中期

私って、魅力ないのかな…



相変わらず毎日キスに通っても…


やっぱりその先はなくて。



だいたい!禁欲生活の若者なのに、ヤリたくなんないのっ!?


私はこんなに奏曲を求めてるのに…



そこで、とある言葉がふと過ぎる。


ー「誰も好き好んで触んねーよ、そんな貧乳!」ー



もしかしてこの貧乳が原因!?



うそ、どーしよう…


誰か、速攻性のあるバストアップの方法知らないかな!?



いや、そんなのあれば誰も苦労はしないよね…





悶々とした日々の中。



今日も2人分の晩ごはんを作って、愛しいキスフレの所に向かおうとした時…


降り出した雨。



仕方なくバスでカーサービスを訪れると。


奏曲の部屋がある建物からユリカが出て来て…


動揺する!



うそ、なんで…


そーいえば、すっかり忘れてたけど…

2人はどんな関係なの!?



ー「奏曲クンとユリカの方がなんかありそーだけどな」ー


追い打ちのように、頭に甦るヒロの言葉。



胸がやたら苦しくなって…


1度は掠った視線を逸らしたまま、その横を通り過ぎた。




「ねーぇ?

ちょっとハナシ、付き合ってくんなぁ〜い?」


なのに、呼び止められる。



一瞬ためらったものの、断わろうとした矢先。


「いーよね?そんくら〜い。

前にあたしと居た奏曲呼び出してぇ、ジャマしたよね〜?」



ゴキ事件の時だよね…?

それを言われたら…



渋々頷くと、

「あ〜、やっぱビンゴぉ?」


って、カマかけだったの!?



とはいえOKした手前…


その車に乗せられて、近くのコンビニ駐車場に場所移動した。





「てーか。奏曲とはもうヤったぁ?」


1番気にしてる所を、真っ先に突かれる。



こ、答えたくない…



「ふーん…

その様子じゃまだなんだぁ?


じゃあ一体ど〜やったの?

どーやってあの2人、手懐けたワケぇ?」


「…、あの2人って?」


「一生と奏曲に決まってんじゃぁん。


なんこ〜不落の一生をオトシちゃうしぃ。

奏曲のオンナ遊びやめさせたのも、オネーサンだよねぇ?」



そーだけど…

別に手懐けたワケじゃ…



「私はただ、友達付き合いして来ただけだよ…」


「ダチ〜?ソレじゃなんのヒントにもなんないじゃぁん…


じゃあ、隼太にはー?

…ど〜接してた?」


「え、隼太?


お世話(ロボット)、してたかな…」


「ぷはっ!オネーサン天然〜?

てーか、世話ならみんなしてたし…


あ〜!マジ使えなーい。なんかヒントとかないワケぇ?

こっちはオネーサンのせーで、サイコーのセフレ失くしたんだしさぁ」



年下になんて言われ様なんだろう、私。

てゆっか、なにその言いがかり…


「私の、所為?」


「そーじゃぁん。

奏曲、サイコーにイケメンだしぃ?

身体の相性もいーし。

イチバンのオキニだったのに、遊んでくんなくなったんだからさぁ」



瞬間、激痛と共に胸が潰れて!

息が止まって、心臓が乱れて!


激しく動揺する私を…

ユリカが捉える。



「へーぇ…そっち?安心した。


まッ、オネーサンも安心してよ?

奏曲とはただのセフレだから〜。


あいつとあたし、似てんだよねー。

特定の相手作んないトコとか、

…誰も好きに、なんないトコとか」


そう言って切なげな顔をしてた事は…


余裕なんかなくて、気づかなかった。







胸が…


…苦しいっ!!



とても会える気分じゃなくなって、

そのまま家に帰って打ちひしがれる。




1度は奏曲の彼女だと思ったくらいだし。

特別な関係だとは予想してたはずなのに…


今はその現実が苦しくてしょうがない!




嫌だ、嫌だ、イヤっ…!!


例え過去でも、知ったら辛いよ!



だって私はキスフレで、それ以上の対象には見られないのにっ…


ユリカとはセフレで、きっと何度も…



もう胸が痛くて、やり切れないよ!




ねぇ奏曲っ…


ユリカと比べて何が足りない?

私じゃそんなダメ!?



ねぇ…


私を見てよ…!



