お世話ロボット
「昨日ォ、来てくれたんだってェ?
ごめんねェ、あそこにはあんま居ないんだよ」
「うん、聞いた…
私こそ、アポなしでごめんね?」
「ぜんぜんい〜よォ?
ケド、俺も莉愛の弁当食いたかったね」
「っ、ほんとっ?
いつでも作るよ!?
言ってくれたら、毎朝でも届けるよ!」
隼太はそれに、柔らかく笑った。
「莉愛はほんとにイイコだねェ…
だけど、彼女にムリさせるワケには行かないデショ」
「全然ムリじゃないよ!
むしろっ、作りたいくらいだよっ」
と…
せっかく相談に乗ってもらって、自分を改めようとした矢先から…
お世話ロボット。
「そォ?
でも、予定つかない事多いからねェ…
それより…」
そう切り出されたのは…
車屋の掃除依頼。
土日祝日は、一生以外にも働いてるコがいるらしいんだけど…
どっちも男だから、行き届いた掃除が出来てないみたいで。
この度私が、それを任される事になりました!
あと、女性の手が加わった方が信用度も上がるらしく…
事務所も、今のクールさを壊さない程度にアレンジを頼まれたから。
仕事帰りとか、休日返上で頑張るぞ!
「おいでェ、莉愛…
いっぱい可愛がってあげる」
そんな私を抱き寄せて…
甘い熱で侵してく隼太。
「…キスマーク、消えちゃったねェ?
またつけちゃって、いい?」
艶っぽく囁かれた問いかけは、やっぱりすごく嬉しくて…
でも。
「…ん…っ、だけどっ…
見えないトコでっ、…い?」
「ダァ〜メ。…ココがいィ」
そんな風に甘えられたら…
拒めるワケないよ。
結局。
定着したお世話ロボットは、
簡単には意思という擬人進化が出来なくて…
愛情の油が切れるまで、ただ働き続ける。
なんてもう、都合のいい女は嫌なのに…
だけど隼太はきっと、今まで人とは違うよね?
早速、次の日。
昼休憩に一生と連絡を取って…
まだ知らされてなかった掃除依頼の件を説明。
そして鍵を持ってる一生が、帰ってしまわないようにアポ取り。
店長が休みの日以外は早番だけど、仕事が終わる時間は車屋と同じだから。
「お疲れ!
一生、ごめんねっ?」
終業後すぐに訪れた車屋の、事務所に飛び込む。
「あー莉愛、お疲れ。
俺もまだやる事あるし、問題ねぇよ。
さっそく掃除?」
「うん!今日は軽く。
あとアレンジ用に、採寸とか写メ撮ったりしたいんだけど…」
「ぜんぜんいーよ。それより小腹すかね?
コンビニ行くけど、何がい?
弁当のお礼になんか奢るよ」
「ほんとっ!?
ありがと!じゃあ…なんか甘いものっ!」
そのリクエストで、ストロベリーミルクケーキを買ってもらって…
更にコーヒーまで淹れてもらって、ブレイクタイム。
に、ハッとする!
「ごめん、なんか…!
掃除に来たのに、お客様待遇させちゃって…」
「ヤ、別に…
むしろ掃除は俺の仕事だし、こっちがごめん」
と、なぜか含み笑い。
「…なんで笑うの?」
「ヤ、莉愛ってホントいいコだなって。
つぅか、相変わらず頑張るね」
その返しで、
更にハッとする!
「ごめんっ…!
せっかく2人が相談乗ってくれたのに…
でも、やっぱりすぐには変われないってゆーか」
「当然だよ。
ゆっくりでいんじゃね?
それに急に変わったら、逆効果の可能性もあるし」
「そ、だよね…、ありがとう…」
逆効果の可能性に、そーなんだ!?と思いながらも…
一生の優しい言葉に、ホッと救われる。
「けど掃除はさ…
出来てないトコ教えてくれたら、俺がちゃんとしとくから」
「んーんっ!
隼太に頼まれたからには私がちゃんとしたい!」
一生は、そんな私を優しく見つめると…
視線を落として、少し悲しそうに微笑んでた。
次の日は土曜日で…
「リアさーん!機嫌直ったすか〜?
今日の飲み、来ますよね?
前回の挽回するんで!」
仕事帰りに、カツくんからの電話。
そりゃあ、奏曲とは仲直りしたけど…
なんかケンくん苦手だし。
カツくんのこの軽〜い反応にもイラッと感が。
まぁ、若いからしょーがないけど。
「…忙しいから行けない。
てゆっか、行く時は勝手に行くし…
だから、もう誘って来ないでよ」
「ええ〜っ!リアさん冷たっ!
まだ怒ってるんすか!?
じゃあ…
来週こそは機嫌直して下さいよ?」
その返しに、話は通じてるんだろーか…
と、一抹の不安。
とにかく、忙しいのは事実で。
土日は一生も飲みだから、事務所には行けないけど…
アレンジを考えたり、準備したりしなきゃ!
そんな次の休日。
一生の邪魔しないように気を付けながら、朝から車屋の大掃除!
の、つもりで訪れたら…
まさかの定休日!
そういえば火曜日は休みだっけ…?
