ジャンキー
「なかなか来れなくて、ごめんねェ?
今日はその分、たぁ〜ぷり可愛いがってアゲルから」
これは夢…
「…痛い」
じゃなくて、本物!
つねった頬っぺがそれを教える。
そんな私を、フッと妖艶な笑みで包む…
約2週間ぶりの隼太。
「淋しかったァ?」
今度はその腕に包まれる。
「ん、でも…忙しかったんでしょ?
私はこーやって来てくれるだけで十分だから…
それより、いつもお疲れ様」
遠くに感じた隼太は、今こんなに側に居て…
もう、ヤクザでもなんでもよくなる。
「莉愛はほんとにイイコだねェ…
そ〜ゆぅ健気なトコ、大好きだよォ?」
そう言ってスルリと、肌を覆う布を潜って…
その手が柔らかな膨らみを刺激する。
身悶えて声を漏らす私を、焦らすように…
「そぉ言えば、事務所見たよォ?
莉愛のセンスなら、すっごいイイ感じにしてくれるとは思ったけどォ…
予想以上だったよ。
ありがとねェ…、愛してるよ莉愛…」
「…ぁあっ!…っん……」
悶えてる身体が、"愛してる"に一層反応する。
「あれェ、莉愛はァ?」
「…ゎ、私もっ、愛っ…してる…っ!」
「い〜ね、それェ…
じゃあ今日は、すっごいコトしちゃおっかぁ。
ココ、挿れちゃっていィ?」
指でなぞられた、ソコは…
まさかのAF!
甘い感覚が一気に引いてく。
「ダメっ、それはムリっ…」
躊躇なくNo!
いくらお世話ロボットの私でも、Yesの限度はあるし…
それは生理的に嫌だった。
「そっかァ…
だったらソレ、他のコとヤっちゃうよォ?」
そっ、それも嫌だ…
「どぉするゥ?
俺は莉愛とシたいんだけどなァ…」
戸惑う私を言い攻める。
「や、ヤダ…」
「んん?どっちがァ?」
「…
他のコと、しないで…」
消え入る声で、呟いた。
だけどさすがに、なんの準備もしてない今日は見逃してもらって…
続きは翌日に。
その日は朝から絶食して、仕事から帰って来ると、すぐに薬剤使用。
2日連続で隼太と会えるのは嬉しいけど…
何してるんだろう、って情けなくなった。
「ヤッバイね…
莉愛のココ、すっごい気持ちいィよォ…」
私はむしろ、苦しかった。
気持ち良くもないし、挿れる時は痛かったし…
生理的にどーしても受け入れられなかった。
ただ…
ノーマル行為と指挿入の2本攻めは、
あり得ないくらいの快感だったけど。
それでもやっぱり、嫌だった。
もちろん、この行為が好きな人も少なくないと思う。
だけど私からすれば…
ゴムしても、やっぱり不衛生だと思うし。
事前準備の大変さとか、
病気のリスクや身体への損傷、
それに心と身体の不快感とかも考えると…
大事に扱われてない状況が、愛されてないようで…
悲しくなる。
それでも。
隼太のリクエストなら、聞いてあげたい気持ちはあるし…
なにより、嫌われたくなかった。
他のコとされるのも嫌だけど…
本当は。
ただでさえ最近来てくれなかったのに…
断ったら、もっと会えなくなりそうで。
そんな浮かない気持ちを抱えて、週末。
例のごとくなカツくんのお誘いには…
気分転換を狙って、喜んでOKを応えた。
でも、念のための晩ごはん準備をしてなかったから、1度バタバタ家に戻って…
それを終わらせたところで、突然の玄関チャイム。
「ごめん…
ちょっと眠らせてェ…?」
それは不意打ちの、隼太!
「ぜんぜんいーよっ…!
でもっ、今日飲み会は?」
「んん…?
12時に起こしてくれるゥ?」
そう言ってすぐに、眠りについた。
当然カツくんにはキャンセルの連絡を入れて…
隼太の寝顔を眺める。
疲れた顔…
寝てないのかな…
そんな忙しいんだ?
寂しいなんて、不安に思って…
ごめんね。
そして…
頼ってくれて、ありがとう。
起きる時間になると、隼太はごはんも食べずに行ってしまったけど…
それでも十分、嬉しかった。
もしかして今までも、こんな不意打ちあったのかな…?
その日から私は…
飲み会はもちろん、夜の外出が出来なくなった。
そして休みの日は、例のごとく事務所の掃除に向かう。
あ。トイレの洗剤、少なかったよね?
途中、ドラッグストアに寄る事に…
「よ〜、莉愛。
この前は、俺の女が悪かったな…」
そこで偶然、ヒロとの再会。
「…
いーよ、別に。じゃあ」
利用されてたって事実を思い出して…
不快な気持ちに。
「待てよ、怒んなって!
俺、一応幹部の端くれだったし、まさか隼太さんに切られるとか思ってなくてさ…
んなカッコわりー事、女に言えねーし!
だから…
ついお前のせーに…」
「はあ!?
余計カッコ悪いから!」
でも、じゃあ…
"利用"ってゆーのも敢えてそう言ったのかな…
「わかってるよ!マジごめんって…
ケンさんのせーでバレてから、女にもキレられたよ…」
困った顔で、なのにどこか嬉しそうに話すヒロに…
私じゃダメだった理由が、わかった気がした。
「ま〜、チーム破門になって、今は良かったと思ってっけどな!
目が覚めたっつーか…
で。お前にも、お詫び代わりに忠告しといてやるよ」
なんでお詫びなのに忠告?
下からなのか上からなのか…
ツッコみたい気持ちを抑えつつ、続きに耳を傾ける。
「あんま隼太さんとかヘビヴォに、深入りすんなよ?」
えーと、それは…
破門された事を根に持ってるんじゃ…
そう思った矢先。
「だいたい隼太さんの彼女なんて、ただの"旬のお気に入り"なだけだし…」
「…え?」
心が食い付いて、途端。
リーダーユリカとかヒロの今カノが言ってた、"オキニ"が頭を通過する。
「それっ…、ほん、と…?」
「え…、もしかしてマジ?
ま〜、隼太さん相手じゃ誰でもそーか。
お前、ハマり込むタイプだしな…」
動揺する私を、憐れむようなヒロ。
そっか…だからか…
ケンくんの軽いノリも、
カツくんの気に入ってる発言も、
次とか今回はとかエロ得楽しむのも、
彼女扱いしてなかったからなんだ…!
隼太への想いを軽く扱われた気がして、ムカついてたけど…
周りがそう扱うのも、無理なかったんだね…
そしてショックに打ちひしがれる間もなく…
別のショックが牙を剥く。
「…とにかく、お前も目ぇ覚ませよ?
あの人、半分ヤクザみたいなモンだし。
お前とは住む世界が違うだろ?」
「…
でも隼太は断ってるって…」
「だとしても時間の問題だろ。
もー、片足突っ込んでんだから…
ヘビヴォの幹部連中だって、やってる事はヤクザ紛いだしな」
「えっ、なにそれ…?」
私の食い付きに…
ヒロは周りをキョロっと見渡して、隅の方に誘導すると…
軽く息を吐き出して、小声で続けた。
「お前、ヘビヴォの交流会が何の為に開かれてるか、知ってっか?」
「…交流会って、飲み会の事?
ノルマ対応とか、車の販促でしょ?」
「ん〜、まっソレもあるけど。
メインはクランクの買い手探し…
ヘビヴォじゃそー呼んでるケド、要はドラッグの販売先を発掘してんだよ」
「ドラッ…!」「シーッ!声がデカイ」
思わず声を上げて、すかさず制止をくらう。
「え、誰がっ?幹部って…、隼太も!?」
到底予想外な危ない内容に、頭が混乱する。
「落ち着けって!
