リベンジ


「ダリア…」



敷地内に停めたエストレヤに反応して…

工場から出て来た奏曲が、戸惑いがちに声かける。



「奏曲…!


話があるんだけど…

今ちょっと、いいかな?」



「ん…


あ、部屋上がる、か?」


そう親指を向けられた先には…

工場とは別に、2階建てのラフな建物。


そして工場からは作業員達の視線が…



迷いなくラフな建物を選ぶと。

中に案内されながら、そこの説明が零される。



1階は休憩所兼、細かい作業の施工所。


2階は普通の住居的になっていて、今は奏曲が自分の部屋として使ってるらしい。



キレイって程じゃないけど、スッキリ片付けられてるその部屋に落ち着くと。




「少し痩せた、な…

ちゃんとメシ、食ってんのか…?


つか…

ほんとごめん…」


そう呟く…

さっきからずっと辛そうな姿。



それを目にして、やっと解った気がした。



ー「今回はショックが少ないの?」

「今回は少しなら食べれてるんだ?」ー


いつもよりマシだったのは…


今までで1番苦しかったはずなのに、

今までで1番ヘーキだったのはきっと…


気持ちを吐き出して。

苦しみを奏曲に思いっきりぶつけて。


一緒に背負わせてたから…

心が軽くなってたんだね。



奏曲の辛そうな姿に、切なくなってた胸が…

そう気付いて一層。


ぎゅっと…

締め付けられる。




「違うよ…

奏曲の所為じゃない!


ごめんっ…

私が八当たりしただけなの…」



「…、ダリア…」



「だからお願い!もう気にしないで…!

むしろっ…

一緒に背負ってくれて、ありがとう…っ」



途端、奏曲の瞳が驚きを帯びて…

ためらいがちに視線を逸らす。


「俺は別にっ…


つか、隼太さんの事はなんとかすっから…

オマエこそ、余計な事気にしねぇで待ってろよ」


「その事なんだけどっ!


なんか…危険な事しようとしてない?」



「…、してねぇよ」


一瞬、瞳に動揺の色を映して否定する。



「嘘!

てゆっか、協力とかしなくていーから!」


「…


一生になんか聞いたのか?」


「…っ、心配してたよ…!

それより私っ、自分の力でリベンジするから!


誰かの力を借りたんじゃ価値ないし、

奏曲が私の為に危険な事したらっ…

逆に罪悪感で苦しくなって耐えられないよっ!


とにかく!そんな事許さないから!」



奏曲は複雑な表情を浮かべて…


「っ…

わかったよ…


けど俺に出来る事なら力になるから、何でも言えよ?」


寂しげに応えた。



「奏曲ぁっ!

うんっ、ありがとうっ…!」


納得してくれた事と、優しさに喜ぶと…


やっと微かな笑顔を見せてくれた。




それから話の流れで、今後のリベンジ方針として…

事務所掃除の事とか、さっき一生に話した自分の気持ちとかを伝えると。



「…


そんな、好きなんだな…」


本日2回目の、切なげな反応。



そんなに憐れな痛いコでしょうか…



いえ!

痛いコな自覚はあります。


だけど…



頭と心は、繋がらない。









そして土曜日。



「夜はけっこー寒ィから、あったかくして来いよ?」


事前に、奏曲のそんなアドバイスを受けて…


隼太に会うために、久しぶりの飲み会へ向かった。



明日は店長が私用で日曜欠勤だから、その引き継ぎで少し遅くなったものの…



「うっわ!リアさんっ!

ヤッベ!俺マジ、ヤバイっす!」


私の到着を激しく喜ぶカツくん。



"当分は参加出来ない"って、ずっと断り続けてた所為で…

最近はお誘いの電話も途絶えてて。


だからその歓迎の態度は…

隼太への緊張を解いて、私のテンションまで上げた。



「カツくん久しぶりだねッ!

これからは毎週参加するから、よろしくねッ!」


「マァジっすかっ!

うわ、サイっコーっすね!

ちょ、カンパイしましょ〜よっ!」



別れた事は奏曲が伝えたらしいから、知ってるはずなのに…

そこはスルーして、変わらない態度で接してくれるのも嬉しい。


そんな無邪気なカツくんを見てると…



きっとこのコの場合、売人の事を深く考えてないだけじゃないかな?


なんて感じた。





それにしても、寒いっ!


奏曲のおかげで、あったかめにはして来たものの…

10月の夜をナメてた。



「…そんなんじゃ寒ィだろ」


若干震える私に気付いて、上着を脱ぎ始める奏曲。



「いい、いいっ!お酒飲むから大丈夫!」


アドバイスを受けた手前申し訳なくて、

パーの手で拒否を示す。


と、その途端。



ふわっと、あったかさに包まれる。



「い、一生っ!?

だからっ、大丈夫だって…!」


肩にかけられた上着の主を映して、すぐに返還にあたるも…



「俺も大丈夫。

酒飲んでるし、念のため厚着して来たし」


と私の手を塞いで、再び上着を掛け整える。



それに戸惑うと…

さらに追い討ち。



「つぅか寒いだろ?