自然と涙が込み上げて来て…


もう誤魔化せない。





奏曲が好き。





認めた途端、ずっと封じ込めてた想いが一気に溢れる。





だけど現実は変わらない。



ー「特定の相手作んないトコとか、

…誰も好きに、なんないトコとか」ー


ー「俺は誰にも執着しねぇよ」ー







次の日、落ち込みの中 仕事を終えると…


履歴に奏曲からの着信。



すぐに掛け直すと…

聞こえた声に、胸がキュッとなる。



「昨日、どした?…なんかあったか?」



待っててくれたのかな…?


別に約束とかしてないのに、会うのが当然みたいな反応に…


嬉しくて泣きたくなるくらい。




「ん…、雨降ってたから」


「だったら連絡しろよ、迎え行ったのに…」


そう拗ねる声が…


更に胸を締め付けて、言葉に詰まる。



「…ダリア?


つか、マジどした?…元気なくね?」



「うん…


奏曲に、会いたい…」



「っ…!


ん、会い行くよ…今どこだ?」



嬉しい言葉に甘えたくなって…


職場に乗って来たバイクを戻す為にも、私の家に来てもらう事にした。





近くだから先に着いて、部屋で待ってると…


到着した奏曲から、「メシ行くぞ?」ってマンション下に呼び出される。



作ってあげたかったけど…

遅番だったから、気遣ってくれたのかな?




そして驚く。



「え、バイク!?」


「ワリ、久々乗りてかったし…

あんま営業車で店ウロつくのもな」



そりゃそーだろうけど、それ以前に!



「身体っ、治ったの!?」


心配でつい、口を滑らせてしまった。



「…は?


オマエ、知って…!



マジかよ…

つか、それで俺と…」


片手で頭を抱え込んで、困惑する。



「えっ…と、うん…

カーサービスの人から、耳に挟んで…


ほんと、ごめんね…」


「っ、オマエのせーじゃねぇし!

もうヘーキだから気にすんなよ。


つか俺も、隼太さんの件じゃ責任感じてっし…

これでおあいこな?」


そのフォローが…



私をかつてない衝撃で打ちのめす!




それでなのっ!?


責任感じて、いつも優しくしてくれたり無理したり…


あの愛でるようなキスも、慰めだったの!?




だからその先には進まないんだ…


ヘンに期待を煽られてただけに…

あまりのショックで、とてもごはんなんて。



だけどそれでも、一緒に居たい。





もうなんでもいいよ…

隣に居れるなら、なんでも。


だってこの気持ちはもう、後戻り出来ない。




なぜか奏曲まで元気ないけど…


タンデムシートから眺めるその背中が愛しくて。



信号待ち。



グリップを掴んでた手を、その腰に回して…


ぎゅっと、抱きついた。



「…っ、…寒ィか?

つか安定すっから、これからもそーしてろよ」


そう言ってくれたのが嬉しくて…


返事の代わりに、もっとギュっとしがみついた。



寒いけど、寒くないよ?


奏曲が心にあったかい。



ねぇ、好きだよ。





それからはお互い、いつもの調子に戻って…


ファミレスでは、楽しく会話を弾ませた。



周りの奏曲視線は、軽く気になったけど。







「そろそろ帰るか」


今1番聞きたくないひと言と、

このまま送り届けられそうな雰囲気に…


ええっ!もっと一緒に居たいっ!

し、まだキスしてないじゃん!



「ねぇっ…!

奏曲の家に、泊まってい?」


思わず出た言葉。


驚きを引き連れて、呆然と固まる姿が目に映る。



「オマエっ、どーゆーイミかわかってんのかよ!」


「わ、わかってるよっ」


誘ってるって事でしょ?

誘ってるもん!


なのに…



「わかってねぇな、コイツ…」


と頭をグリャリ。



「ダメ…?」


「ダメ。

俺は1人じゃねぇと寝れねーの!」


「なにそれっ!ユリカはOKなのにぃ!?」


とそこでまた口が滑る。



「…あァ!?


…オマエっ、やっぱ昨日来たんだなァ?

つかアイツになんか言われたのかよ!?」


「別にっ、ただの世間話しただけだよっ…


…てゆっか、

最高のセフレだったんでしょっ!」


お泊まりを拒否されて、ヤキモチが炸裂。


途端、本気で焦る奏曲。



「…っっ!


オマエと出会う前なんだからっ、

しょーがねぇだろ…!



