罪な男

次の日は…


店長の日曜欠勤で遅番な上にさらに遅くなったから、飲み会は不参加で。



その後の休日は…

いつものように事務所掃除へ。




「お疲れ、一生!


えと…、これありがとっ!

すっご〜く助かったよ」


肩に掛けてた袋から、借りてた上着を取り出した。



この前の飲み会も、帰りは奏曲が送ってくれたから…

バイクの寒さ凌ぎにそれは、かなり重宝させてもらった。



「それでねっ?

お礼にまたお弁当作って来たんだけど…

お昼まだだよねぇ?」


「マジで?スゲぇ嬉しんだけど!

今手ぇ空いてるし、早めの昼にする?」


一生には珍しく、少しハシャいだ反応。



最近は、クールな一生の新しい一面が見れて楽しい。


し、心を許してくれてる感が嬉しい。



早昼提案に大賛成して、早速。

上着&フリードリンクにしてくれたお礼のお弁当を出しながら…


ふと、一生がいなかった日の飲み代はどーなったんだろ?って過ぎったけど…

知ってるワケないか、と流した。




食べ始めるとすぐ…


例のごとく、積載車で奏曲登場。



少し口を尖らせて、冷めた目でお弁当を映しながら…

無言の威圧が向けられる。



「そ、奏曲もお昼まだなの?

って、まだだよね…」


時計の針は11時ちょっとを回った所。



「…別に」



それは何の答えにもなってないけど…

その反応は拗ねてるよね!?



軽く吹き出す一生を前に、

奏曲はバツが悪そうに煙草を取り出して…

食事中な事にハッとして、それを置く。



「ごめんね?

だって奏曲、いつ来るかわかんないし…


…食べる?」


箸で掴んでたエビフライを差し向けると…


奏曲は瞳を大きくして、停止する。



「い、いらないならいーけど!」


虚しくシカト状態の箸を引っ込めた、途端。



「食うよ!」


持つ手がグイッと掴まれて。

その先の箸からバクっと、エビフライが口に消えた。


そんな事で、なぜか胸が妙に騒ぐ。



「ウマっ」


不意にほころんだ顔に…


余計騒ぎが大きくなって、戸惑うと。



「ヤベ、つか戻んねぇと!」


思い出したかのように、慌てて去って行った奏曲。



ふう、と一息のあと食事に戻ろうとして…

一生の意味深な視線に気づく。



「…ん?…なに?」



だけど寂しげな笑顔で首を横に振るだけ。



「…ねぇ、一生?

何かあったら、私で良ければ相談のるからね?」


それに対しては、アハハと笑い出す始末…



「なんで笑うのっ?」


「ヤ…

そのうち相談するよっ」


今度は含み笑う様子。



「つぅかアイツ、煙草忘れてるし」


そしてそう切り替えて来た視線の先には、テーブルに残された奏曲の煙草とライター。



お弁当に気を取られ過ぎだよ…

と思いながらも。


「ほんとだね…私が帰りに届けるよ」



「え?

ヤ、ストックあるだろーし、どーせすぐに取り来るよ」


「そっか…

まぁ来なかったら持ってくよ、帰り道だし」




食後は、一生と会話混じりにのんびり掃除して…


夕方になっても奏曲は来なかったから、

結局帰りに沖田カーサービスに立ち寄った。





「わざわざ、悪かったな」


「いーよ、帰り道だし。じゃあまた週末ね?」


まだ仕事中な様子に、さっさと立ち去ろうとすると…


「あっ、」っと躊躇いがちに引き止められる。



「もーすぐ終わっから…メシでも食い行くか?

…奢ってヤルよ」



おおっ、奢りっ!?

煙草届けたくらいで、なんて義理堅いの!


タダとか割引はもちろん、奢りだって大好きな私は…



「行くっ!」


当然ありがたく頂きますっ!



「ぶはっ!

目ぇキラキラさして、どんだけガメついンだよ!」


「ガメっ…!

そっちが誘ったんでしょ!」


「そーだけどっ!

つか、なに食いて?」


「えっ、じゃあ…焼き肉っ!」


「…てめ遠慮しろよ」



そーやって楽しくジャレ合ってると…



「ソーマさ〜ん!