隼太さんがリーダーなんだし、ソッチと関わってんだから…
むしろ筆頭バイヤーに決まってんだろ!」
心が、青ざめてく気分だった…
「ねぇ…、それって、捕まんないの?」
「だから…
捕まんねー為に、交流会して売るヤツ見極めてんだよ。
ヘタに売って、そいつがパクられてゲロったら、すぐ足が付くだろ?
あの人、見る目あるし頭キレるからな〜…
そりゃあ悪どいぞ?
相談乗るフリして、懐に潜り込んで…
金銭状況とか、家族・交友カンケーにチェック入れて…
弱み握ったトコでヤク漬けにする。
そいつはも〜言いなりだな」
心にズシリと、重たいものがのしかかる…
思い返せば…
飲み会についての質問に、黙り込んでた奏曲と一生。
交流会についての話で、複雑な表情を見せてた一生。
そーだよね…
こんな話、簡単にカミングアウト出来ないよね…
そして、ふと思う。
「ね、幹部って全員!?
奏曲や一生も、売ってんの…?」
「あ〜、仲いーんだろ?女に聞いた。
あの2人だけは特例だよ…
むしろ、そーゆーの嫌ってる。
って事はぶっちゃけ、俺も売ってたって話になるんだけどな…」
「…っ!、…最低っ!」
「だからっ、チーム破門になって良かったって言っただろ〜!
いや俺の女もさ〜、レディースの幹部だから似たよーな事やってて…
俺も破門くらった事だし、一緒にチーム抜けよーとしたんだけど…
なかなかユリカが認めてくんなくてな〜」
「…
"ユリカ"って、何者?何歳なの?」
ヘビヴォで圧倒的な存在感を放つ、その小悪魔的美少女の事を…
ほんとはずっと、気になってた。
「俺のタメ。
レディースのリーダーなのは知ってるよな?
ケドそれだけじゃなく、ヘビヴォ全体の幹部管理を任されてる。
なんか親が議員で?娘には甘いらしーから、いろいろ幅利かせられるみたいだし、金あるし…
隼太さん的にも重宝してんだろ」
青ざめて重たくなった心に…
さらに靄が充満する。
「…
隼太とそのコの間には…
なんか特別な感情とか、あるのかな…?」
「さ〜な。
まっ、特別信頼してる感はあるけど…
秘書みたいなもんじゃね?
どっちかっつーと、奏曲クンとユリカの方がなんかありそーだけどな」
それは…
わかる気がする…
「でも相変わらずだな。
こんな話聞いても、まだ隼太さんなのか〜?」
「…
そんなすぐに、切り替えれないよ。
それに、なんか実感わかないってゆうか…
違う世界すぎてピンと来ないってゆうか…
トップ5のみんなにだって、今までのイメージがあるし…
って…!
ケンくんはともかく、カツくんもそれ売ってるの!?」
「いや売ってるどころかカツクンは、隼太さんの次に売上げてるって話だぞ?
ステッカーより売上バックがデカイからな…
生活かかってんだろ」
なんだか、ショックだった。
そりゃあ、生活が苦しいんだろーけど…
あの無邪気なカツくんが…
人って、ワカラナイな…
「かつクンは、ステッカー売上がハンパなくて、トップ5入りしたらしーけど。
ソコに居続けてるって事は、そんだけ利益を上げ続けてるって事で…
ステッカーだけじゃ限界あるだろ?
ま〜、ヤクザのシステムと同じでさ…
今は武闘派ヤクザとか少ねーし、
ヘビヴォのバックも経済ヤクザだからな。
どんだけ組とかチームに貢献したかで評価されんだよ」
ヘビヴォで評価されて何の意味があるんだろ…
そう思って、ふと。
「じゃあ一生や奏曲は、どう貢献してるの?」
「ん〜?
