最低な男達
昨日はあの後…
約束通り隼太と一緒に帰って、甘い夜を過ごした。
いつになく盛り上がって…
首元にはキスマークが残ってる。
だから。
「今日は不発だったんで、もーちょい早めに来て…
明日こそ一緒飲みません!?」
帰り際の、カツくんからのお誘いには…
同じパターンを狙って、喜んで!なワケで。
早めに行くために…
出勤前の時間を使って、隼太が食べるかもな晩ごはんの下ごしらえ。
準備万端な私は、仕事が終わるとすぐにヘビヴォの飲み会に向かった。
電車を降りて、いつものビーチへ歩いてると…
途中のコンビニから出て来た女のコが、
突然「あっ!」と視線をぶつけてきた。
え、なんでしょう…
知らない相手に、キョトンとすると。
「ねぇ…、満足?」
睨みながら近づいて来る。
「え…?、えーと…」
意味が解らず戸惑いつつも…
どこがで見たような睨み顔に、記憶を探る。
そして次のひと言で、辿り着く。
「ヒロ追い出して満足?」
それはヘビヴォに繋がって…
昨日の飲み会で、私を睨んでた女のコを思い出す。
トップ5の熱烈なファンだと思ってたけど…
まさかの、ヒロが結婚考えてる今カノ!?
「や、私は…」
慌てて弁解しようとして…
言葉に詰まった。
隼太の所為にしたくない。
そんな反応は、自分が追い出したのを認めてるみたいなもんで…
「ね、利用された腹いせ?
それともヤキモチで…
あたし達を引き離したかった?」
ズキリとくる言葉で、責め寄られる。
"利用された腹いせ"
そう思うのは…
ヒロから、"利用した"って聞かされたって事で。
私、利用されてたんだ…
確かに、都合がいい女やってた自覚はあるけど…
改めて傷つく。
最初は、すごく仲良いカップルだったはずなのに…
当時。
社会人なりたてだったし、バイクのローンとかもあったのに…
1人暮らしを始めた。
生活が苦しくなるのは解ってた。
だけど。
郊外に住んでたヒロの、不便を訴えるSOSとか…
もっと一緒に居たいとかって甘えに、応えたかったし。
私だって、親を気にせずいっぱい一緒に居たかった。
なのに…
行動が便利になったヒロは、浮気するようになった。
その頃はまだ16歳で、遊び盛りだったんだろうし…
私も束縛とかしなかったから。
好きになるほど…
ウザがられたくなくて、
嫌われたくなくて、
なにも言えなくなる私。
だから浮気も、わかってて黙認して…
余計それを加速させてた。
それからヒロは、だんだん来なくなって…
毎日ヒロの為に作ってたごはんも、ほとんど自分のお弁当に代わってた。
たまに来ても…
Hだけして帰ったり、お金を借りる目的だったり。
もちろんそれは、返してもらってない。
なけなしのお金だったけど…
請求出来なかったし、ヒロの力になりたかった。
それにお金の貸し借りは、揉め事を起こすだけだから…
最初からあげるつもりで貸してたし。
当然。
都合がいい女になってるなぁ、って気付いてた。
それでも…
会えるだけで良かった。
そーやって縋り付いてても、結局はフラれちゃって…
その後の恋愛も似たような感じ。
だから…
隼太との今の状況に、ヒロとか今までの相手の顔とかが浮かんだんだけど…
「ちょっと聞いてる!?」
その声にハッとした。
目の前にはイラついてる女のコ…
セリフから間違いなく、ヒロの今カノ。
「…あっ、うん!聞いてる…」
慌てて返しながら…
どうかわそうかと、頭をフル回転。
「…なんか他人事?
いー気なもんだね。
ヒロ追い出したクセに、自分だけ楽しんじゃってて…
性格わるっ!」
更に言い責める今カノに…
いっその事、謝っちゃった方が早いかも…
なんて思った瞬間。
「いーねえ!女の修羅場!