ちょっとプラグ見てくれますー?」


敷地内に入って来たCB400から、男のコが声掛ける。



「ワリ、すぐ終わらせっから、中で待ってろよ」


少し焦った様子で、私を休憩所に促す奏曲。



どっかで見た事あるコだなぁ…


そう思いながら、休憩所に向かって身体を翻してた時…

そのコと視線が掠った。



「あ、ステッカーの人」



そして背中から聞こえた声で、記憶が繋がる。


帽子屋に訪ねて来て…

私からステッカーを買ってくれたコだ!

確か…彼女も一緒に!


すぐさま振り返って、改めて見たその顔に確信するも…



「早く行けって!」


軽くキレ口調で急かす奏曲に遮られる。



それに戸惑いつつ、とりあえず再び休憩所に向かおうとすると…



「やべ、秘密でしたっけ?」


ボソッと、またしても聞こえた声。


それで、一連の状況パズルが組み上がる。



「もしかしてっ…

このコの分、奏曲が頼んでくれてたのっ!?」


勢いよく向き戻って、驚きをぶつけた。



「っ、ちげえよ!」


「嘘つかないでっ!バレバレじゃん!」


ムキになって否定する姿や、

このコが来てから焦ってた様子に、

もはや断定を示すと。



「ソーマさァん、隠すコトじゃなくねっすか?」


アッサリ認めた、割り込み発言。



「…オマエ帰れ。もーやってやんね」


そのコに、氷点下の視線が向けられる。



「そんな〜っ!

ステッカー、俺のオンナも協力したじゃないすかァ!」


「うっせ!空気読めバカ!」



そんな2人のやり取りに、割り込んで仲裁を下す。



「キミ!

正直に話してくれてありがとうっ。


奏曲!プラグ見てあげて。

私はゆ〜っくり待っとくから」


後半は、不満を露わに裁決を言い渡すと…


顔を覆って溜息を零す奏曲。





実際、助かったとはいえ…

複雑な心境で、休憩所から奏曲を眺めた。



だって自分の売上にすれば、そのバックや評価に繋がるだろうし…

だから余計、助けてもらう筋合いとかないワケで。


しかも私は、それを知らずにノンキに奏曲に自慢して…


なんだか逆に、情けなくてツラいんですけど。



思惑の当事者は…

惚れ惚れするほど、手際よく軽やかにバイクを整備してて。


てゆっか。



なんかズルいなぁ…



そのビジュアルで、

職人的な仕事もカッコよくこなせてて…


しかもいいヤツだし。




あぁ、なんか…


胸が気持ち悪い。







「で…

何人に頼んだの?」


念のため、さっきのコとその彼女以外にも頼んでないか…

全作業が終わった奏曲に、休憩所で問い詰める。



「………、8、人」


言いにくそうに告げられた事実に…


驚愕する!



「8人っ!?残り全部じゃん!!」


念のために聞いただけなはずが…


恐ろしい結果に、頭が付いていけない。



「なんなの…

私だって、頑張ったのに…」


自分の無力さと、全く実ってなかった努力に…

ガックリと肩を落とし尽くす。




「ワリ…


ほっとけなくて…、」



だけどそんな言葉を…

眉をひそめて、戸惑いがちに零されて…!




ズキューン!と胸が撃ち抜かれる。




ほ、ほっとけないなんて…!


今までさんっざん貶されて来たけど…

そんな風に思ってくれてたなんて!



あぁ、どーしよう…


奏曲ってなんだか、罪な男だよね…




や、そーじゃなくて!



「でもっ…、ありがとう…」


ここまでされて、もう感謝しかありません。


そんな私に…



「つか、オマエの力だよ…


頑張ったから、こーゆーラッキーが起きたんだって…そう思っとけよ」


照れくさそうに零して…



「だいたい、俺に助けたいって思わせたのも、それもオマエの力だろ?」


そう続けた。



その言葉は…


私をどーしょうもなく嬉しくさせて…



ああ、もう!この人なんなのっ…!


胸のざわめきが、痛みまで巻き起こす。




「…っ、んっ…ありがとう…

今日はもう、帰るね…?」


「はァ?

っ、そんなキレてんのかっ?」


焦る奏曲に、すかさず首を横に振る。



「そうじゃなくてっ…

なんか、そんな気分じゃ…」


いつも送ってくれるし、こんな助けてもらっといて…

そんな人に奢らせるワケにはいかないよ。


いくらケチ体質な私でも、それくらいの遠慮心は持ち合わせてる。



それに。



クールダウンしないと!


今の自分が手に負えない…



「とにかくっ、ありがとねっ?

じゃあ週末…」


逃げるように立ち去ろうとすると…



「ダリアっ」


腕をガシッと掴まれて。



「うわあ!ムリムリムリっ!」


感覚が、ビクッ!と警音代わりに弾けて、慌てて掴む手を振り解いた。



そんな風に拒否して、奏曲を傷つけてた事も考えられずに。




あぁ…


隼太との間に、こんな嬉しいざわめきが起きないかなぁ…





だけど。


心待ちにしてた週末の飲み会は…

隼太が来ない情報を得て、参加せず。


会いたい気持ちは、日曜日に繋いだ。







「…どしたの?

なんか、元気なくない?」


日曜の飲み会で、テンションが低い奏曲に問いかける。



「………、別に」



出たよ…

来た早々からなに拗ねてんの?



「もう…

言ってくれなきゃわかんないよ?」


その顔を覗き込むと、呆れ顔が返される。



「…


ノンキなもんだな…

つか怒ってねぇのかよ?」


「え、私っ?

…って、この前の事!?

それ、怒ってないってゆったよねぇ?

むしろっ、感謝してるよ?」


「…

だったら、拒否んなよ…」


「あれは…

遠慮しただけだよ…」


「っはァ?

イミわかんね…

あれのどこが遠慮だよ?」


「ええっ?なんの事言ってる?」


なんだか噛み合わない私達。




「2人とも難しい顔して…どした?」


そこに、他の幹部と絡んでた一生が戻って来た。



「…んん、なんか奏曲が意味不明で」


グチを零すように伝えると。



「てめーだろーがっ!」


例のごとく、また片手で頬を包まれる。



「いいっ…いい加減やめてよっ!」


慌ててそれを払いのけるも。



「っ、別に痛くしてねぇだろ!」


「でもドキドキするからやめてっ!」



クールダウンしたとはいえ…

触れられるのは落ち着かなくて、思わず本音が吐き零れる。



「…は?


っっ、何言ってんだよっ!」


「…っ!

べっ、別に深い意味はないよっ!」


「っ、あってたまるか!」



あってたまるか…


…なんだか傷付く。





そんな私を追い討ちするように。


そのあとカツくんと一緒にやって来た隼太は…

さんざん眺めても、今日は目すら合わせてくれなくて。



こんなだったら、傷付けられても話せる方がずっとマシだったと…


落ち込みの中、その日を終えた。







こんな時は、元気の素…

大好きな沖田総司&新撰組!



次の日の仕事帰り。


明日は休みだし、車屋も定休日だから…

まだ見てなかった新撰組ドラマを一気見しようと、それをレンタル。



お酒とともに楽しんで…


途中で力尽きる。




昼頃に目覚めて、続きを見始めるも。


昼間っからだけど、鑑賞飲みしたいな…

でもお酒切れちゃってるし…


よしっ、ちょっと買い行こ!


そう思い立って。

この際いっかと、スッピン&スウェット姿で近くのコンビニへ。




そして買い物を終えて、歩き始めると…


クラクションに呼び止められる。



「莉愛、今日休み?」


横に停まった車から、一生の声かけ。



ウソ、私っ…

こんな状態なのにっ!



「い、一生っ!状況読んでよっ」


「ごめんっ、俺得だったからつい!」



また俺得!?


とはいえ、そう笑う一生はほんとに嬉しそうで…



「つぅか…今から酒?」


だけど、袋から透けたそれにツッコミを頂く。



言い訳するように状況を説明すると…


「いーね、鑑賞飲み。俺もしたい」



「え…

でもっ、新撰組だよ?」


「ドラマのヤツだろ?

途中まで見てたから、最後まで見たいし」



まぁ、一生は真面目だし。

どうせいつも車屋で2人っきりなワケだし…


「…じゃあ、一緒見る?」



そうして、車を近くのコイパに停めた一生と鑑賞飲みへ。


帰りの運転は、友達に来てもらうらしい。





「なんかこの俳優、適役じゃね?」


「思う!