けど、ごめん…」



なんで謝るのぉ!?



わかってても、直接本人から認められた衝撃は桁違いで!


なのに彼女扱いみたいに謝られたら嬉しくて!


もう胸が大乱闘。



おかげで、それ以上何も言えなくなった。





そんな気まずい空気も、束の間。



「掛かるの早っ!」


最近は寒くて、セルスターターでもエンジンの掛かりが悪いのに…


ましてやキックなんか、冬は30分奮闘してる人もいるのに…


なんて鮮やか!



「ったりめーだろ。誰だと思ってんだよ?」



奏曲さまっ!!




そんな奏曲さまは、やっぱり優しくて…


結局いつも、私のリクエストは聞いてくれる。





「俺、下(休憩所)のソファで寝っから、ベッド使えよ」


なのに間違った方向へ…



「ええっ!一緒に寝ないのっ?」


「少しは意識しろよ!」



してるもん!

むしろ、しまくってるよ!


「お願いっ!一緒に眠りたいのっ…」



「オマエは鬼か!俺を殺す気かァ!?」


「殺さないよっ!どっからそーなるの!?」


「そーゆーイミじゃねぇよ!


あ〜!

このクッソ小悪魔が…」


最後の呟きは聞こえなかったけど…



やっぱりリクエストには応えてくれる、優しい奏曲。




2人してベッドに埋もれて。


すぐにその身体に抱きついたら…



「オイっ…」って戸惑いつつも。

その後ちゃんと抱き包んでくれる、愛しい体温。



私にしては、考えられないくらい大胆な行動だけど…


奏曲を求める気持ちが、止まらない。



とはいえこの体勢で抱き合うのは、相変わらず刺激が強くて…


心臓が狂い疼く。



最中…




もう眠ってるっ!?


ウソ、信じらんないっ!!

今日はお酒も入ってないのに、この状況で寝ちゃうっ!?


私、そんな魅力ないの!?



ひどい…




悪足掻きのように、目の前の首元にキスを落とすと…


微かにビクついて。


すかさず軽く跳ね退くと同時、私まで軽く押し退けられる。



「…っっ、なんだよっ…


キスマークの練習かァ?…っ練習だよな!

したコトねぇっつってたもんなっ?」


やたら動揺した様子で…

流れを別に向けられた!



だけど、ふと何かに気付いた様子で…



「つか、しろよ練習。…ココ」


スウェットの首元をグッと引き下げた手で、鎖骨下を指差す。



男の色気漂う鎖骨に、ドキドキと誘われて…


その提案は嬉しいかも!と乗っかる事に。




だけど吸う力加減がわからなくて、なかなか付かない。



「もっと強く…」


後頭部に添えられた手に、押しつけるような力がこもる。



それは私を求めてるようで…


なんだか興奮を煽られる。




「あ…、ついた…!」



「ん…


もう、オマエのモンだってシルシ」



その言葉に、心を鷲掴みされた気がした。




「私の、もの…?」


掴まれた心を激しく揺さぶられながら…

指でなぞって視線を向ける。



奏曲は、切なさを纏った愛でるような眼差しで頷いた。




ねぇ、それは…

キスマークの意味?


それとも、奏曲の事?



なぜだか胸が、やけに切なくなる。




途端。


今の行為に触発されたのか…

クルリと抱き倒されて!


今度は上になった奏曲から、覆うように唇が重ねられた。



急変な態度と、重なる体勢。

それに、自覚した好きの気持ちが合わさって…


胸が、凄まじい衝動で暴れ出す!




2人して、荒くなる息遣い…


縋るように抱き合って、

求めて欲して…


このまま最後まで進んじゃいそうなのに!



「…っ、オマエっ…

反応、し過ぎじゃね…?」



キスだけで、やたら身悶えする私に…

掠れ声が零される。



「ん…っ、なんかっ…

この体勢、ヤバイっ…!」


「っっ…



ワリ…っ、俺やっぱ下で寝るわ…」


そこで突然、キスと身体が解かれて。




えええっ!!奏曲ぁっ!?




慌てて引き止めるも…


そのままバタンと、ドアの外に消えてしまった。




嘘でしょ…

ひどすぎる…


結局それ以上は進まずに、1人ぽつんと残される。





心に傷を負いながら…


この仕打ちの原因を、頭に箇条書く。



・貧乳だから

・奏曲にとって魅力ないから

・罪悪感からの慰めだから

・あとは…



そっか!女遊びをやめたから!


