トップ5

次の日。



「莉愛ぁ?今から行っていィ?

腹減ってンだけど、なんか作れるゥ?」



PM11時。

晩ごはんもお風呂も済ましたトコで、思い掛けず隼太からの連絡。



「うん!いーよっ!すぐ用意する!」


ハイテンションで、慌てて冷蔵庫を確認。



今日は買い物行ってて良かったぁ!

何作ろっかなっ!





「この味ヤバイね。

俺ェ、莉愛の味付けスゴイ好きかも」



生姜焼きのサラダ風オムライスとコンソメスープ。


すぐに出来るメニューをチョイスしたけど、正解。



「こんなウマイの毎日食えたらサイコーだねェ」


「大げさだよっ」



うう、嬉しいっ!

喜んで毎日作るよ!



「大げさじゃないよォ?

忙しくてもさァ…

晩メシだけ食いに来ていィ?って、甘えたいくらいだし」


「甘えてよっ!

ぜんぜんっ、ごはんだけ食べに来てっ?

作るの、好きだしっ…


隼太に会えるだけでも、嬉しいよ?」


絶好のチャンスにくらいつく。



「莉愛ァ?

そぉんな可愛いすぎる事言っちゃってたらァ…

メシだけじゃ終わんないよォ?」


そう言って私をグイッと抱き寄せると…

柔らかな熱が耳朶を挟んで、熱い舌先が暴れだす。


思わず身体が捩れて、声を漏らすと…



「ねェ、莉愛ぁ?

ホントに甘えて、いい?」


甘い、甘い声音が波紋する。





見事にチャンスを掴んだ私は…

次の日から早速、隼太がいつ来てもいいようにスタンバイ。



なのに。


「今から行くね」って連絡があったのは、1度だけ。



すぐに作れるように下ごしらえを終わらせて…

いつも0時までは待つんだけど。


結局ひとりで食べて、残りは翌日のお弁当に。


2食続きの軽く豪華なメニューに、若干ウンザリ…







そんな週末。


早番で出勤すると…



「リアさんゴメンっ!

誘っといて俺、酔っぱらってっ…」


従業員入口で、私を待ってたカツくんの第一声。



「あ!おはよっ!

あれから大丈夫だった?」


あの後どーなったかは、聞かないどこう…



「ヘーキっす!

それで今日、リベンジでまた飲みませんっ?」



え、飲みたいっ!


けど。

ノルマ達成してないから、参加資格ないよ!


そこはちゃんとスジ通したいし…



「あ〜、今週は予定あるかな…

また今度誘ってよ!


ところでさっ?」


中へと進みながら、ステッカーサバきのコツを聞こうとして…



「え、リアさんいつも弁当なんすか!?」


それを遮ったカツくんが、私の手に下がってるお弁当袋を指差す。



「…えーと、最近は」


「うっわ、いーなソレ!

俺なんか毎回余ったタコ焼きっすよ?」



そう聞いて、この前のおいしい揚げタコの記憶が、口の中に広がる。



「食べたいっ!

ね、交換しないっ!?」


「え、マジっすか!?

余ったタコ焼きっすよ!?」


「ぜんぜんいーよ!交渉成立っ!?」


「ヤ、俺はよゆーでOKっす!」



とゆうワケでランチは…

カツくんのこっそりサービスで、トッピングたっぷりの揚げタコに!




だけど、お弁当箱回収を忘れて帰ってしまった私は…


次の日にカツくんを訪れたけど、本店にヘルプでいなくって。


また百均で買うハメに。



ステッカーのサバき方も聞いてないままだし…

とにかく、自力で頑張るゾ!





「もしもしぃ?

久しぶり〜!電話くれてた〜?」


「あ、うん!

久々でいきなりなんだけどさ、」


学生時代の友達とか知り合いとかに、片っぱしからステッカー販売。



「いーの、いーの!

でももし周りで誰か居たら、紹介してね?」


そして撃沈。



そりゃそーだよね…

ハタチにもなって、何やってんだろ私。





だけど努力は報われたのか…



「あのォ、リアさんって人居ますぅ?

ヘビヴォのステッカー買えるって聞いたんですけどー」


そんなコ達が、日に日にチラホラ。



あっとゆー間に、1週間で…


ノルマ達成!!





そして週末の今日は、例のごとく従業員入口で…



「リアさん、おはよ!

今日は一緒に飲めそーっすか!?」


「おはよカツくんっ!

隼太次第だけど、行けるよっ?多分!」



週末はほとんど来る事ないし、

むしろ隼太もビーチ飲みに参加するだろーし…


正々堂々の参加(予定)にハイテンション!



「マジすか!

あっ、弁当すげーウマかったっす!

箱持ってくんの忘れたんで、そん時渡しますねー!」


「うん!でも、多分だからね!?」


「あー、じゃ来れない時連絡下さい!」


と、流れでケー番交換。





その日は仕事が終わると真っ先に家に帰って…

念のために晩ごはんのスタンバイ。



今週は、ごはんと私を食べに4日も来てくれた隼太。


1時間くらいで帰っちゃうけど、この流れを壊したくない。



ふと、誰かの顔が浮かんだけど…


慌ててそれを掻き消した。







「カツくん今どこっ?」


せっかく交換したんだから、ケータイを活用。


おかげでキョロキョロ探す事なく…



「お疲れっ!」


「あっ!リアさんおつかれー!

遅かったっすね?

そだ、コレ…

ごちそーさんっしたァ!」


「いーえっ、むしろありがと!」


差し出されたお弁当箱を受け取ると。



「ケー番に、弁当に…、仲いーな。

俺にも作ってよ?」


と、挑発的に見つめる一生。



冗談かと「ハハ…」って受け流しながら…


今さら気付く!!



「作るっ!

作る作る、余っ裕で作る!

今度休み、隼太の分と一緒に作って持ってく!」



なんで気付かなかったんだろ!

差し入れとかお弁当とか、彼女なら普通だよねっ?


仮にウザかったとしても、それを確かめるべく、一生のリクエストって言い訳もあるしっ!



「フッ、…楽しみにしとく」


見透かしたように笑って、そう零す一生を前に…

我に返って、恥ずかしくなってきた。




「あと、俺も聞いてい?」


そして、そうケータイを構える一生とも番号交換し始めると…


同じくケータイを構えてる奏曲。



「え、奏曲も?」


何気に確認すると、



「…


俺だけハブんのかァ?クソダリアァ」


と、久々に頬を掴まれる。


だけどまた包むように優しいから、なんか戸惑う。



「ちょっ…、離してよっ…」


その手首を掴み返して、外しながら…


切り替えるように、言いたかった事をぶつけた。



「それよか、奏曲っ!

私っ、ノルマ達成したよっ!」


"せーぜー頑張れば?"に対抗して、自慢気に言い放つ。



「…、遅っ!

威張ってゆーなよ!」


「なっ…!

これでも頑張ったの!」


軽くカッチンきて、膨れっ面に。


奏曲はフイッ、と視線を外して…



「…ま、良かったな。

つか、ケー番!」


どこか照れくさそうに言い零す。



それが可愛いかったし…

隼太からは、昨日ちゃんと褒めてもらったし。


良しとするか!




「今日は誰も餌…

えーと、レディースのトコに行かないの?」


ケー番交換を終えて問いかけると。



「さっきまで散っ々、絡んだよ」


ウンザリした様子で応える一生。



「…嫌なの?」


そりゃ餌は嫌だろーけど、あんな可愛いコ達にチヤホヤされてるのに…



「俺はヤだね。


ビール?ジーマ?」


と、クーラーボックスに手を伸ばす。



「あ、ありがと。

じゃあ〜、まずはビールで!」


「リアさんハイペースで来なきゃ、俺に追いつけないっすよ?

つっか今日こそはエロリア期待してるんで!」


「ん、俺も見たい」



「だからっ、エロくないってば!」


カツくんと一生の、シツコイそのネタを全力否定。



「あれェ?

ベッドの上じゃ、すごぉくエロいよォ?」



突然降ってきた妖艶な声に、心臓が飛び跳ねる!



「じ、隼太ッ!来てたのッ!?」


嬉しくて声が弾む!



「今来たとこォ〜。

つぅか莉愛、すっかり"仲良し"しちゃってんだねェ?」


「え…っ、えーっと…」


それがアリなのかダメなのか…

返事に戸惑う。



「へーえ!

軽く清純そ〜でエロいんだ!このコ!?

萌えるねえ!」


そこでいきなり割り込んで来た声に、

目を向けると…


隼太に夢中で気付かなかったけど、その隣にガタイのいい男。


そしてそいつの言葉で、隼太の第一声を思い出す。



「違っ…、エロくないから!

もうっ、隼太〜!」


エロいのは隼太でしょお!


困惑気味な私に、イタズラな笑顔が向けられて…

それにドキッ、て戸惑うと。



「やっぱ可愛いねえ!

どお?俺にも抱かれな〜い!?」


なんて…

チャラい事を投げかけてくる、ガタイのいい男。



「ダァ〜メ。

莉愛は俺の女だからねェ」


だけどそう言ってくれた隼太に…

胸がキュンの嵐!



「はあ!?

俺が先に見っけたのに、お前が横取りキメたンだろ〜」



先に見っけた?


ガタイのいい男の言葉で、ふと甦る…

出会った日の記憶。


そのワイルドな雰囲気と豪快な口調が…



ー「うっわ!可愛いっ!

あーゆーコ、い〜ねえ!」ー


あの時、最初に騒いでた男と重なる。



そして、あの時はあんま見ないようにしてたけど…

同一人物と思われる目の前のそいつも、かなりのイケメン。


どこか危険な匂いが漂ってて、肉食獣みたい。



そんな肉食イケメンに、隼太は…


「当然っしょォ?

こぉんなイイ女、俺がほっとくワケないデショ」


そう言って、私の肩を抱き寄せた。



胸が、爆発したみたいに弾けて…


嬉しくて嬉しくて!

だけどみんなの前で恥ずかしくて!


悶える気持ちを隠すように俯いた。


途端。



「あっれー?

そのコ、隼太のオキニだったんだぁ。

てっきり奏曲のオキニかと思った〜」


聞き覚えがある声に、顔を上げると…


リーダーユリカ。



そしてその後ろには、たくさんのヘビヴォメンバーが集まって来てる。



てゆっか、オキニ?


嫌な言い方が不安を誘う。



「くっだらねぇ事言ってんな」


ふいに奏曲が口を開く。



「あれあれッ?

奏曲クン、こわぁ〜いッ」


それをケラケラ笑うリーダーユリカ。



隼太はフッと笑って…


「ユリカチャ〜ン、仲良くしたげてねェ?」


って、今度は挑発的な笑みを浮かべた。



そして集まって来たメンバー達でザワつき始めると…


隼太は私から離れて、その集団に声かける。



「みんな飲んでるゥ?

困った事はな〜んでも相談乗っちゃうから。

仲良くしよぉねェ?」



メンバー達は歓声をあげて、それに応える。


「すげー!隼太さんサイコーッッ!」


「つかトップ5揃ってんじゃん!

マジかっけえ!」


「ヤバイ!トップ5たまんないっ!」



男のコからも女のコからも、口々にそんな声が聞こえて…


なにかの宗教団体だろーか。



ま、でも確かに。

こうもイケメンな5人が揃うと、もはや神々しい…



それはともかく。この前聞きそびれた…


「トップ5って、この5人の事だったんだ?」



隼太・一生・奏曲・カツくんをクルッと見渡した最後に、肉食イケメンで目を止めると…


ニイッとした笑顔と一緒に、応えが返される。



「そお!ヘビヴォランク上位5にーん!