今までの沖田総司で1番しっくり来るかも…!」



成り行きとはいえ、2人だとさっきまでよりずっと楽しくて…


一生の存在に感謝しながら、あっとゆう間に3分の2まで制覇した。




「…どうする?まだ見る?」


「ん、莉愛がいーなら」


「私はいーけど、時間大丈夫?

どっか行くとこだったんじゃないの?」


「ヤ、帰りだよ。ガレージ片付けてて…

ここ、通り道だからさ」


「そっか、もうすぐガレージ飲みだもんね」


「ん、けどその前に奏曲の誕生会で使うから」


思わぬ単語に、

飲んでたジーマを軽く吹き出す。



「っ、誕生会っ!?そんな事するのっ!?」


不良チームだよね!?

ヤクザ絡みでジャンキーシンドロームな、不良チームだよねっ!?



「あれ、聞いてない?

まぁ、一種の金取りイベントだよ。

会費、1万円だし」


「い、1万えぇんっ!?」



有名人か!とツッコミたくなる前に…

参加者いるの!?


つくづく自分の常識じゃ付いていけない世界観に、驚きながらも…



「…てゆっか、奏曲 誕生日なんだ?

いつ?」


「…、来週の火曜だよ」



1週間後じゃん!



どーしよう…

いろいろ助けてもらってるし、なんかお祝いしたいな。


そう思ってふと、視界に映る姿に…



「一生はいつなの?」


同じく、助けられてばっかだもんね。



「7月だよ?もう過ぎたけど」


「そーなんだ?じゃあもう19なんだね!

その時も誕生会したの?」


「ヤ、俺そーゆーの苦手だから。

それに…」


続いた一生の話によると…


誕生会は、レディースを含む幹部強制参加みたいで。

お祝いだから、会費も全員徴収との事。


そうなるとトップ5だけ開いたとしても、みんな若いし金銭的にキツイから…

リーダーの隼太と、次に収益が上がる奏曲だけが開催されるらしい。



隼太って、なんでもお金に変えちゃうんだね…



「で、莉愛は?…参加する?」



したいけど…

1万円か…


「んん…、ちょっと、高いかな…」



だってガレージ飲みが始まると、これからは飲み代も発生するワケで。


なにより、隼太の誕生日は来月だから…

その誕生会は絶対参加したいし。



ごめん、奏曲。


だけどプレゼントはしたいから、その出費とか…

せっかくだから一生にもって思うから、それも考えると…


参加は控えさせて頂きます。



「だよな…


とりあえず、続き見よっか?」


そう切り替えた一生に…


「そだねっ」と、疲れ目をギュッとしてパチッと開くと。



「その前にマッサージかなっ。

疲れ目のツボ、知ってる?」


って、優しい笑顔が向けられる。



「知らない…

一生、知ってるの?」


「ん、PC業務多いからさ。

いつもやってる」


「そっかぁ。

私、ココならよく押してるけど…」


目頭のくぼみを指でつまんだ。



「あ〜、合ってるよ。


あとは…

ちょっと目ぇつぶって?」


それに対して、

素直に閉じた目を差し向けると…


眉頭から眉中央、そして眉尻のツボが刺激される。



ゆっくりと押して、

ゆっくりと離れるその指は…

程よい力加減で。


さすが、いつもやってるだけあって…



「やっばい…


すっ…ごい、気持ちいい…」


ついついお客様気分で…

ツボの説明をBGMに、フル施術を受ける。





「ありがとう!


なんか立場も忘れて甘えちゃったけど…

スペシャルに気持ちよかったぁ〜」


「なんの立場っ?


けど俺も良かったよ。

莉愛が予想外の方向に行っちゃうからさ?

癒しプラン、立て直しで困ってたんだけど…

その代わりが出来たし」


「あぁ、例の高待遇ね…

この前も言ったけど、そんな気遣わないでよ」



慰めプランと癒しプラン?と…

あと何かあったかな?



「いーじゃん、こんくらい。

俺がしたいんだし」


そう目を細める一生に…


心がじわっとなる。



「じゃあ…

せっかくの癒しプランを無駄にしない為にも、覚えよっかなっ」


説明BGMを辿って…

今度は自分でツボを押しながら、復唱とともにインプットを試みる。




ふいに…


スルッと、横髪に絡んで来た指が…

ゆっくりとそこを撫でて。



パチッと!