昨日は遅番で、一生と会ってないし。
隼太とは会ったけど、いちいち作業アピールとかしないから…
完全な連絡ミス!
どーしよう。
隼太に電話…
は、忙しいかもしれないし…
手を煩わせたくない。
だったら一生…
も、せっかくの休みに呼び出したくない。
張り切って来ただけに…
無駄足の脱力感で、立ちすくむ。
と、後ろから迫って来たエンジン音。
それに反応して振り向くと…
沖田カーサービスの積載車!
「なにしてんだよ?」
敷地内に停めた奏曲が、車の窓から声かける。
「え、えーと…」
側に歩み寄って、気まずく状況を説明。
途中、チラッと首元に向けられた視線に…
バンドエイド越しの再キスマークもバレバレなんだろうなと、更に気まずさが増す。
そんな相変わらずの"お世話ロボット"状態に…
当然、「バカじゃねぇのか?」が返ってくるかと思ってたら…
「ふぅん…」
そう眉をひそめて、目を伏せただけ。
そしてすぐに誰かと電話し始めて、今の状況を説明。
会話的に、相手はたぶん一生かな?
「来いよ」
電話を終えて、車から降りて来た奏曲が事務所に進む。
「え、…入れるの?」
「ココの車体管理は任されてるからな。
まぁ、不在ン時は断り入れっけど、一生に許可取ったから問題ねぇよ」
と、鍵を開けて…
「また帰る時連絡しろよ。
じゃ、俺行くわ…」
事務所の壁時計をチラッと映して、踵を返した。
「え、あっ、ありがとー!」
去ってく背中にぶつけながら…
もしかして忙しかったのに助けてくれたのかな…って、胸が別の音を立てる。
ともあれ、偶然という天の助けイコール奏曲の助けを無駄にしない為にも…
なにより隼太に喜んでもらう為にも…
頑張るぞ!
そう夢中になってると、あっとゆー間に昼過ぎで。
お腹も空いたけど、鍵がないから外出出来ない事に気付く。
まぁ、いっか!
と夢中の作業を続けた矢先…
奏曲からの電話。
「ワリ、今気付いた…
オマエ、昼メシ食った?」
「え…、食べてないけど…」
「弁当は?作って来てんのか?」
「や、作ってないけど…
でも今は、それどころじゃないってゆーか…
とにかく、また終わったら連絡入れるね?」
奏曲の気遣いをかわしたつもりが。
少しして、SRで本人登場。
「これなら手軽だし…
タコ焼き食えんなら、バーガーも食えんだろ?」
勝手な理論で、戸惑う私にそれを差し出す。
「…
ん、好き…、ありがと…」
タコ焼きとお弁当の交換話、カツくんから聞いたんだろーな…
と思いながら、大好きなバーガーを受け取ると。
「…は?
っ、何言ってんだ、てめっ…!」
やたら動揺する奏曲。
「えっ…、なんでっ?」
今のやり取りの、何が悪かったんだろう!と目を丸くして、私まで焦る。
そんな私を見て…
「……っっ、あぁ〜…っ!
なんでもねぇ…
…戻るわ」
頭をグシャッと抱え込んで、背中を向けた奏曲。
慌ててバーガー代を払おうと、
ツナギの袖を掴んで呼び止めたら…
「触んな、見んな、近づくな…」
そう私を、ありえないほど拒絶して…
更に代金も「いらね」って拒絶して…
脱力気味に帰って行った。
それは優しさの照れ隠しでしょうか…
相変わらず、解りづらい反応。
だけどその優しさは、胸に食い込む…
それから一層頑張って。
事務所も敷地内も手が届く範囲は、これでもかってくらいピカピカにして…
掃除完了。
早く隼太に見せたいよ!
そして時間的にアレンジも少し出来るかなと…
持って来てた材料で、再び作業開始。
の、所為で…
気付けば20時に。
「ごめんねっ!もう仕事終わってたんだね…
デートの予定とか、大丈夫?」
再三来てくれた奏曲の、私服姿に思慮を巡らせると。
「…
オンナ遊び止めたっつったろ」
そう冷めた目が向けられて。
ほんとに止めたんだ…
ってまた、改めて驚いた。
クルッと周りを見渡す奏曲。
「つか…
スゲー綺麗じゃん。
頑、張ったな…」
言いそうもない人の、
しかも照れくさそうな褒め言葉が…
なんだかすっごく嬉しくて!
「うんっ!奏曲のおかげッ!
ありがとうっっ」
気持ちいっぱいの笑顔で感謝!
それに対して…
目を大きくして固まる奏曲。
「…え?」
意味がわからず覗き込むと…
ハッとした様子で顔を背けて。
「つーか、さんざんパシったんだから、
これからもなんかあったら気ィ使うなよ?」
なぜかキレ口調で、有難い?お言葉。
だけどそれもきっと、照れ隠しで…
そんな可愛くて優しい奏曲に、胸がくすぐったくなる。
「ありがとっ!
じゃあ遠慮なくパシるねっ?」
「…
チョーシ乗んなァ、クソダリアァ」
「ちょっ、自分が言ったんじゃん!
もっ…、放してよっ」
頬を掴む奏曲の手に、日に日に違和感を感じながらも…
日に日に楽しさを感じてた。
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