ちなみに俺はサブリーダーの村主剣すぐりけん

隼太とは中学からの連れなんでよろしく!」


そう捲くし立てて、握手の手を差し出して来た。



中学からの連れ…

だから隼太と対等に接してたんだね。



「あ、町田莉愛です。よろしく」


握手を返すと…


グッとその手が引かれて、そこにキスが落とされた!



びっくりして固まる私。


には、お構いなしに…




「てーか、トップ6でよくなぁ〜い?」


リーダーユリカが、奏曲と一生の肩に手を回して、ケンくんにブーイング。



「いーねえ!ユリカなら大歓迎〜!」


ケンくんは何事も無かったように、私を置き去りで盛り上がる。



や、手にキスくらい…

うん、そこは大した事じゃないとしても。


普通、友達の彼女にするっ!?

しかも見てないとはいえ、隼太の近くで…


お、欧米か?なんて。



その時ふと視線を感じて、そこに焦点を定めると…


睨んでる女のコの姿。



トップ5の熱烈なファン?

こ、こわ…




そして隼太は、私の側に戻ってくるなり。


「莉愛ァ?

俺はリーダーのお仕事で、みィんなと飲んで来るけど、へ〜キィ?」



「え…、うんっ、ヘーキ!」


イヤだけど、明るく取り繕う。



それを察知したのか…


「構ってあげれなくて、ごめんねェ?

でも。帰りは一緒に帰ろぉね」


耳元で、甘く囁く。



もうそれだけで、十分だよっ!


それに。

自ら率先して、ノルマ対応に回るなんて…


いいリーダーだね。




「よし!行くぞカツ!お仕事、お仕事〜!」


「ええっ!まだリアさんと飲んでないのに〜!」


そんなケンくんとカツくんをニッと笑って…


「じゃあ一生ィ、莉愛の事よろしくねェ」と、去って行った隼太。



「んーじゃ奏曲わ、エロ担当よろしくぅ」


その腕に絡み付きながら、次はリーダーユリカが指示をする。



奏曲はそれを払って、チラッと私に視線を流すと…


「じゃーな、ダリア」


ひと言零して、みんなと同じく立ち去った。



とりあえず私は…


「…一生、よろしくね」


隼太のセリフをマネて、その隣に座り込む。




「…寂し?」



「…まぁ、ね」


思わず本音が出ると。



「俺が居ても?」


そう返して来た一生に…


胸がドキつく!



「やっ、寂しくない、寂しくない!

一生のおかげで寂しくないよ!?」


焦って弁解する私を、フッと笑うと…


視線をみんなの方に移して、タバコを吸い始めた一生。



もしかしたらみんなと飲みたかったのかも…


なんか私、邪魔じゃない?

トップ5以外のメンバーとも絡まないし。


参加するの、控えよっかな…




「なんか…

俺得だね、このシチュエーション」


ふいに、思いがけないひと言。



「え、得なの?」


「得だよ?

俺、チャラいコ嫌いだし。

大勢で騒ぐのも、あんま…」



そーいえばさっき言ってたね…

レディースのコと絡むの、嫌だって。



「ノルマ対応も大変だね…」


労いながらも…

邪魔じゃなかった事に安心して、私もみんなの方に目を向けた。



「てゆっか…

ノルマ対応が必要なメンバーって、こんな多いんだね?」


今さらな疑問。


私が何の問題も起きなかったのは、10枚だからか…



「ヤ、3分の1くらいかな。

あとは会ごとに違うメンバー呼んで…

ヘビヴォの交流会も兼ねてんだよ」


「へぇ…

交流して、どーするの?」


その問いかけに…


なぜか黙り込んだ一生を、覗き込む。



「…あー、まぁ、車の販促とかに役立つし」


「ああ!やっぱ頭いーね、隼太!」



感心する私と違って、複雑な表情の一生が…


少し、気になった。




でもその後は…

お互い"お酒強いね"とか、今までの飲酒トークとかで盛り上がった。


一生、未成年のクセにだけどね。



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