俺の前じゃ我慢しなくていいって言ったよな?」


あやすように笑う一生に…


胸を揺すられて、俯きながらお礼を伝えた。




「ちょっ、2人ともズルくないすか!?

今頃リアさん争奪戦っすか!?」


そこでカツくんが突っかかる。


対して…



「誰がだよ」


冷めたツッコミを入れる奏曲と。



「勝負する?」


不敵に笑って、乗っかる一生。



ふざけ合う3人を、楽しく笑ってると…


すでに集まってたレディース達に、一生とカツくんが呼ばれた。




「奏曲だけ残るのって、珍しいよね?」



「…別に」


煙草を吸いながら、不機嫌な反応。



「…?


てゆっか、冬もビーチ飲みなのかな…

頑張るよね…」



「…


なワケねーだろ。

来月から場所変わる」


やっぱり、素っ気ない反応。



「…


ね、なんか怒ってる?」


「…


別に。

つか俺のは拒否ったクセに、一生のは着んだな」


って…


思いっきり拗ねてるしっ!



「だって!あんな風に言われたらっ…

それにっ、奏曲は飲まないでしょっ?」


手元のコーラを映して、取って付けたように言い加える。



「…っ、うっせ」


片膝立てて座る奏曲が、それに頬杖をついて顔を背けた。



どーしようっ…

こんな事で拗ねてる奏曲が…


なんだかすっごく可愛いんだけど!



「奏曲、奏曲ッ!」


弾む気持ちで肩をすり寄せると…

驚いたような戸惑い顔が向けられる。



「ありがとねッ」


そう投げかけた笑顔には、「あ?」と怪訝な顔が返された。



「奏曲の気持ちにも、あっためられたよっ」


続けてお礼の理由を伝えたら…


照れくさいのか、その瞳は動揺を映して。



「…っ、バーカ」


再びフイッと他を向く。



そんな奏曲がことごとく可愛くてっ!


ニヤニヤしながら、さらに胸を弾ませてると…

途端、もっと激しくそれが弾む!



騒ぎ出したヘビヴォメンバーを映した視界に…


隼太の姿が現れる!



奏曲もそれに気付いたみたいで、

私の様子を伺う動作が視野に入った。




隼太に目を奪われて、愛しい姿を見つめてると…


その抱えてるモノや、

今から繰り広げられる犯罪、

そして自分の状況に、


切なさが込み上げて来たけど…




「…っっ、かっこいい…」


同時に、愛しさが溢れる。



「あぁ…!どーしようっ…

見れるだけで嬉しいよ…


もぉっ、なんでこんな好きなんだろ!


ヤバイ…

ね、奏曲ヤバくない?

隼太カッコ良過ぎなんだけど!



…ね、奏曲聞いてる!?」


無言の反応に、その顔を覗き込むと…


辛そうな表情。



「…


どしたの?お腹でも、痛い?」



「…っ、ちっげえよ!バァーーカッ!!」


呆れ顔の後にドヤされる。



えーと…

何で心配してるのに、怒られるんでしょうか?



「前から思ってたんだけどさ…

奏曲って私の事、」


そこまで言った所で。


奏曲が焦ったように向き直るから、

…思わず口籠ると。



「な、なんだよ?」


「えっ?あ〜、

バカとかクソとか言い過ぎじゃない?」


冷めた目を向けて、続きを答えた。



するといきなり!


クッと頬を掴まれて、ぐっと顔が近づいて来て。



「うっせえ、クソダリアっ!」


そう吐き捨てられる。



なっ…なんなの…

てゆっか…!


ムカつくのに、ものすごくドキついて!


胸が変に騒いでる。




そんな私の胸を、今度は別の強大な騒ぎが追い討ちする。



隼太が、側にいるケンくんと一緒に…

こっちに近づいて来た!



うう、嬉しいけどっ…

どーしようっ!!


緊張と動揺で軽く混乱する。



だけどその第一声は…



「莉愛、来ちゃったんだァ?

けっこぉ、頭弱いコなんだねェ?」


先に口開こうとしたケンくんを手で制して、危うい笑みで零された。



それは、別れたんだから身の程をわきまえろって事なのか、なんなのか。

とにかく、飲み会参加を拒んでて…


言い方も含めて、心をザックリ斬りつけた。



「ヤ、俺らが誘ったんス」


すかさず奏曲がフォローするも。



「ふぅ〜ん。

まァ、お仕事の邪魔はしないでねェ?」


「しないよっ、むしろっ…」


そう口をつぐむ私を、挑発的な笑みで見つめて…



「そォ?

じゃっ、こいつも連れてっちゃうねェ。


奏曲ァ、あっちよろしくゥ?」


シビアに居場所を奪う。



「あ〜俺、後で行きます」


だけど奏曲は、サラリとかわして。


それを隼太は、珍しいものを見つけた様子で、楽しげに含み笑う。



「へえェ…

莉愛が心配なんだってさァ?

