックといったら…!



リベンジ目的になってからは、連絡ナシでの飲み会不参加とかなかったのに…


気にならないの!?



この前まで、会うのが当然みたいな反応で…

1日会わないだけでも心配してくれてたのに。




ねぇ、拒んだから怒ってる?

それとも私とのキスに飽きた?


てゆっか、あんな綺麗過ぎるコ相手じゃ敵わないね…



ヤバい、また泣きそう…





ねぇ、どーしようっ…!

すごく、すごく、会いたいのに!


この状況で連絡がないのは、やっぱり…



ぶわっと、不可抗力に溢れる涙。





「…リア、さん?」



突然の掛け声にビクッとして、慌てて涙を拭うと。



「泣いてんすかっ!?

っ、奏曲さんとなんかあったんすか!?」


今から参加な様子のカツくんに、

なぜそーなる的な心配をぶつけられる。



「っ、なんでもないよっ…

コンタクト!

に盛大なゴミが入っただけっ。


てゆっか、なんで奏曲が出てくるの?」



ちにみに視力はいいけど、ありがちな嘘で誤魔化した。



「違うんすか?


ヤ、最近の2人…やたらイイ感じなんで」



「…


そんなんじゃないよ…」


そう見えたのは嬉しいけど、今は…



「そーなんすか?


まァ、奏曲さんも最初から完全否定だったっすけどね…」



だったら聞かないでぇ〜!


わかってても、胸に矢どころか斧が突き刺さる。




「だったら、そろそろ…


本気で俺のコト、考えて下さいよ」



不意に。


今までにない真面目な声と同時、

抱き寄せられる!



思わぬ出来事に、呆気にとられて固まると…



「俺、リアさんが付き合ってくれるなら、エロ得もオンナ遊びも辞めます」


そう耳元に零して、ぎゅっとする。



いきなりな告白と、日頃とのギャップな真剣さに面食らいながらも…



「ちょっ…

カツくんっ、…離してっ?」


「イヤです。

OKしてくれたら離します」



なにその意外な俺様気質!


や、甘え上手なだけかも…



仕方なく、このまま答えを伝える事に。




「ごめん…

OKは出来ない。


気持ちはほんとに嬉しいけど…

好きな人がいるの。


片想いだけど…

その人以外はもうムリなの」



「…じゃあ俺も、

リアさん以外はムリっす」



じゃあ、って何!?

ツッコミたい気持ちを抑えつつ…



「カツくんには、私じゃないよ…


無条件で、エロ得もオンナ遊びもやめたくなるくらい好きなコが、現れるよ。


その時の為にも…

カツくんには真っ直ぐで居て欲しい」



「なんすか、それ…

俺、いつだってストレートっすよ?」



「んん、そうだね。


私、カツくんの…

明るさとか素直さとか、前向きなトコとか好きだよ?

それに、頑張ってるトコとか尊敬してる。


だからこれからも、そんなカツくんで居て欲しいし。

それを汚さないで欲しいし。


本当はいいコだって信じてる。



私には、そうやって見守る事しか出来ないよ」


断りの言葉で締めくくりながらも。



私に気持ちがあるなら、少しでも伝わるかな?と…


売人してる事への微かな足止め。



絶対口外禁止につき、かなりファジーな表現しか出来なかったけど…


カツくんの気持ちに対する、私なりの誠意。




少しの間、そのまま黙ってたカツくんは…


再度ぎゅっとして。



その片手を私の後頭部に移動したと同時…


チュッ、とおでこにキスを落として。

「あっ…!」と零した。



一瞬の出来事にキョトンとしたものの…



「"あっ!"ってなんなの!?

なにその、ついやっちゃいました的な反応!

てゆっか、いい加減離してよっ」



「ヤ、そーじゃなくてっ…

つっか、リアさん可愛いっ!」


笑いながら、ようやく腕を解いて…



「じゃあ見守ってて下さい!


けど、まっすぐ頑張っても無条件に好きなコが現れなかったら…

そん時は責任取って下さいねー!」


そんな脅迫めいた冗談を零しながら、

ガレージへ誘導するように歩き出す。



一気に抱えてる現実に引き戻されて、

咄嗟に。



「ああっ、今日はっ…

参加出来ないって伝えに来ただけなの!


だからっ…

カツくん伝えといてねっ!」


返事を待たずに、走り去った。




ああ〜〜!!

会いたかったのにっ!



だけど、覚悟が決まらない。



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