相談

3日後の仕事休み。


一生との約束通り、お弁当を作って隼太の車屋に向かった。




販売車が8台並んだ、クールな外観をくぐって…



「お疲れ様ぁ…」


仕事の邪魔じゃないかと、恐る恐る事務所を覗く。



「え、莉愛…どした?

隼兄オークションだけど、聞いてない?」


「っ、ええっ!そーなのっ!?」



この3日間、合わす顔がなかった私と…

仕事が忙しいのか、来なかった隼太。


もちろん連絡も取ってなくて。




「…


前から思ってたけどさ…

莉愛って、隼兄と連絡取り合わねぇの?」



ショックな私を前に…

もっともな疑問を、心配そうに投げかける一生。



「えっ!?


や、そのっ…

約束のお弁当、サプライズ狙ってたんだけどなぁ」


それも嘘じゃない。


だけど、結局は…

自分から電話する勇気がない私と、

用がないとかけて来ない隼太が招いた、


すれ違い。



「え、だったら尚更…

隼兄、ココにはあんま来ねぇし…

ちゃんと確かめないと、不発で終わったら勿体なくね?」



おっしゃる通りデス…



…って、そーなの!?


"ココにはあんま来ねぇし"に、遅れて反応。



そーいえば…


ー「一生あいつが高校卒業してからワ、ほとんど任せちゃってるかなァ」ー


言ってたね、そんな事…



「そだねっ…

今度から気を付けるよ!

じゃあ、お昼になったら一生だけでも食べてねっ」


「…隼兄の分は?」


「あ〜、私が食べるから大丈夫!」


とか言って。


もともと一緒に食べる予定で、3コ作ってるんだけど…

1コ廃棄なのは、仕方ない。



「だったらココで食うだろ?

昼にはまだ早いけど、もう食う?」


「んーんっ、待っとくから…

仕事、キリがいいトコまでやっちゃって!」



隼太がいないから帰るつもりだったのに…

当然のように誘ってくれて、嬉しくなった。


だって不発な上に、それをひとりで食べるなんて虚しすぎる…



それに。


この機会に、飲み会での事相談しよう!

真面目な一生なら、わかってくれそうだし!



「ね、一生?

後で相談があるんだけど…」


「相談?

作業しながらでいーなら、今でも聞けるけど?」


「ほんと?、…ありがと」



ヒマな私を気遣ってくれたのかな?


まぁ、深刻な相談じゃないから、サラッと聞いてくれた方が助かる。




一生はデスクワークをこなしながら、

合間に優しい瞳を向けて…


飲み会でのやり取りとか、私の気持ちを聞いてくれてた。





「大丈夫だよ。

隼兄はそんな事気にしないって」


従兄弟様の頼りになるお言葉!



「ただ…


莉愛が心配だから、ヘビヴォの奴らにムキになんのは止めとけよ」


続いた、まっすぐな瞳での"心配"に…


思わず胸が、ドキッと跳ねる。



「っ、わかった…、ありがと…」


戸惑って、視線を外すも…

何が心配なんだろう?と、心で疑問。


そこでフッと、吹き出す声。



「え、なに…?」


「ヤ、それでアイツ、

ここんトコ元気なかったんだなって…」



なんの事だろう…

と、ハテナ顔を向けると。



「奏曲の事だよ。


アイツとは幼馴染みでさ…

悪い奴じゃねぇよ?

ただ、女にちょっと偏見持ってて…」


「…、偏見?」


「ん。あのビジュアルだろ?

ずっとTPOとかプライバシーとかお構いなしで騒がれて来て、いつもシンドイ思いしてたからさ。


女に嫌なイメージ持つのも仕方ねぇ、つぅか…


それでだんだんドライになって、

したら状況がだいぶマシになって、

余計エスカレートしてってさ」



それはそれで…


ちょっと可哀想なのかも。



視線を浴びまくって仕事してたカツくんの姿とか…


その渦に巻き込まれてツラかった事とか…


奏曲だったら大惨事だろーなって思った事とかが、頭に浮かぶ。




「あとアイツ妹が居て、

同じく凄ぇビジュアルなんだけど…

でもそれを武器に男を利用しまくっててさ。

そーゆーの目の当たりにして来たってのもあって…

更に偏見を強めたんだと思う」



ー「オンナは腹黒ぇからな!」ー


奏曲の言葉が頭を過る。




「まぁ、言ってた事は最低だし、女遊びはするけど。

でもアイツは、騙したり利用したりとかはしねぇよ?


それに、反省してるみたいだし…

今回の事は大目に見てよ?」



そうだね…


それでも、"女"の私を送ってくれたり…

優しいトコも、あるもんね。



「うん…


一生は友達思いなんだね」


「…、そーかな、

莉愛も、俺の立場なら、同じ事言ったと思うよ?」


少し戸惑ったような一生が…


なんだかすっごく可愛いんですけど!