盛り上がるねえ!」
聞き覚えのある声と口調に…
「ケンくん!」
「ケンさん!」
その姿を捉えるなり、2人して呼び声をあげた。
「あ!いーよ、いーよ!
俺ン事は気にせず続けてっ!」
どーぞ!の手を広げるケンくん。
いや、面白がらないで〜っ!
「ね、ケンさん!
この人まだ隼太さんのオキニなんですかぁ!?」
またオキニ…
なんだか回想の所為で、ヤケに胸に突き刺さる。
「さーねえ!
けどアイツ!嫉妬でヒロ追い出すくらいだし〜?今回はマジかもよ〜!?」
その言葉で、突き刺さったモノが抜け落ちる。と、同時に…
「え、
隼太さんの意思で追い出したんですか!?」
誤解も解決。
有難いけど…
隼太を庇った意味がない。
「……、なんか…、ごめんなさい…」
バツが悪そうに呟いて、去って行った今カノ。
悪いコじゃ、なさそう…
結婚考えられてるくらいだもんね。
「ありゃ〜!
水差しちゃったよ、俺」
いや、残念がらないでー!
結果的に助かったとはいえ…
ケンくん、楽しんでたよね!?
軽く冷めた目を向けると…
「おっ!熱い視線…
お礼ならホッペチューでいーよお!」
「しないから!」
でも、お礼って…
楽しんでるフリして、
ちゃんと助けてくれるつもりだったんだ?
「…けど、ありがと」
「言葉だけか〜い!
まっ、可愛い〜から許してやろう!」
よく掴めない人だけど…
明るいし、ケンくんも悪い人じゃなさそう。
「しっかし、ヒロもワルイ男だね〜!
リアちゃんを利用するなんてもっ、サイテーだねえ!」
ソコほじくり返さないで〜!
てゆっか、いつから聞いてたの?
もっと早く助けて下さい…
「最低だよ…
ほんと、どーやったら浮気って防げるのかな…」
思わず呟く。
それを防げたら、違う結果になれたんじゃ…
なんて。
確かに黙認した私もダメだけど…
怒って止めてくれるんなら、誰も苦労はしないと思う。
「そりゃあムリな話だなァ!
同じ女ばっかじゃ飽きるからね〜!
たまにつまみ食いすっから、また主食が美味く感じる!まっ、必要悪だねえ!」
「そーなの!?
じゃあもし、顔もスタイルも中身も究極に理想の相手だったら!?」
「同じっしょお!
最高級ステーキ、毎日食えっかァ?
たまには味噌汁、飲みたくなるよねえ!」
たっ、確かに…
だけど。
そーじゃない人もいるはずだし!
例えば…
せめて煙草くらいの中毒対象には、なれないのかな…
「まっ、女も器を大っきくねえ!」
……、その結果利用されたんですけど。
ノンキなケンくんに小さく溜息を零しながら…
2人でビーチへと歩いた。
「おっ!見〜っけ!」
ケンくんの視線の先に、奏曲とカツくんを発見。
「あれ、一生は?」
レディースのトコかと思ったけど…
そっちもまだ来てなさそう。
「あ〜、2人とも今日は来ないよ〜!
昨日の飲み会で、車屋ン方の客バンバン掴んじゃったからねえ!
あいつら忙しいの!」
ええっ!
2人ともって、車屋って…
隼太も来ないの!?
ガッカリ感、果てしないかも…
「あっ!リアさーん、って…
なんでケンさんも一緒なんすか!?」
こっちに気付いたカツくんが、驚きの声をあげて…
隣の奏曲は、怪訝そうに視線を向ける。
「よーお!お前ら〜!
今日から俺の女なんでヨロシク〜!」
相変わらずチャラいケンくん…
深く相手にせずにスルーすると。
「ええ〜っ!
今回はガチで狙ってたのに!」
「や、信じないでよ!」
カツくんの冗談にツッコミながらも…
今回は、って何?
「ケンさん、ビールでいっスか?
