波乱の誕生会

次の日、日曜は…


たぶん明後日が奏曲の誕生会だからって理由だと思うけど、飲み会は中止らしく。



その日のランチは…


割引券の期限を考えて、フードコートを訪れた。




「リアさん!今メシっすか!?

今日遅いんすねっ?」


オムライス屋の手前、タコ焼き屋からカツくんが声かける。



「うん、今日忙しくて…じゃっ!」


カツくんギャラリーの痛い視線を避けて、足早に立ち去ろうとすると。



「ああっ!待ってリアさんっ!

俺も休憩なんで、一緒食いません?


例の、あるっすよ?」


そう店内に親指を向ける。


それはきっと、いや間違いなく余ったタコ焼きを意味してて…



「いーのっ!?食べる食べるっ!」


オムライスは今月中だから、忘れないように次回行こう!と。

美味しくてタダのタコ焼きに、あっさり釣られる。



「リアさん可愛いっ!」


そう吹き出されて。



3コ下から言われる私って…


と、恥ずかしくなったけど。





カツくんは、モールスタッフにも人気があるようで…

休憩所でも、チラチラ視線が飛んでくる。


当の本人はお構いなしで。



「せっかくリアさんが参加するよーになったのに、ここんトコあんま絡めなくて寂しかったっすよ〜!」


相変わらず甘え上手な言動。



そう思うなら売人やめなさい!


とは、心の中でしかツッコめない。



「明後日は参加するんすかぁ?

つっか、知ってます?誕生会」


「知ってるけど…、参加はしないかな…」


「あ〜、高いっすもんね。

奏曲さんの誕生会だし、本人がおごるのもヘンっすからねー」



「…

なんで奢るって話に発展するの…?」


私、そんなガメつく思われてるワケ!?



「だって奏曲さんリッチっすよっ?

会費2割バックが入るんで!

マジ羨ましっすー。


それに、前リアさんが怒って帰った時の飲み代も、俺が払うって出してたんで」


聞き捨てならない後半に…


思わず固まって、口に入れかけたタコ焼きがポロっと落ちる。



「リアさん落ちたっすよ!」



そのツッコミにハッとして、

勿体無いから当然の如く拾って食べる。


別にテーブルの上だし。



じゃなくて!


すっかり忘れてたけど…

気になってたその日の飲み代、奏曲が払ってくれたんだ!?


なんって男前なのっ!



てゆっかつくづく…


いつも知らんぷりで助けてくれてて…

なんていいヤツなんだろう。




また騒ぐ胸を誤魔化すように、カツくんとの会話を弾ませて…


ランチを終えた。





今さら払っても、きっと受け取らないだろうなぁ…


そう思ってふと。


ー会費2割バックが入るんで!ー



誕生会、参加しようかな…







そんな誕生会、当日。


参加しないと言った手前、気まずい気持ちで…

会場になってるガレージに向かった。



時間を聞いてなかったけど…

奏曲や一生の終業時間を考えれば、

21時なら終わってはないだろうと。


その少し前に到着する。



ちょうどスタート間際だったようで、すぐに受付をすませると…



「うそ…」


ガレージ内は沢山の女のコ達で溢れてた。



会費が1万円なのにぃっ!?

みんなリッチだなぁ、と思いながら…


派手派手しいクラブミュージックや、

煌びやかな女のコ達に紛れて。

居心地の悪さに戸惑ってると…


不意に腕を掴まれる!



反射的に顔を向けた先には…



「莉愛っ、来たんだ…!?」


驚いた顔の一生。



「…っ、えーっと…


やっぱり奏曲には、色々お世話になってるし…

そう!臨時収入が入ったから」


金銭的な理由で断った手前、そこを嘘で取り繕う。



一生は、少し複雑そうな顔をしたものの…


「だったら、俺と一緒に居ろよ?

今日はフリーだし」


優しい笑顔で、有難いお言葉。



カツくんも来てるんだろうけど、人が多くて見当たらない。




「すごい人数だね」


乾杯ドリンクを取ってくれた一生に、驚嘆を零す。



「ん、200人近くは居るんじゃないかな?

一般の参加もあるみたいだし」


「っ、200にぃんっ!?」



一体このチームはどうなってるんだと、呆気に取られる。



すると、いよいよ会が始まるようで…


照明がしぼられて、ステージっぽく設置された所だけが明るく照らされた。



–––瞬間。




現れた奏曲に、ドキッッ!