結局、足引っ張っちゃってるねェ?」



ズキリ、としながらも…


慌てて否定に掛かる奏曲を遮って、

「奏曲行って!」と。

私は平気だから!を、瞳に込めて訴えた。



奏曲も状況を判断したのか、戸惑いがちに頷いて。


終始おもしろそうにニヤケてたケンくんと一緒に…

去って行った3人。




ひとり、隼太の背中を映しながら…

切なさに襲われる。


別れた途端、こんな扱いなんだね…



隼太と絡んだ飲み会での、嬉しい記憶が…

今は悲しみを突き付ける。



だけど。



こんな事でヘコたれてられない…

隼太を支えたいなら、強くならなくちゃ!


だから私はポジティブに。

ここでしか拝めない隼太を、存分に眺める!




するとなぜか…


ニヤニヤしながら、こっちに戻って来たケンくん。



「今の様子じゃあ、隼太と別れちゃった〜!?」


いきなりな話題で。



相変わらず面白がってるような反応と、

やっぱり報告されてない状況に…


心が曇る。



「それで早速!まさかの奏曲とエロ得契約とはねえ!」


「そんなんじゃないよ!

てゆっか、私はそんな事しないって言ったよね!?」


「ふう〜ん!

でも未練はタッラタラだよねえ!」



そ、それを言われると…


反論出来ずに口籠る。



「まっ!いんじゃないの〜!?


アイツが自分から、終わった女に絡むとかスッゴイ事だし〜?

俺らみたいな遊び人は、さんっざん遊び尽くしたら、落ち着くトコ求めるって言うしねえ!

それを待ち続けてみたらァ〜!?」



「…っ、そーなのっ!?」


期待を抱かせる内容に、食らいつく。



「行動あるの〜み!」


明るく返すケンくんに。



話の内容も然る事ながら、背中を押された気分になって…


心が晴れる。



元気づけてくれたのかな…?


前に助けてくれた時もそうだけど。

もしかしてケンくんって不器用なだけで、ほんとは優しい人なのかも…


苦手感が薄れてく。



「ところでリアちゃ〜ん!

ただ待ってるだけじゃあ不安っしょお?」


続いて、そう切り出された話に…


耳を傾けた、途端。



「悪いけどケンくん、莉愛は俺の…」


突然割り込んで来た一生。


の、そこで止められた言葉に、胸がドキッと跳ね上がる!



「…大事なダチだから」


ひと間置いて、そう告げた目は…


一生には珍しく、

や、私には初めての威圧の目で。



少し驚いたのと同時。

いつもの優しさとのギャップに、また胸が音を立てる。



「おーお〜!

一生チャン、コワイねえ!


じゃあリアちゃ〜ん、またねえ!」


だけどアッサリかわして去って行く、大人対応…

なのかは疑問のケンくん。



てゆっか、モメてたワケじゃないのに。

むしろ元気貰ってたのに、一生ってば…



ー「俺が守るって言っただろ?」ー


記憶に残る、一生の言葉。



それ、そんな本気…?


戸惑う私に…



「莉愛?

これからは多分、1人になる事も多いと思うけど…


それでも参加する?」



それは心配してくれてるのか…

お荷物に感じてるのか…


どっちにしても。



「…したい。


ここしか隼太との接点、ないし…」



「…わかった。


その代わりちょっとでも何かあったら、すぐ連絡して?

出来るだけ俺も、こっちを視界に入れとくけど念のため」



「うん…

なんか、ごめんね…?」



ヒロからの忠告が無ければ…

こんな風に心配してくれる一生を、大げさだって思っただろうけど。


ぶっちゃけ今は、1人で居るのはちょっと不安だから…

すごくありがたい。


とはいえ。



どっちが年上なんだか…


私のわがままの所為で、負担かけて申し訳ない。



それを笑顔が吹き飛ばす…


「いーよ、俺得だから」



って得なの!?

もはや一生の口癖なのかも…



それはそうと!


「あと、ごめん!飲み代いくらかな?

もう彼女じゃないから、そこはちゃんとケジメつけときたいし…」


「あー…、今はいーよ。

もともと飲み代に彼女待遇とかねぇし」


「っ、そーなのっ!?

じゃ今までの分は…っ?」


「俺の特権で誤魔化してた。

ビーチだと一般人の出入りも多いし、融通効くんだよ」



私って…


彼氏以外には、なんてケチ体質なんだろう!


彼女も幹部扱いでフリードリンクなんだって、自分に都合よく考えてた…



「あぁ〜…、ほんっとごめん!

一生には助けられてばっかだね…」


「ヤ、元はと言えば俺が最初に誘ったんだし…


ただ来月からはガレージ飲みで、入口徴収だから誤魔化せないけど」


「あ〜、奏曲もチラッと言ってたね…

その、ガレージ?ってどこにあるの?」



場所と共にされた説明によると。


そこは当初、販売車の保管倉庫だったらしいんだけど…

経営も順調で、車屋敷地内の在庫とネット活用で上手く回転出来てるから、

今は臨機応変に色んな用途で使ってるとの事。



ガレージ飲みはまだ少し先だけど…


それまで夜の寒さと戦いながら、リベンジ頑張るぞ!



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