動揺
掃除の日から程なくして、お盆に突入。
まだ残ってる事務所アレンジは…
仕事が忙しいし、実家にも顔出すし、
一旦保留。
そんな週末。
「リアさーん!今日こそ飲みますよ〜?
さすがにもう、機嫌直ったっすよねっ?」
やっぱり、相変わらずの…
カツくんからのお誘い電話。
「…
あのね、別に怒ってないの!
だけど私にも都合とかあるし、自分のペースで参加したいから。
あんま誘われても困るってゆーか…
それにほらっ、今はお盆繋がりの連休で、カツくんだって忙しいでしょ?
私の事なんか気にしないで!…ねっ?」
「…
リアさんって、優しいっすね…」
なんでそーなる!
心でツッコミを入れてすぐ。
「でも俺、リアさんの声聞けるだけでいんで…
また誘いますね!」
遠回しのお断りは通じなかったようで…
脱力。
けど…
"リアさんの声聞けるだけでいんで"
それは冗談だとしても、
その気持ちは切ないくらい解るから…
断った事に、少し罪悪感。
今は隼太も忙しいのか…
大掃除後から1度も会ってない。
だったら飲みに参加すれば会えるかも!
なんだけど…
それはアレンジを終わらせてからにしたかった。
ただせめて。
声だけでも聞きたい…
ケータイを見つめながら、自然体なカツくんを羨ましく思った。
だからこそ!翌週は…
「ね、一生?
こー置くのと倒すのと、どっちがいーかな?」
「んん…
倒すのかな、バランス的に…」
ネットで頼んでた材料も届いたし、
アレンジの仕上げを頑張った!
「アロマいーね、落ち着く。
事務所も、凄ぇイイ感じだし…
隼兄が莉愛に頼んだのも納得だな」
「ほんとっ!?
よかったぁ…、ひと安心!
色々手伝ってくれてありがとね!一生」
依頼達成を清々しい気持ちで喜ぶも!
その週は隼太と会う事はもちろん、1度も連絡すら取り合わないまま…
また週末を迎えた。
「リアさん!夏終わっちゃいますよっ!?
今日は余ったタコ焼き持ってくんで、一緒飲んで下さいよ!」
懲りずに懐いてくるカツくんに…
いつの間にか、胡散臭さもイラッと感もほだされて。
なにより隼太に会いたくて。
アレンジも終わった事だし、参加しようかなと思って、ふと。
「でもケンくん、来るよねぇ…」
別にいんだけど、思わず零れた。
「ハハ、苦手っすか?
あっ!じゃ明日にしますっ?
ケンさん来ないし、ちゃんとタコ焼きも持ってくっすよ?」
それは即答で「明日飲む!」なワケで…
電話越しにカツくんの喜ぶ声が聞こえて、私まで嬉しくなる。
「ね…
何度も誘ってくれて、ありがとね…」
今さら、とゆーか今ならそう思う。
「…っ、
リアさん、それ…、ズルいっすね…」
調子いいって事かな…
だけどその声は、呆れた風でも怒ってる風でもなく。
苦笑いな感じで、どこか切なそうだった。
日曜日。
相変わらず、隼太の晩ごはんだけは準備して…
仕事が終わると、久しぶりの飲み会にワクワクしながらビーチに向かった。
「もう来んなっつったろ」
私の到着を歓迎するカツくんとは逆に、
そう睨む奏曲。
あれ…
私達仲直りしたよね?
キョトンな状況を、一生がフォロー。
「ま、いーじゃん。
莉愛がまたモメたら、俺が守るし」
心臓を撃ち抜く言葉で…!
ななっ、なに急に!
守るって、そんなっ…
もうモメないよ!
じゃなくてっ、何で一生が守ってくれるの!?
やたら動揺する私に…
「だったら…
一生がいねぇ時は来んな…」
眉をひそめて訴える奏曲。
よくわからない状況だけど、とりあえず頷くと…
カツくんの明るい仕切りで、さっそくタコ焼きタイムへ!
楽しみにしてたそれも、久々のお酒も、すっごく美味しくて!
「食い終わったら、また花火しましょ〜ね!」
その提案も大賛成で!
あとは、早く隼太来ないかな!
「ね、隼太って何時頃くるかな?」
「え?
今日"頼母子"なんで来ないっすよ?
言ったじゃないすか」
「…
はあっ!?
それはケンくんでしょ!?」
「ヤ、2人ともっす。
つっか隼太さんの繋がりなんで、本人ヌキとかありえないっしょ?」
騙された。
や、騙されてはないけど…
いくらケンくんが苦手だからって、隼太が来ない日の方を勧める!?
私、隼太の彼女だよ!?
そりゃあもともとカツくんは、そんなのお構いなしだったし、今さらなんだけど…
なんかヒドイし…
来た意味ないじゃん!
隼太とはもう、12日間も会ってない。
こんなに会わなかったのは初めてで…
だから今日、会えるのをすごく待ち望んでたのに…!