と胸が飛びっきり跳ねる。




その完璧なまでのビジュアルで。


ホストっぽく片サイドを軽く編み込んだ髪型と、オシャレなブラックスーツに身を包む姿は…


もはや犯罪レベル。



女のコ達は歓声は、まるでパニック状態。



そして今さらながら、ふと思う。


こんな人をいつもアシにしてて、いーんだろうか…




そこで愛しの、隼太登場!

今日は隼太もいつもよりキメてて…


…うん、来て良かったかも。



隼太の指揮で、おめでとう!の乾杯が終わると…


それに応えて、奏曲がマイクを握る。



「今日はありがとうございます。

…楽しんでって下さい」



って、それだけっ!?


見た目とは裏腹に、やる気のない態度。



だけどそこは、隼太さまがフォロー。


「はァい、相変わらず無愛想な奏曲だけどォ、こいつの持ち味だと思って許してねェ。


でも感謝の気持ちは、ちゃぁんと口で伝えるからねェ?

言葉じゃなくて、もォっとい〜コト。


じゃあ今から、お祝いの言葉とかプレゼント受け付けるよォ?


キスされたいトコ、考えててねェ」



そーなのっ!?


最後の内容に対して、驚きの顔を一生に向けた。



「ん、つっても口じゃねぇよ?

まぁ、顔キス?

それもあって、この値段でも集まんだよ。


あとこれは、女遊びじゃなくて強制イベントだから、大目に見てあげてよ?」



別にいんだけどさ。


てゆっか、奏曲はキスひとつでどれだけ稼ぐんだろう…


しかもそれを売り物にしてる隼太って…




本日の主役を前に、女のコ達は見る見る内に行列を作ってて。


さすがの奏曲も、そのお祝いの言葉やプレゼントには…

少し照れくさそうな、ほんの少し優しい笑顔を零してる。



だけど次の瞬間!


自分でもびっくりするくらいの衝撃が走った…




伏し目がちに、艶っぽく。

唇を触れ当てる姿に…




なんだろう、胸が痛くて…


どうしよう、凄く嫌な感じ。




こーゆーノリ、私には刺激が強すぎるのかな…


キスされたコ達の悲鳴が飛び交うその場から、目を背けると。



「メシ…、取りいこっか?」


少し戸惑ってるような一生が、中央に並べられたブュッフェに親指を向ける。


それに気分を切り替えて…



思ったより豪華なメニューに胸を弾ませる!


「なにこれっ…、美味し〜いっ!」



口に運んだ料理に幸せを感じるも…


一生の話によると、それはユリカが用意したものらしい。

親のお金を使って、知り合いの有名料理店に作らせたんだそう。



それは、奏曲の為に動いてるのか…

それともやっぱり隼太の為なのか…



どっちにしても隼太にとっては、

経費削減で純利が上がって有難いワケで。


美味しい料理なら、メンバーからの株も上がるワケで。



私なんか比べものにならないくらい、

役立ってて傍で支えてるユリカに…


切り替えたハズの気分が、余計どん底へ。




ちなみに、さっきからゲストのお世話をしてるサービススタッフは…

ビーチでよく見るヘビヴォメンバーで。


どうやら、トップ5以外の幹部がその役目を担ってるらしく…

人件費も削減な状況に、強制参加を納得。



とはいえ、会費まで払って働かされるなんて…

つくづくな、隼太の鬼っぷり。



さらにお酒は、隼太のツテで格安提供されたって聞いたし…

そもそも女のコばかりだから、そんな飲まない。


持ちガレージだから場所代もかからないし…


なんてオイシイ金取りイベント!



相変わらず恐るべしっ、松山隼太!




それはともかく。


いつプレゼントを渡そう?



奏曲に視線を向けるも…


うん。

もう少しあの人集りが収まってからにしよう…



それまでは。


「一生?

また料理取って来るけど、何かいる?」


そう声かけて、再び中央ブュッフェへ。



ユリカの手配なのは嫌だけど…

会費高いし、出来るだけ元取らなきゃ!


と、やっぱりケチ体質な私。




「ねぇ、隼太さんと別れたの?」


そこで突然絡んで来た…

ヒロの今カノ!


そーいえば幹部だったよね。



「ま、まぁ…」


その事は触れないで下さいっ!



「それで次は、一生くんと付き合ってるんだ?」


その質問に、一瞬キョトンとする。



「…え、なんでっ?付き合ってないよ!?」


「…ふーん、そーなんだ?


車屋で一緒に居るトコ、よく見かけるって聞くし。

飲み会でも1番ベッタリだし…

今日もそーでしょ?


それに一生くんが大事にするのって、カノジョだけだからさぁ」


最後の内容は、前に奏曲達から聞いた事あるけど。


てゆっか…



言われてみれば、私って一生と一緒に居すぎかも!


実際、隼太とよりも絡んでたよね!?



ヒロカノには、改めて否定を返して。


リクエストされた料理をよそうと、混雑を掻き分けながら…

一生の元へ。




「一生っ、大変っ…!」


あらぬ誤解を慌てて報告しようとしたら…

その間を過ぎった人と衝突未遂。


すぐさま避けた弾みに、

お祝い行列の途切れた様子が視界に映る。



この隙に!



「…っ、ちょっと行ってくる!」


お皿をテーブルに置いて、今度は奏曲の元へと急いだ。




備えられたリッチなビッグソファで、一息つくその姿は…


まるで王子様のようで。



だけどその瞳は憂いを帯びてて…


それがスッと、近づいた私を映し込む。



途端!

目を丸くして、固まる奏曲。




「そっ、そんな驚かなくても…」


私の第一声に。


ハッとした様子で「っ、うっせ…」と顔を背けて…



「つか、なに来てんだよ?

バカじゃねぇのか?」


なぜか切なそうに、憎まれ口。



黙ってれば、ほんとに王子様なのに…



「もうっ、せっかくお祝いに来たのに…

はいっ、誕生日おめでとう!」


ピンクのリボンを付けたコーラを差し出した。



「…、ナメてんのか?」


「じゃあ、あげない」


後ろ手に隠すと。



「っ、冗談だろっ、そんくらいケチんなよ!」


焦った様子で、それを取ろうと手を伸ばす。



「っ、ケチってないよ!


はい。

改めて、誕生日おめでとう」


そこで本来のプレゼントと、今のコーラを差し出すと。



「え…


マジ、か…



…あり、がと」


驚いて、照れくさそうにして、俯く…



可愛い奏曲っっ!



すると、何かに気付いたように。


「…オマエ、いつ来た?」



「え?、最初から居たよ?」


「っ…!


ワリ…、さっきのは…」


バツが悪そうに謝って来たのは…

きっと、お礼キスの事で。



「あっ、うん、強制イベントなんでしょ?

一生に聞いた」


そうフォローしながらも…


胸がやたらと、ざわめく。



彼女じゃないんだし、そんな事謝らなくていーよ。

今までは彼女でも、浮気ですら謝られなかった事が多いのに。


なのに…



私との約束にも満たない約束を、こんな真剣に受け止めてくれてて…


どーしよう、胸が痛い。




そんな私の様子を、ためらいがちに伺う奏曲。


その意味深に戸惑ってる姿に、疑問を抱いて…

ハッとする!



これってなんだかキス待ち状態!?



「わっ、私はいーよっ!」


慌ててパーの手を示すと。



「…っ!

言われなくてもオマエにはしねぇよっ!」



それはそれで、なんか傷付く…



そこで、途切れてた女のコ達の波が復活して…

押し退けられるようにその場を後にした。




そして一生の元へ戻る途中…

ようやくカツくん発見!


だけど女のコを宥めてるようで、こっちに気付かない。



なにやらかしたんだろう…


そう思って通り過ぎようとした時、会話の一部が耳に入る。



「一応じゃなくて、絶対飲ませてよ!

これじゃなんの為に来たのかわかんない!」


状況はつかめないけど…

なにもお祝いのイベントでキレなくても。



そう思って何気に…



「なんかカツくん大変そうだね…」


戻って早々、一生にその事を零すと…


どうやら怒りのターゲットはカツくんじゃない様子。



明るくて、人懐こくて、イケメンのカツくんは、ゲストのフォローを任されてるらしく…

こんな風にクレームの聞き役にも。


可哀想な気もするけど…

憎めないキャラのカツくんには、適任だと思う。



そして真のターゲットは、主役の奏曲。


シラフな状態に納得いかないみたいで…

今ケンくんの指揮で、女のコ達から飲まされてる。



そーいえば、いつもコーラだし…

バイクバカなだけじゃなく、苦手なのかも。


だとしたら、誕生日なのに可哀想…

いくらホストに見えてもホストじゃないんだし。





それにしても。


一生はさっきから、どこか物憂げで…



ー「一生っ、大変っ…!