一生サンは、任された車屋で利益上げてるし。
奏曲クンだって、その車屋の整備を格安で仕上げて、それでけっこ〜マージン上げてるし。
しかもあのビジュアルだろ?
色んな場面で役立つらしー。
あとケンさんは武闘派なんだケド、そーゆー問題処理で稼いでて…
ま〜、不動のトップ5だよ」
なるほど…
そう思いながらも。
「なんで奏曲はクンなのに、一生はサンなの?
同い歳でしょ?」
どーでもいい事に、ついツッコんだ。
「えっ、いや〜…
一生サン、隼太さんの従兄弟だし…
クールでなんか、近寄り難くてな。
奏曲クンは、男には親切でフレンドリーだから、なんとなく…
っ、んな事より!
今の話、絶対口外禁止だかんな!?
お前にはヒドイ事したし、今回俺の女も迷惑かけたし…
このお詫びでチャラな?
とにかく!俺の命がかかってんだから…
マジ頼むよ」
「っ、そんなにっ!?
そんな危険な世界なの!?」
「いや、そんくらいヤバイって事!
だからっ、お前も早く目ぇ覚ませよ?
ん〜じゃあなっ」
そう言ってヒロは去って行った。
「…
なんかあった?
さっきから同じトコ拭いてるし…
来た時から元気なくね?」
その後の掃除中…
一生の声で、ハッとする。
「あ…、んーん!昨日寝不足でっ」
「…
じゃあ続きはしとくよ。
ヤなら、俺の車で少し仮眠とる?」
「やっ、どっちも大丈夫っ!
ごめんねっ?心配かけて…」
1人じゃ抱えきれなくて、一生に相談したかったけど…
絶対口外禁止だし。
なんとか切り替えながらも…
心がパンクしそうだった。
ヤクザ、ドラッグ、売人…
自分とは掛け離れた世界だし、
よく解んない世界だから…
実感わかないのも、ピンと来ないのも、事実。
だけど、ヒロの話が本当なら…
隼太や、それに関わってるヘビヴォメンバーがやってる事は、犯罪で。
調べると、売人は特に罪が重いらしい。
そして…
ヒロの性格や、話の流れ、この件に関した奏曲や一生の反応を考えると…
話は全て本当で。
"ヤクザ絡みとは絶対関わらないように!"
そう親から念を押された世界なのに…
それどころか。
私は紛れもなく…
隼太が巻き起こす、
このジャンキーシンドロームの渦中にいる。
隼太やカツくんは、それを使用してるのかな…
心に絡みつく、聞きそびれた疑問。
ー「弱み握ったトコでヤク漬けにする。そいつはも〜言いなりだな」ー
重く、重く、心にのしかかる…
ヒロの言葉。
隼太が解らなくなって…
怖く無いって言ったら、嘘になるし。
正直、関わりたくない世界だと思う。
ヤク漬けにされたコの未来を考えると、隼太のしてる事は酷すぎて…
やり切れなくなる。
いったい隼太は…
自分のしてる事を、どう思ってるんだろう。
そうまでして、どこに向かっているのかな…
こんな現実を突き付けられても…
それでもまだ、心が隼太に囚われてる。
ー「だいたい隼太さんの彼女なんて、ただの"旬のお気に入り"なだけだし」ー
例え心を、無惨にそう切り裂かれても…
好きって気持ちは、簡単には消せないし。
隼太がくれた甘い言葉や…
ー「アイツ!嫉妬でヒロ追い出すくらいだし〜?今回はマジかもよ〜?」
「リアちゃん人気モノだねえ!
隼太がキスマークつけるハズだ!」ー
ケンくんの言ってた事が…
私は特別なのかも!って、淡い期待を抱かせる。
なのに隼太は…
不意打ちで眠りに来た日を境に、パッタリ来なくなった。
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