「てゆっか、タノモシってなに!?
そんな話、昨日は聞いてないけど!」
「え、言ってなかったっすか?
すいません…
つっか、
隼太さんになんも聞いてないんすか?」
その問いかけで、気がついた。
カツくんに悪気があったワケじゃない。
今までだって、隼太ナシでも参加してたし。
彼女なら他の誰かに聞かなくても、
隼太のスケジュールくらい知ってて当然だし。
私がそんな事すら聞けない性格だって、知らないから…
隼太が来ないのをわかった上で、今日を選んだと思ってるんだ。
返す言葉に戸惑って、黙り込むと…
奏曲が、余計な事聞くなって口調で「カツ!」と制した。
だけどカツくんは「え、なんすか?」って伝わってない様子で、話を進める。
「ま、とにかく頼母子ってのは、上の人との会合みたいなもんす」
「上の人?
隼太がリーダーじゃないの?」
「ヤ、ヘビヴォのリーダーは隼太さんっすよ?
じゃなくて…
え、言っていんすか?」
カツくんが2人に目を向ける。
それに対して、一生は無言で顔を背けて…
代わりに奏曲が、軽く息を吐き出して続きを答えた。
「…要は組ン人。
バックにヤクザついてんだよ」
「え…
ココ、ヤクザ絡みなのっ…!?」
私にとっては、面食らう事実だった。
と同時に、カツくんの言葉が浮かんだ。
ー「つっか隼太さんの繋がりなんで」ー
「むしろっ…
隼太ってヤクザなの!?」
自分とは無縁だと思ってた世界。
1人暮らしを始める時、
"ヤクザ絡みとは絶対関わらないように!"と親から念を押された世界に…
動揺が走る!
「…違うよ。
少なくとも今は…」
少しだけホッとした、一生の返事。
だけど。
「今は?
じゃあ、そのうち…?」
「どーかな…
トップに気に入られてるけど、隼兄は断り続けてるし…」
「…
断るくらいなら、最初から関わらなきゃ良かったのに…」
私の呟きに…
奏曲が応えた。
「バックナシじゃ、こんなでけぇチーム成り立たねぇし。
それなりの不良チームなら、目ぇ付けられて、潰されて…
こんな自由に はびこれねんだよ」
そーなんだ…
不良チームにとっては、自然な絡みなんだね…
隼太が…
そして成り行きで関わって来たヘビヴォが…
なんだかすごく、遠く感じた。
「でも隼太さんが組入りしたら、最有力跡目候補らしいっすよ!
スゴくないすか!?」
目をキラキラさせて口を挟むカツくんにとっては…
それは尊敬に値して、カッコイイ事なんだろうけど。
「そーかな…
普通がいーよ…」
「え、マジで言ってんすか!?
女のヒトって、絶対的権力とか地位とか…
あとお金も!
そーゆーの好きじゃないすか!?」
「人によるでしょ。
確かに隼太は若いのに社長だし、何でも兼ね備えてて凄いと思うけど…
私は別に、そーゆーのを求めてるワケじゃ…」
「じゃあ、ダリアは?」
そこで奏曲が、会話に割り入る。
「好きなヤツに、なに求めてんだ?」
「…
んー……、私中毒…かな」
考えて、辿り着いたところは…そこ。
絶対的愛情とか、永遠の地位とか、あとは…
私ナシじゃ居られないってくらい、激しい欲求。
飽きられるのは、もうヤだよ…
なぜか…
私の発言で、沈黙入り。
なんで!?って戸惑った途端。
「リアさんって可愛いっすね!
俺がそのリアさん中毒になっちゃいそーです!」
楽しそうに笑うカツくん。
ありがとう、
それは素直に喜んでいいのか…
バカにされてるのか…
「じゃっ!花火始めますか〜!」
それから、カツくんの仕切り直しで…
花火乱闘、第2幕へ。
「カツくんっ、それっ!打ち上げ花火!
ちょっ…危ないって!
ああっ!こっち向けないでー!!」
「手加減するんで、だいじょぶっすー!
でもちゃんと逃げて下さいね〜っ!」
「ムリムリムリムリっ!
奏曲っ!見てないで助けてよ!」
相変わらずの、過激なファイヤープレイに翻弄されてると…
さっきまで遠く感じた、この3人を含むヘビヴォとか…
隼太と会えない寂しさとかが…
いつのまにか、紛れてく。
「じゃあ反撃行くぞ?」
点火した打ち上げ花火を私に渡す奏曲。
「えっ、ウソっ…、怖いんだけど!」
慌てて奏曲を盾にして、その背中から腕だけ伸ばして花火を掴む。
「チッ、クソダリア」
そう吐き捨てながらも、一緒にその打ち上げ花火を持って、カツくんに標的を絞る奏曲。
「うわっ!奏曲さんガチで狙ってるっしょ!?
やめて下さいよ!
去年とか俺、かすりましたよっ!?」
「しゃべってるヒマあったら死ぬ気で逃げろー?」
奏曲の援護のおかげで、怖いから一気に楽しくなった私も、ハシャぎまくる!
だけど。
花火と一緒に、キュッと掴まれた指は絡んでて…
なんだか胸が落ち着かない。
花火が消えると、すかさず!
掴まれてる指を引っこ抜くように外して。
「新しいの持ってくる!」
勢いよく方向転換。
したところで、足下の石につまづく!
「あぶねっ…!」
転けそうになった私を、奏曲が後ろから抱き支える。
その手はガシッと、ちょうど胸の膨らみと重なってて…
「うわあ!ちょっ…、離してよっ!」
大慌てで、それを払い除けた。
わずかな感触に気付いたのか、奏曲も焦った様子で、
「…っ、わざとじゃねぇよ!
誰も好き好んで触んねーよっ、そんな貧乳!」
カッチーンな、暴言。
「ひっど!
隼太は綺麗だって言ってくれるもん!」
その途端。
奏曲は傷付いたような顔をして…
「つーかっ…
そんなカミングアウト聞いてねぇし」
そう吐き捨てながら背けた顔は、悲しそうに見えて…
それ以上、何も言えなくなった。
のに。
「奏曲さん、絶っ対狙ったっしょ!?
ズルくないすか!?」
「だからっ、ちげえよ!
だいたい存在すらしてねーもん、どーやって触んだよ!」
巻き返す2人。
ところで、奏曲サン…
あまりにもお言葉が過ぎませんか?
冷めた視線を背中に突き刺す。
そこでタイミングよく!
花火開始からレディースのトコに行ってた一生が、戻って来て…
代わりに、奏曲とカツくんがダブルで呼ばれた。
「おかえり、一生。花火する?」
と言っても、残るは打ち上げと線香花火。
2人して線香花火をチョイスして、それをアテにお酒を愉しむ。
「綺麗だね…」
「ん、でも儚いな」
一生のひと言が切なさを運ぶ。
それはまるで、自分の恋愛みたい。
頑張って光ろうとしてるのに、すぐに落ちて終わっちゃう…
「だけどその時は、俺がなるよ…」
ふいに落とされた言葉。
「え…、何に?…その時って?」
私の疑問には、優しい笑顔が返されただけ。
よくわかんないけど…
ああ…
なんか、癒される。
さっきが乱闘だっただけに、余計。
「なんか…
一生の側って、落ち着くね…」
とゆうか、なんだか眠くなってきた。
暴れすぎたかな…
めずらしく酔ったかも…
「じゃあ、ずっと…側にいる?」
夢の中で、そう聞こえた。
「帰るぞ?ダリア」
その声で、薄っすら視界が開けて…
現状把握を巡らせる。
ふと、身体を預けた先を確かめて…
「…うわあっ、一生っ!
ごめんっ、私寝てたっ!?
てゆっか、肩まで借りちゃててごめん!」
慌てて身体を跳ね起こす!
「いーよ?俺得だったし」
って得なの!?
頭が上手く働かない。
「オマエ、一生ファンに恨まれっぞ?」
「あ〜、そーだねっ…、どおしよう…」
「大丈夫だよ。
俺が守るって言っただろ?」
既にいっぱいいっぱいな私に、動揺の追い討ちをかける一生。
「え、えーとっ…」
働かない頭を、フル回転だけさせて…
動揺を誤魔化しながら、ヨロヨロ立ち上がる。
「立てるか?」
差し出された奏曲の手を掴んで…
「じゃあ、一生っ…、またねっ?」
挨拶だけ交わして、そそくさ立ち去る。
ああ〜、こんな状態で心臓に悪い。
もう、何やってんだろ!
隼太の彼女なのに、みんなの前で一生に…
だらしない自分が情けない。
って、思ってる側から!
「なんで手ぇ、繋いでんの!?」
「オマエが掴んだままなんだろ!」
「あぁ、そっか!ごめんっ…」
慌ててその手をパッと解く。
なのに…
「フラフラ危ねぇから、持っとく…」
再びその手が繋がれる。
ふいに…
胸に重なった、奏曲の手の感触が甦って…
心臓がやけに騒ぎだす。
バイクにまたがると…
「危ねぇから、今日は俺に捕まっとけよ?」
「いい、いいっ!大丈夫!」
心配してくれるのは有難いけど、これ以上スキンシップしたくない。
「チッ、酔っぱらいが…
落っこちても知らねぇからな。
つか、単車ムリそーな時は言えよ?」
そう言って、めちゃくちゃ安全運転してくれたから…
余計眠くなる。
必至にそれと戦って…
なんとか無事帰宅。
今日は心を乱されてばっかりだったけど…
なんだか楽しい気持ちで眠りに就いた。
あとは隼太と、夢の中で会えるといいな…
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