閉じてた瞳を勢いよく開いて、一生に向けた。



一生は、艶気を帯びた優しい表情で…

だけど「ん?」って、何事も無かったような態度。



勝手に1人でドキドキしながら、

「んーんっ!」と顔を背けるも…



「…俺にはしない?」


「えっ…、何が…?」


再びその顔を映した。



「…


ドキドキ、しない?」


今度は完全に艶っぽい瞳で、私を見つめる。



その声は相変わらずクールなイケボで、

いつも優しいイケメンとこの状況で、


ドキドキなんて…



当たり前にするでしょ!



「どっ、どーしたのっ?

珍しく酔った!?

てゆっか、続き見よっ!続き!」


思いっきり動揺しながら、それを流す。



やっぱりこの血族、恐るべしっ!


隼太の従兄弟だけあって隠れ艶気が凄まじい…



しかも今の意味深な態度…


なんか一生も罪な男だよね。




だけど、そんな私はすぐに…

画面の中で活躍する総司様の虜に。







後日。


奏曲や一生への誕生日プレゼントに、頭を悩ませてると…



「莉愛ちゃ〜ん!

今日入荷予定のデウスは限定品だから、店員購入しちゃ駄目よ〜?」


そう通達でひらめいた!



そう言えば奏曲、デウス好きだったよね?


私も、今度入荷したらキープしとくって約束したし…



「店長っ!そこをなんとかっ…!」


ざんざん頼み込んだにもかかわらず…


ひたすらNOを返され。



だけど最終的には、来月の売上ノルマを2割増する事で了解を得た。



一生のプレゼントもすぐ決まったし。


安心して週末を迎えるも…





「んん…、目がシパシパする…」


秋から冬への、乾燥する季節の変わり目。

おまけに肌寒かった今日は、暖房がムダに活躍してて、この始末。



「乾燥?

…ツボ試す?」


「…


眉毛、消えない?」



一生の嬉しい誘惑に喜んだものの、

この前の意味深な態度を思い出して…

ワンクッション挟んだ返しで、答えを濁す。



だけど、「あぁ、じゃソコは避けるよ」の解決策でその気になって。


今は2人っきりじゃないし…と。


"よろしく"の回答を告げて、閉じた目を向けた。




「ん……気持ちい…」


心地よい刺激に、うっとり気分の最中…



突然、吹き出す一生。



「え、なに…?どしたの?」


目を開けて、それを探ると。



「ヤ、奏曲がスゲぇ顔してたから…!」


「え、どんな顔っ?も1回やってみて!」


「やんねぇよ、ブース!」


「ひどっ!

てゆっか…

今の顔、そんなブスだった!?」


目を閉じてグニグニされてる無防備な姿を想像しながら…


両手で頬を覆って、今さら焦る!



「ぜんぜん!

莉愛はすっぴんでも、スゲぇ可愛いかったし」


一生のフォローに、また胸を跳ね上がらせるも!



「むしろエロかったから、その興奮を暴言で誤魔化してんじゃね?」


茶化すように続いた言葉に、恥ずかしさが押し寄せる。



「もうっ…奏曲!

ヘンな目で見ないでよっ」


「ちげーよっっ、バーカ!!」



そうやって騒いでると…


またカツくんと一緒に現れた隼太。




「…


カツくんって、ここ最近…

隼太と行動してるんだね…?」


「…


まぁ、今同じ案件追ってるから…」


一瞬黙り込んだ反応に。


その案件はきっと、言わずと知れた売人のターゲットなんだろうと…


心が痛む。




なのに、なんで隼太なんだろう…




同情してるつもりはない。


ただその過去を知って…

隼太をこのドス黒い世界から、少しでも救い出せたら…とは思ってる。



私なんかじゃ、なんの支えにもならないかもだけど…


でも好きだから、諦めたくないよ。




今だこんなに心を支配する隼太は…


本当に罪な男だと思う。




そんな私の頭を、ふいに奏曲がぽんぽんした。



「切なそうな顔してんなよ…

頑張んだろ?」


どこか寂しそうだけど、滅多に拝めない優しい眼差しで励ましてくれたから…


心がぎゅっとなって、あったまる。






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