ダリアは?」
奏曲がクールボックスに手を伸ばす。
「い〜よお!」ってケンくんと同じく、ビールをリクエストして…
カツくんの隣に座った。
歩いて軽く汗ばんだ首の、まとわりついた髪を掻き除けると…
「首、どーし…
あっ!まさかキスマークっすか!?」
それを隠したバンドエイドに、鋭いツッコミ。
「え…、エヘッ」
幸せいっぱいな笑顔で誤魔化すと。
「接客業のプライドねーのかよ?」
奏曲のキビシイひと言。
「…っ、だから隠してんじゃん!」
私だって困ったよ!
だけど好きだから拒めないし、嬉しくてつい…
「そーゆー問題じゃねぇだろ?」
更にもっともな返し。
今日店長にも、他の場所にして貰いなさいよって、ため息を吐かれた。
年下で不良のクセに、何気にしっかりしてる奏曲を相手に…
この前言われた"ガキ"を、痛感する。
「まーまっ、楽しく飲みましょーよ!」
その話題を作ったカツくんが、バツが悪そうな顔で切り替えた。
そしてケンくんもフォローなのか…
「あっれ!奏曲、ヤキモチかァ〜!?」
「…っ、マジねえっス!」
それに一瞬戸惑ったものの、全力否定。
そんな真に受けなくても…
でもそーゆートコは可愛いくて、思わずニヤケる。
「…っ、クソダリアァ」
それに気付いた奏曲が、いつもみたいに優しく頬を掴んできた。
「違う、違うっ!奏曲を笑ってないよっ?
楽しく飲もーとしただけだって!」
ムリやりな言い訳で、ジャレ合ってると…
「奏曲さん、いちいち触んないで下さいよ!」
カツくんが仲裁。
そしてケンくんが…
「ふう〜ん!
リアちゃん人気モノだねえ!
隼太がキスマークつけるハズだ!」
胸を騒つかせるひと言!
それって…
隼太は基本、つけないって事!?
どうしよう…!
特別感が嬉しくて、嬉しくてっ…
もうガキでも何でもイイかも!
嬉しさも束の間。
「ケドお前ら!隼太の次は俺だからなァ!
先に手ェ出すなよ〜?」
「ええ〜!それはリアさんが決めるコトじゃないすかぁ!?」
って、ケンくん!カツくん!
勝手に話進めないでー!
次とか、さっきの"今回は"とか…
「なんの話!?
なんかっ、別れる前提になってない!?」
「そりゃあ!いつかは別れるっしょお!
だって俺ら10代だよ〜?
まだまだ遊び盛りだからねえ!」
確かに、そーかもだけど…
なんだか胸がチクリと痛む。
でもヒロみたいに結婚考えてるタイプだっているし!
「だからリアちゃ〜ん!
そん時は俺らが慰めてあげるねえ!」
ケンくんの、つくづくチャラい発言に…
軽くムカつく。
「バカにしないでよ。
だいたい彼氏の友達となんて、ありえないから」
「あれっ!
ヒロから隼太はアリなのに〜?」
うっ、それを言われると…
「大丈夫!気にすんな!
隼太の女はだいたいそーだから!」
「え…、なにそれ…」
「んん〜?
みんなアイツにハマりまくっちゃうからねえ!
別れたら、俺ら幹部に身体で取り入ってまで、戻れるよーに頼み込むワケ!
ま、アイツの女は極上なのばっかだし〜?
俺らとしてわ、エロ得だけどねえ!」
マジなの!?
なんかそれって…、病的っ!
隼太中毒の禁断症状で、おかしくなってるみたい…!
「それでっ…、戻れるの!?」
「試してみる〜?」
ニヤついたケンくんに、ハッとした。
「私はそんな事しないし!
てゆっか、"今回は"って…
カツくんもエロ得してたの!?
そんで私もそーなるって思ってたの!?」
「ヤ、その…
確かにエロ得はしてたっすよ?
やっぱ、得なのはもらっとかないと…
でもっ、リアさんのコトはガチで気に入ってんすよ!」
「よ〜し!わかった!
じゃあ俺の後で好きなだけニャンニャンさせてやるよ!」
カツくんとのやり取りに割り込んで来た、ケンくんの発言が…
再び私をムカつかせる!