あぁ〜!ヘンな約束しなきゃよかった…




だけど。


遊びもせず、特定の相手すらも作らないなら…

この先ずっと禁欲生活するつもり!?



そんなの無理だよね…?





ねぇ、奏曲…


私が"好き"って言ったら、どうする?



つい最近まで隼太をあんなに好きだったから…

信じてもらえないかな?


それどころか呆れられちゃう?



や、キスフレ自体ほんとは呆れてるかも…




隼太との別れに責任感じてるから、優しいんだとしたら…


吹っ切れた地点で、お役ご免になって離れて行っちゃうかな…?



そ、それだけは避けたい。




だいたい。


女に偏見持ちで、誰にも執着しない奏曲は…

そんな感情迷惑かな?


逆に一線引かれちゃう?



むしろ!

こんなに迫ってるんだから、もはや気持ちバレバレで…


既に一線引かれた結果、キス止まりとか!





なんにしたって…


諦める事なんか出来ない。



求める気持ちは止まらないし…

側に居られるなら、何でもする。


てゆっか、離れる事すら出来ないよ。




だけどそれからも、キスより先には進まなかった。







そんな週末。



ガレージに向かう前に、あまりの空腹でコンビニに立ち寄ると…


同じくっぽい、奏曲と一生を発見。



デリカコーナーで話してる2人に声掛けようとした、瞬間。



「…だから、莉愛の事だよ」



聞こえた自分話題に、慌てて棚影に身を潜めて…


気になる内容につい聞き耳を立てた!




「お前ら、付き合ってんだろ?」


「っ…、なんでそーなんだよ!」


「そりゃあ…

お前んち通ったら、いつも莉愛の単車停まってるし?」



言われてみればっ!

なんてオープンな行動を取ってたんだろう…


なんだか恥ずかしくなった、途端。



奈落に突き落とされる…




「…っ、だからって、

アイツとはそんなんじゃねぇよ」



確かに、そんなんじゃないけど。


ただのキスフレだし、

奏曲は誰も好きにならないし、


わかってた事だけど…!



だけど!

本人の口から、そんなハッキリ言われると…



どうしようっ…


悲しくて、切なくて…



さらに追い討ちが掛かる。




「じゃあ、莉愛に気持ちがあったら?」



ドキッとしたその問いかけに…


気になる応えは、間が空いて。




ー「しょーがないじゃんっ!

好きな人には何も言えなくなるんだもん!


怒れないし、ノーも言えないし…

あと、会いたいとかも」ー




何考えてるんだろう?と、不安の矢先。



「っ…、ありえねぇよ」


胸を引き裂く言葉。





私じゃ、恋愛対象として…

ありえないって事…!?


思わず、込み上げて来た涙。



慌てて、見つからないようにトイレへと逃げ込んだ。







悲しくて、辛くてっ…!


しばらく泣き溢れた後。



このまま帰ろうかと思ったけど…


自覚した"好き"が、会いたさを止められなくして。



必死に悲しみを落ち着けて、ガレージに向かった。




いーよ、側に居れるなら…





〈〈罪悪感からの慰めでも。


寂しさの紛らわしでも。〉〉





「それでもいーと思う俺は…

救いよーのねぇバカなのかもな」



ガレージにて。


コーラを飲みながら、ノンキに意味不明な事を呟く奏曲。



「…なんの話?」


「…


なんでもねーよ」


「…


だったら心の中で呟いてよ」


「オマっ…

やけに挑発的な態度だなァ?


なにキレてんだよ」



だって、なんだかムカつくし…

気を緩めたらまた、泣きそうだもん。


とそこで、奏曲がレディースの所に呼ばれた。



その後ろ姿を見送りながら、盛大な溜息を零すと…



「奏曲となんかあった?」


心配してくれる、相変わらず優しい一生。



そういえば、さっきの話からすると…

私と奏曲が付き合ってると思ってたんだよね?



なのに、こんな風にいつも心配してくれて…

事務所掃除の時も、変わらない態度で接してくれてて…


なんて優しいの!



その優しさに触発されたのか、抑えてた涙が滲んできて…


慌てて引っ込めようと奮闘するも。



「だからっ、俺の前じゃ我慢しなくていいって」


それを柔らかく笑って、私の頭をクシャクシャ撫でるその人。



てゆっか…


それまだ有効!?

完全に振ったのに!?



あまりの優しさに、もう涙は手に負えない。



慰めプランの時みたいに、撫で続けてくれる一生を前に…


何でこんなイイ男を好きにならずに、いつも厄介な男を好きになるんだろう!


と自分を恨む。





「ありがとう、一生…

おかげでスッキリした。


なんかもう、ほんといつもありがとう…」


「全然いーよ。


けど…

けっこう重症だな」



え…、何が?

瞼、そんな腫れてる?


すぐさまイベント用手洗い場の鏡へ、チェックに向かった。




別に重症ってほどじゃなかったけど。

一応ハンカチで少し冷やして、メイク直しで誤魔化して…


ひと安心して、その場を抜けると。



視界の真ん中に奏曲が映った。



ちょうどユリカも一緒に居て…


2人の話してる姿に、ものすっごい不快感が押し寄せる。



せっかくスッキリしたのに、また悲しみまで込み上げて来る始末。




だけど、どーやったって愛しいその姿を…


暫し見つめ倒す。




もうっ…

そのカッコよさ犯罪!!


私は好きだよ、奏曲…




そんな私を視界に入れたチラ見から、

驚き顔で2度見に移る奏曲。


突然絡んだ視線に、やたらドキッとして!

思わずそれを逸らしてしまった。





その日の帰り。



「ねぇ、部屋上がってってよ…」


バイクで送ってくれた奏曲を、引き止める。



いつもは拒むクセに、なぜか今日は…


「ん、そのつもり…」



予想外の反応に、胸が高鳴る。




そして部屋に落ち着いてすぐ、その反応のワケがわかった。



「…なァ、なんで泣いてたんだ?」



気付いてくれてたのも、そーやって心配してくれるのも、嬉しくて。


なのに、つい憎まれ口。



「…奏曲には関係ないでしょ」


だって、ほんとの事は言えないし。



すると。



「…っ、俺だって慰めんのに…」


悲しそうに拗ねるから…



思わずキュンとくる!


ああ、もう…

大好きっ!!




「んっ…ありがと…

けどもう大丈夫だから…」


とゆうか奏曲の所為なんだけどね…



「…


なら、いーけど…

つか、なんであんな目で見てんだよ…」


「えっ…

あんな目って…?」


「っ、だからっ…

とにかくっ、見てただろ!俺のコト…」



あれだけ見つめ倒して、不自然に逸らしたら…


言い逃れ出来ません。



「見てたけどっ、何でもないから!」


「なワケねーだろっ!言えよクッソダリアァ」


「ほんとに何でもないって!

いつもの事だから気にしないで!」


相変わらず、口を滑らす私。



「…あァ?

…いつも、って…」


「ああ〜!っと、コーヒー淹れるね!」



しまった!と思いながら…

わざとらしくていいので、かわします!


立ち上がろうとした所で、

掴まれた腕がグイッと引かれて…



身体が、奏曲の腕の中に埋もれる。



途端!顎を持ち上げられて、

腕を掴んでた手は後頭部に回されて、


唇が塞がれた。




もう何十回とキスを繰り返して来たのに…


慣れるどころか、重ねる度に強くなる反応。



しかも今日は、いつもより激しくて。


愛でるような優しさはそのままだけど…

つーぅ、と唇を這う舌はやたらと挑発的で、官能的で…


堪らなくなる。




その瞬間。


離れた唇が、フッと首すじに降りてきて…



そこに、キスDrugが注がれる。




「うわあっ!」


奏曲に感電したみたいに、そこから身体中に甘い刺激がほとばしって!


それだけじゃない。



ー「ありえねぇよ」ー


過ぎった言葉が、望んでた行為にブレーキをかけた。



思わず怯んだ身体で、目を丸くしてると…


同じく丸い目で戸惑ってた奏曲が、誤魔化すように場を流す。



「もーしねぇよ、ケーチ!」



そうじゃないよ…


行き場のない気持ちに埋め尽くされそうで、その先に進むのが怖くなったんだよ。



「だから、そんな困った顔すんなって!」



そうじゃないよ…


なのに進みたくて、奏曲を求めてて、切ないんだよ。





首すじに残る、唇の感触は…


甘い傷痕みたいに疼いて、私をいつまでも悶えさせた。






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