「…あ、


噂をすれば…」


そう、窓の外に向けられた視線を辿ると…

敷地内に入って来た積載車。



沖田カーサービス…


車に記載された社名を映しながら、沖田総司を思い浮かべて、"いい名前だな"なんて思ってすぐ。


…って!まさか奏曲!?


すかさず運転席に視線を移すと、紛れもなく噂の本人。



ー「こいつ整備屋だからね〜」ー


隼太の言葉を思い出す。




許したとはいえ、仲直りはまだな状況に気まずさを感じてると。


車から降りて来た奏曲の、ツナギ姿と太陽に透けた茶髪が目に入って…


それが持ち前のイケメンにやたら映えてて、思わずドキッとする!




「仕上がり、早かったんだな?」


事務所に入って来た奏曲に、そう声をかける一生。



「ったりめーだろ、どこ置…っ!」


私に気付いて、会話も途中に驚きの反応。



「…お疲れ。

車、乗れたんだ?」


「…、は?

ナメんな、クソダリア…」


言葉とは裏腹に、気まずそうに目を逸らす。



「てゆっか、奏曲の会社?」


車の社名を指差した。



「ワケねーだろ、親の会社…」



なるほど…

社長って感じじゃないもんね。



「…なんか言いたげだなァ?」


「え、何も言ってないじゃん!」


慌てて、噛み合わない返し。



「でも奏曲はウチ(隼太の車屋)のお抱え整備士なんだ」


そこで一生のフォロー。



とゆう事は…

一生が隼太の右腕なら、奏曲は左腕ってトコかな?




それから奏曲は、運んで来た車を配置して…


テーブル越しに私の正面に座って、タバコを吸い始めた。



「仕事、戻んないの?」


「うっせ。

つか、邪魔にしてんなよ…」


「してないよっ、聞いただけじゃん!」



そして、しばし沈黙…



…を破って、奏曲が再び口を開いた。




「つか…


この前は、悪かったよ…」


視線を横に落として、気まずそうに呟く。



ー「それに、反省してるみたいだし」ー


さっきの一生の言葉を思い出して、


ほんとに反省してたんだ…

と、素直な反応に少し驚いた。



「けど…


そんなサイテーな考えも、オンナ遊びも…


もう、やめっから」


続いた言葉に…



衝撃的に驚いた!!



えええっ!!


私が怒ったくらいで、偏見持ちの奏曲が今までの行動変えちゃうのっ!?



ー「奏曲さんの前じゃトロケてベタ褒めしかしないって事っすよ!」ー


ふと、浮かんだ誰かの言葉。


そっか、今まではちゃんと怒ってくれる人がいなかったんだね…



そして、一生の言葉が甦る。


ー「それでアイツ、

ここんトコ元気なかったんだなって」ー



怒られ慣れてないから…

あんな事で元気なくしちゃって、行動まで変えちゃうんだね。



あぁ…


なんって健気で可愛いのっ!!




「…、なんだよその顔?」


「え、どんな顔してる?」


「…


生まれたばっかの子鹿の、立ち上がる姿見てるよーな顔…」


「ああっ!そんな感じっ!!」



そのやり取りに、吹き出す一生と。


「…っ、てめっ、バカにしてんのかァ?」


戸惑いギレの奏曲。



「してないよっ!?


ね、まだ時間あるならお昼食べてかない?

私のお弁当で良ければだけど!」


なんだかテンションが上がって!

折角だからと、3つのお弁当を取り出すと…


驚いた顔で固まる奏曲。


そして一生も、「莉愛、3つ作ってたんだ!?」って驚きの声。



し、しまった…



「ハ…、ハハ…」


笑って誤魔化すと。



「どーゆー流れだよ?」って奏曲の疑問に、一生が状況を説明。




「はァ!?

オマエっ、バカじゃねぇのか!?

俺が来なかったら、どーするつもりだったんだよ!?」


「怒ることないじゃんっ!

てゆっか…

なんで奏曲が怒るワケ!?」


「…っ、もし食いモン捨てるとかだったらサイアクだろ!

つかオマエ、隼太さんに気遣い過ぎなんじゃね!?」


「…っ、しょーがないじゃんっ!

好きな人には何も言えなくなるんだもん!」



途端、複雑な表情で黙り込む奏曲。




「…へぇ、莉愛ってそーなんだ?」


そしてまた、一生の言葉でハッとする。



さっきから、何カミングアウトしてんの私っ!

そりゃ、隠すほどの事じゃないだろーけどっ…


なんか、奏曲の前だと調子狂う…




でもこの際。


その悩みも相談しちゃおう!



「…うん。


なんか…

ウザがられるのとか、嫌われるのとか、怖くって…


ね、男の人ってどこまでならアリなのかな…?」


「…どこまでって、

人によって違うだろーけど…


逆に莉愛は?

どこまで言えない?」



相変わらず親身に優しく聞いてくれる一生に…


相談に踏み切ってよかったと、心が開く。



「ん…

どこまでってゆうか…、気持ち全般?


怒れないし、ノーも言えないし…

あと、会いたいとかも…」


「…は?

オマエ、ただの飾りか?」


奏曲のキツいひと言。



「だって!

ウザいって、嫌われたらどーすんの!?


それよりマシだよ…」


「イミわかんね…

素直な自分を受け入れてくんねぇヤツの、どこに執着すんだよ?」



それは、目が醒めるような問いかけで。



言われてみれば…!

と、大いに私を納得させたけど…




「…理屈じゃないよ。

好きになったら、それでもいんだよ…」


切ない気持ちで呟くと…


黙り込む奏曲。



相談役の主導権は一生に戻って…


「前にも、ウザくないか気にしてたけど…

そーゆーのも、直接聞けないんだ?」



「…うん。

聞くのも怖いし…

それすらなんか、…ウザくない?」


「…


莉愛って、かなり可愛いのに…

そんな自信ないんだな?」


さりげなく投入された"可愛い"に…


ドキッ!と不意打ちをくらう。



「や、えと…

自信ないってゆーか…


いい彼女でいたいし、

もっと好きになってもらいたいし、

ずっと好きでいて欲しくて…」


「…

頑張っちゃうんだ?」


「…そう!

それに、色々してあげたくなっちゃう!」


「…


莉愛はいいコだね…」


慈しむような眼差しに…


再びドキッ!と戸惑ったのも、束の間。



「…だけどそれで、上手くいってる?」


痛いトコをつく質問。



「え、えーと…

まぁ、比較的短い期間で…

飽きられちゃったり、フラれちゃったり…」


ああ…

なんて自虐なカミングアウト…



「ったりめーだろ…」


そこで会話に戻って来た奏曲。



「えっ、なんで!?」


「バカダリア…

そんな言いなりで尽くしてたら、ただのお世話ロボットだろ。


"いい彼女でいたい"って、

都合のいい彼女の間違いじゃねーのかァ?」



お、おっしゃる通りデス…


奏曲から放たれた矢が何本も突き刺さる…



「で、でもさ?

喜んでくれる人も…、いるよね?」


「いたとしても…

オトコは基本、征服欲が強えんだから、

そんなロボットオンナつまんねぇだろ。


ラクなゲームほど飽きんだよ」


「…っ、ゲーム扱い…!」


「例えだろ!」



だとしても。


私って、つまんない女だったんだ…




落ち込む私に、一生のフォロー。


「俺はそーゆー健気なコ、好きだけどね」



胸が、びっくりするくらい弾けた!



思わず目を大きくして、固まると…

一生は1度視線を逸らして、柔らかく笑って続けた。



「だけど…

甘えたり、ちょっとくらいワガママがあった方が可愛いと思うよ?

それに、気持ちをちゃんとぶつけて貰えないと、興味ないんだ?って感じるかも」



確かに…


その通りかも…!



てゆっか、私って…

相手にかなり失礼な女だった!?




「ありがと、一生…

なんかスッキリしたし、すっごく勉強になった!」


「…、そ?

まぁ、またいつでも聞くし…


とりあえず、メシにする?」


また少し戸惑ってるような一生が…

やっぱり可愛い!



じゃなくてっ!


「ごめんっ!

結局仕事の邪魔しちゃってっ…」


「いーよ、ちょうど奏曲も来た事だし」



そこで"奏曲"に反応して…

慌てて本人に顔を向けた!



「ごめんっ!奏曲もありがとうっ」


「…あ?

なんで俺まで…」


「だって、聞いてくれたし…

それにハッキリ言ってくれて、ありがとうっ」



奏曲はすごく困った表情で、顔を背けた。



えーと…、それは照れてるの?


解りづらい反応…





「豪華だね…

ほんと頑張っちゃうんだ…」


お弁当にそうツッコんで食べ始めた一生に、苦笑いを返すと…



「…あ。

コレ、美味い…

俺、甘い玉子焼きすげぇ好き。


…ん、から揚げも美味い。

隼兄が羨ましいね」


なにかと嬉しいコメントをくれるから…

こそばゆくって、今度は照れ笑い。



一方で。

しばらく食べ進めても、ずっとだんまりな奏曲が気になって…


「…ヘーキ?

嫌いなのあったら、ムリしないでよ?」



「…、うっせーな。

ウメェから今、集中してんだろが」


って…

それ、集中いる?


思わず吹き出した!



それはお怒りに触れて…


から揚げを頬張った直後、

「クソダリアァ」ってその頬を掴まれる。


だけど、そんな奏曲の瞳はいつになく優しげで…


なんだか戸惑う。



「…っ、食べてるんだから、止めてかべけふんかから、やえへ


「…ぶはっ!ブース!」



吹き出して暴言を吐くこの男に、若干ワナワナ来ながらも…


なんか楽しかった。



この2人とはいい友達になれそうだなぁ…

なんて思った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る