…っ、ちょっと行ってくる!」ー


「つぅか、大慌てで独占狙ってたけど…

奏曲の事、そんな必死?」


無理して明るく振る舞おうとしてるのか…

そんな冗談まで。



だいたい、必死どころか。

確かに急いでたけど、そんな慌ててたっけ?と思いながら…


とりあえず、笑いを返す。



でも今日の主役のプレゼントは渡したから、次は…


少しでも元気づけられたらいーけど。



「ところで一生?

誕生日はとっくに過ぎちゃってるけどさ…


一生も、おめでとう」


そう差し出したプレゼントに…


キョトンと固まる姿。



「え…っ、何でっ!?」


続いて、今までにない動揺反応。



「だって、その時にはもう出会ってたし…

いつも助けてもらってるから、そのお礼も兼ねて」



「…


莉愛っ、それ反則…」


そして、困ったように笑いだす。



え、反則なの!?


奏曲の誕生会で渡すのはダメだった?

それともお祝いするには時効だった?


そう戸惑わせといて…



当の本人はノンキに開封を伺って、中身を露わにする。



「え、これUSB?

うわ、すげぇカッケェ!」


「うん、PCよく使うみたいだし、

STUSSYもよく着てるから好きなのかなって」


「んん、好き!

ありがと!…マジで嬉しいっ」


USBキーチェーンをキラキラした瞳で映して、無邪気な笑顔が零れる。



クールな一生がハイテンションに喜ぶ姿と、とりあえず元気になった様子に…


私もひと安心。




「莉愛は誕生日いつ?」


「私は1月…」と日付けを続けたところで、ヒロカノのニヤつき顔が視界に映って…


ハッとした!



「そーだ、一生!

なんか私達っ、付き合ってるって誤解されたんだけど!


てゆっか、私のわがままに付き合ってもらってる所為なんだけど…


ほんっとごめん!」


「…そーなんだ?

全然いーよ、俺得だし」


「また俺得!?

じゃなくて、全然よくないよ!


これからもしっかり誤解を解いてかないと、好きなコ出来たら困るでしょ!?

一生の出会いを邪魔しちゃう…」



かといって、車屋の掃除も飲み会も断念出来なくて。

申し訳なさで困惑してるのに…


笑い出す一生。



「だったら、

誤解じゃなくて"ほんと"にしちゃう?」


「もうっ、真面目に話してよ…!

隼太にも誤解されないようにしなきゃだし…」


「…


だよな…

まぁ、大丈夫だよ。

みんなけっこー適当だし、一時的なもんだって!」


「だといいけど…

つくづく、ごめんね?」



一生の明るいフォローにほだされて。


再び楽しく、飲食を続行してると…



プレゼントは渡したし、もう見ないようにしてた奏曲を、つい視界に入れてしまって…


驚愕する!



えええっ!!

エロくなってるしっっ!




リッチソファで、女のコを抱きしめながらキスを落として…


ゆっくり身体を解いてく。




妖艶、とゆうより…

どこか危いほどの艶っぽさに…


見たくないのに、視線が釘づけになる。



気だるそうな奏曲は、キスの後も…


解こうとした身体を女のコから引き戻されて、撫で撫でされたり…

逆にチュッ、てされてたり!


とにかくなんだか、好きにされてる。




どーしよう…


なにこの恐ろしい不快感…




そんな私に、一生のフォロー。



「アイツさ、酔うと抱きぐせがあんだよ。


まぁ、女に偏見持ってても…

ほんとは寂しくて、甘えたくなんだろーけど。


だけどそんな自分が嫌みたいで、

特に夏からは全然飲んでなかったし…

だからこれも多めに見てよ?」



そんな理由を聞いて…

女のコ達が飲ませたがる理由に納得。


と同時に。


いつもコーラな理由を、1度でも私を送る為だと勘違いした自分が…

今さらすごく恥ずかしい。



そして一生は、本当に友達想いだと思った。




そこで突然、幹部に呼ばれて隼太の元へ向かった一生。



私絡みの事で呼ばれたのかと、自意識過剰になるも…


どうやら車屋のネット販売トラブルが発生したらしくて。



「ごめん、莉愛!

俺、隼兄と一緒に引き上げるけど…

1人でヘーキ?」


「うん!

てゆっか、私もそろそろ帰るし…大丈夫!」



トラブルは心配なものの、

隼太が帰るのを残念に思いながら…


一生を見送ってすぐ、私も帰る事に。



奏曲にひと声掛けたかったけど…


どーせ酔ってるし、あの状況に割り込めない。



とりあえず先にと、仮設トイレに向かうと…


一応、男用1棟と女用2棟に振り分けられたそれは、水洗でそれなりにキレイで。


だけど近くのコンビニに行くコも多いようで、スムーズにイベント用手洗い場まで進めた。


そして、その場を抜けようとした時。




「奏曲っ!

ちょっ…、大丈夫っ!?」


フラフラとベストタイミングで現れた姿に、手を伸ばそうとして…


思わず、抱きぐせにためらう。



奏曲は虚ろに私を映すと、その身体を横の壁に預けた。


その瞳は、妙に艶気で溢れてて…

なんだか戸惑う。



「…っ、えっと…

私、もう帰るね…?」



途端、捨てられた子犬みたいな顔をして…


「っ…


最後まで居ろよ…」


寂し気に視線を流す奏曲。



ー「ほんとは寂しくて甘えたくなんだろーけど」ー


不意にさっきの話が浮かんで…


なんだか、ほっとけなくなる。



結局、頷きを返して。


もうすぐ終わるだろうと…

一生が帰って居心地が悪くなった空間で、踏ん張る事に。



予想通り30分ほどで…


奏曲のたどたどしいお礼と、ケンくんの締めによってお開きを迎えた。




解散ラッシュを避けて、それが落ち着き始めた頃…



「あっれえ!リアちゃ〜ん!

まあ〜だ居たの〜!?」


カツくんを連れて引き上げてるケンくんからツッコまれる。



「アレェ、リアサァン…ナンデイルンスゥ?」


ゲストフォローが大変だったのか、ぐでんぐでんで呂律が微妙なカツくん。


にもツッコむケンくん。



「ありゃあ!お前、奏曲にラっブラブプレゼントしてたの見てないンか〜い!」


「ちょっと!変な事言わないでよっ!

今だって、奏曲に引き止められたから…!」


「ふう〜ん…

まあ!誕生日だから譲ってやるかな!

ソファ〜プレイ頑張ってねい!」


「だからそんなんじゃっ…!」



相変わらずなノリのケンくんは、なんだか駄々をこねてるカツくんを引きずって…

帰って行った。




ガレージには、片付けてる幹部達と…

ソファで倒れてる奏曲。


自販機で水を買って、その人を起こす。



「ね、大丈夫?

ほら…、水飲んで?」



寝ぼけた風にそれを奪って、豪快に飲み干す酔っ払い…



「他に何かリクエストある?

なかったら、もう帰るけど…」



「…


ある…



抱き枕して…」



「…


はいっ!?


抱き枕って…っ!

ほっ、他のコにしてもらいなよっ」


思わぬリクエストに、一瞬耳を疑って!

さらに焦って動揺する。



–––その刹那。




「オマエがいい」




バシッ!と手首を掴まれたと同時、そう告げられて。


その危うい瞳は、私の心まで掴まえて…



胸が、キュウ!と警音を鳴らす。




次の瞬間。


手首を引かれて、奏曲の腕の中に崩れた私は…

そのままクルッと抱き倒されて、ソファに埋もれる。




あまりの出来事に…

目を見開いて固まりながらも…


物憂げに見下ろす恐ろしく綺麗な顔と、

この状況に…



心臓だけが、狂ったように暴れ出す。




途端。


スッと割り入って絡んで来た足に、

ハッとして…!



「ちょっ…、ふざけないでっ…

奏曲っ!退いてよっ!」


その腕の中で、抵抗してもがいたけど。



「も…少しだけ」


切なげに掠れ声が零されて。



なんだか私まで切なくなって…

何も言えなくなる。



それを了解だと受け取ったのか。

奏曲は立ててた肘を崩して、横に倒れると…


瞳を閉じて、さらにギュッと抱きしめて来た。



身体が火照るのは、奏曲が熱いからだよね…?





仕方なく。


少しだからと自分に言い聞かせて、必死に心を落ち着けながらも…


お酒もそれなりに入ってた私は、

この状況にふわふわする感覚も手伝って…


そのまま眠ってしまった。







「…莉愛」



その呼び声に、うっすら目を覚まして…


定まって来た視界に映る、綺麗な顔に一瞬慌てて!



思い出した所で…



「起きた?」


一生が奏曲の腕を外しながら、救出の手を差し伸べる。




まさか寝てしまうとはっ!

なんて醜態を晒してるんだろ…!


恥ずかしさと情けなさに苛まれつつ…

ソファから脱出中に目を向けたガレージ内は、すっかり片付いてて。



どうやら時刻は朝の6時過ぎで、

私達3人以外は誰も居なかったけど…


幹部メンバーに目撃されてるのは間違いない。



隼太に見られなかったのが、せめてもの救いとはいえ…


「てゆっか、一生っ…

なんでここにっ!?」



「…


コイツが電話出ねぇから、ココで潰れてんのかと思って様子見に来たんだけど…


…すげぇ焦った。

つぅか、どんな状況?」


そう訊きながら…


奏曲の為に買って来たっぽいアクエリアスの1本を、差し出してくれた。


それにお礼を言って、喉を潤してから弁明へ。



「えと…


流れでなんか、抱きぐせに巻き込まれちゃって…

そのまま寝ちゃったとゆーか…」


口にすると同時、改めて思い浮かべて…



抱きぐせ恐るべしっ!!


…と痛感する。




すると、不意に一生が…


「あのさ。


さっきの誤解話…

やっぱり、"ほんと"にしない?」



いきなり変わった話に、何の事か一瞬キョトンとして…



ー「だったら、誤解じゃなくて"ほんと"にしちゃう?」

「もうっ、真面目に話してよ…!」ー


繋がった途端。




「真面目に話してるよ?


莉愛と付き合いたい」




思ってもない突然の告白に…


思考が停止する。





だけど徐々に、ぎゅっと胸が迫り上がって来て…



「い、従兄弟と関係があった女でっ…

平気なのっ!?」


誤魔化すように、現実を突きつけた。



「…


ムリだと思ってた…



でも好きなんだ!」




まっすぐな瞳でストレートにぶつけられて…


心臓が止まるかと思った!





だけど…!



「ごめんっ…


でも私まだ、隼太を諦められない…!」



「…


俺が中毒的に好きになっても?」


その言葉は、更に胸の衝撃を追い討ちするも…



「嬉しい、けどっ…

好きな人からじゃなきゃ、意味ないよ…」



「…


だよな…


けど俺も諦めないし、隼兄の事ふっ切れるまで待ってるよ」



それはまるで、隼太との可能性が無いって言われてるようで…


こんな時でも、突き刺さる。



「っ、待たれてもっ…

気が引けるってゆーか、困るってゆーか…


ごめんっ!」



「…完全に振るんだ?


なんか逆に、力尽くでも欲しくなった…」



「ぃぃ一生みたいなイイ男はっ、私なんかに執着してちゃダメだよ!」



「自己満だから。


納得いくまで、勝手に見守らせてよ?」


そう一方的に話を切り上げて。



「送るよ。

車、コンビニだから回してくる。


あ、奏曲起こしといて?」



と、それに続いた私の遠慮も"自己満"で押し切って…

ガレージを後にした一生。





今起きた、あまりの展開に…


ふう、と脱力すると。




「フるとかもったいね」



聞こえた声に、バッと振り向く!



「奏曲っ!起きてたのっ!?

てゆっか、盗み聞きとか最悪っ!」


「自己嫌っ…じゃね、

急に告り出すから起きれなかったんだよ!


つーかアイツ、すげぇいいヤツだし…

キープしときゃよかったのに」


「出来ないよ!

いいヤツならなおさら…


自分だってされたら嫌でしょ?」



なぜか意味深に反論的な瞳を返されて…


「…奏曲は、キープとかするんだ?」



「するかよ。

俺は…


俺は誰にも執着しねぇよ」



それってなんか、寂しいね。

なんだか私まで寂しくなって…


胸が痛い。





その後、一生が戻って来ると。


奏曲は、大量過ぎるプレゼントの全てを後日の運搬にして…

一緒に居る手前か、私のプレゼントだけ持って車に乗り込む。



車中それぞれ、まだ眠いのか気まずいのか…


なにかと波乱続きの誕生会は、微妙な雰囲気で幕を閉じた。



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