「いい加減にして!勝手に決めないでよっ」
そこで、黙ってた奏曲が口を挟む。
「図星じゃねぇなら、キレんなよ!」
言われてみれば、そーだけど…
こんなフザけたやり取り、流せばいんだけど…
でもなんか。
エロ得されたコ達の気持ちとか、私の気持ちとか…
そーゆー隼太への想いを軽く扱われて、バカにされてるような気がして。
「うるさいな…
奏曲だってエロ得楽しんでるんでしょ?
そんな人には、わかんないよ」
「俺はそんな面倒くせぇオンナ、相手しねぇよ。
ま、自分で濡らして股開いて待ってんなら、手間ハブけて使えるけどな」
バカウケするケンくんの声を聞きながら…
最っ大にカッチンきた!
「最っっ低ぇ!!
何様?女のコを何だと思ってんの!?
いくらイケメンだからって、調子乗り過ぎじゃないっ!?」
中身までイケメンとか頑張り屋だとか、
悪い人じゃなさそうとかって思ってたけど…
最低だこいつらは!
女に関しては非っ情に最低だ!!
「まーまー、リアさん!
奏曲さんが口悪いのはいつものコトじゃないすか!
奏曲さんも!なに挑発してんすか!」
慌ててカツくんが場を収める。
「へーえ!俺らに媚びじゃなくて喧嘩売っちゃうんだ?
オっモロイねえ!リアちゃ〜ん!
ますます抱きたくなってきたねえ!」
それを台無しなケンくん…
盛大なため息が溢れた。
そして、ふと浮かぶ…
「まさか、一生もエロ得…」
「あ〜、アイツはマジメだからねえ!」
ケンくんがその想像を打ち消して、更に…
「一生さん、オンナ遊びしないんすよ!」
その事実に驚きを込めて伝えるカツくん。
続けて奏曲が締めくくる。
「アイツ、惚れたオンナだけ大事にするタイプだからな」
そう言えば隼太も一生の事、真面目でイイ奴って言ってたし…
当の一生も、チャラいコ嫌いとか言ってたね。
「ふぅ、ん…
一生の彼女になるコは、幸せだね…」
もしかしたら、隼太のそれよりも。
「私、帰る」
一生ならともかく、こんな最低な奴らと飲みたくない。
「ちょっ、リアさん!
楽しく飲みましょーよ!?」
焦って引き留めるカツくん。
このコはそんな最低じゃない気もするけど…
隼太(リーダー)の彼女な私に"ガチで気に入ってる"なんて…
胡散臭くて、逆に引く。
「つか、今日はまだ送れねぇぞ?」
もともと送って貰うつもりもなければ、
それ以前に!
「てゆっか、
奏曲なんかに送られたくないから!」
少しショックを受けたような驚き顔が映ったけど…
見ないフリした。
「ありゃ〜、怒っちゃってるよ」
ケンくんのバカにしたような言い方が、いちいち癪にさわる。
「…
ヒロの事悪く言う前に、エロ得利用してる自分を見直したら?」
瞬間。
ケンくんの瞳がゾクリとするような重みを帯びて、ドキリとした。
「あのねえ!リアちゃ〜ん!
騙して利用すんのと、頼まれて利用すんのは違うっしょお〜?
それに俺ら目当てもザラにいるワケ!」
だけどすぐに、今まで通り。
まぁ、そうなんだろーけどさ…
「…っ、早く帰れよ。つか、もう来んな」
そこで奏曲の反撃。
言われなくても帰るし!来ないから!
そんな気持ちで睨み返して…
そのままビーチを後にした。
そしてハッとする…
隼太の仲間になんて事を!
しかもまた年下相手にムキになって…
どーしよう。
隼太の株、下げちゃうかな…
私、嫌われないかな…
あ〜っ!隼太に合わす顔ないよ…!
ごめんね。
バンドエイド越しに、キスマークを指で辿った。
ねぇ…
隼太はヒロとは違うよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます