ステッカー

「ほんとっ!?

ものすっごぉぉく、助かるっ!」


「いえですー!

その後輩、ずっとヘビヴォに入りたがってて、ツテ探してたんで!

その友達も多分入りますよー?」


帽子屋のバイトちゃんの紹介で、なんとかステッカーが2枚は売れそう!



「でも意外ですねー?

町田さんが、ヘビヴォと関わってるなんて」


「…ハハ」と、苦笑い。


リーダーと付き合ってるなんて、言えない…



普通に生きてきたし。

自分でも、ヒロとの出会いがなければ関わらなかった世界だと思う。



とにかく!

ノルマで渡す分のステッカーも貰わないとだし、これで正々堂々と電話できる!


って…


私、彼女?







「とりあえず、また売れた時よ〜に100枚渡しとくねェ」


「…う、うん」



その都度渡して欲しかったナ…

しかも100枚とか、重圧。



「おいでェ、莉愛」


そんな私に気付いてか、優しい眼差しで抱き寄せる隼太。



「莉愛はイイコだねェ…

難しかったハズなのに、

俺の為に頑張ってくれたんだねぇ」


その指が私の髪をとく。



「うん…

…でもヘーキ、だよ?」


ちゃんと解ってくれてただけで、それだけで…

全部報われる。



気になってたレディースリーダーとの関係も、今はいいや。


って、思った矢先…



「そォ?

けどもしノルマの事でモメたらさァ、

処理班に片付けさせるから、遠慮なく言ってねェ?」


「…、処理班?」


「そぉ。

ウチにレディースがいるの、知ってるゥ?

そこの幹部にね、そーゆーの任せちゃってるからァ」



瞬間。

リーダーのコのゾクッとするような可愛い笑顔が浮かんで、


ー「隼太から伝言〜!」ー

その声が頭の中に響いた。




ねぇ、そのコとはどこまでの関係!?

どう思ってる!?


聞きたくてたまんないのに…!



聞くのが怖くて、

ウザがられたくなくて、

奏曲の"ガキ"で年上を意識して、


聞けなくて。



唇と一緒に、抱き包んでくれてる隼太をぎゅっとした。



「んん?…どしたァ?」


「…っ、そー言えば一生って従兄弟なんだね!

車屋も一緒にしてるんだ?」


そんな気持ちを誤魔化すように、バッと身体を離して、とっさに話を取り繕った。



「…あれェ、

もぉ仲良くなっちゃったァ?」


「や、仲良くってゆうか…」


少し戸惑うと。



隼太はクスっと笑って、質問の答えを続けた。


「俺が車屋始めてすぐに、一生にノウハウ叩き込んでェ…

あいつが高校卒業してからワ、ほとんど任せちゃってるかなァ」


「そーなんだ?

てゆっか、一生はちゃんと高校出てるんだ?」


「出てるよォ?

あの2人はなんだかんだ真面目だからねェ」



あの2人…

もう1人は奏曲かな?



「ちっちゃい時から可愛いがってたからかなァ?

やりたい事もあっただろ〜にねェ。

俺が頼んだら、喜んで手伝ってくれたよ。


いい奴デショ?あいつ」


「うん。それに…

隼太も慕われてるんだね」


そう微笑むと…


隼太の艶っぽい瞳が、まっすぐに私を捕らえた。



思わずドキッ!だけじゃ収まらず、それは動揺まで生んで…


「でっ、でもなんで一生の事教えてくれなかったの?」


なんて、かわしてしまう。



「そんなの、莉愛との大事な時間にど〜でもいいデショ。

それともォ?

一生の事が気になるゥ?」


「違うよっ!私は…


隼太の事、もっと知りたいだけだよ…」


そう視線を横に落とすと…


身体が、隼太の熱に包まれる。



「可愛いね、莉愛…

今日は、覚悟しといてねぇ?」


甘く妖艶な声音が、私を侵して…

つーぅ、と舌先が首筋をなぞり上げる。



隼太とゆう底なしの沼に…


どんどんと、落ちていく。







とりあえず。


ステッカーを買ってくれた2人とは、ノルマの件で揉める事もなく。


レディースリーダーに頼りたくなかった私としては、一安心。



「莉愛ちゃん、休憩1番どーぞ〜?


そうそう!新しく出来たタコ焼き屋さんに、すっごいイケメンが働いてるの!

行ってみたら!?」


「ハハ…、お先でーす」


彼氏ばっか、のめり込むなって言いたいんだな。



とは言え、今日はそのタコ焼き屋があるフードコートでランチの予定。


今日までの割引券を使わなきゃ!





「うわ、スゴ…」



注文したら、席で出来上がりのアラームが鳴るのを待つはずなのに…

何あの人集り!


女子高生、写メ撮ってるし…

タコ焼き屋さん、そんなイケメンなの!?



隣のオムライス屋に向かいながら、チラッとその姿を覗いたら…


腕辺りの服で汗を拭おうとしながら、顔を上げたイケメンと、バチッ。


目が合って「あっ!」としたそのコは…


カツくん!



同じく「あっ!」って驚いた私に、

笑顔でペコッとお辞儀をしてきて…


周りが騒ぎ出す。



気まずくお辞儀を返すと、

カツくんはバックヤードに姿を消して…



「リアさん1人っすか!?」


そこから表に出て来た。



や、出て来ないでよ!

周りの視線がツライ…



「1人、てゆっか仕事中なの!

カツくんも早く戻りなよ!」


「え、このモールで働いてんすか!?」



人の話聞いて下さいっ!


「そうそうそうそう、

じゃオムライス買うから、また!」


「あ、じゃあ仕事帰り寄って下さいねー!」



一方的な約束を残して、言い逃げっ!

私まで、この視線の渦に巻き込んで…


カツくんは、いつもこんな視線の中でヘーキなのかな?



奏曲がこんな仕事したら、きっと大惨事だろーな…





そして、仕事帰り。



「お疲れっすー!

タコ焼き食いません?余りもんで悪いすけど」


「え、いーのっ!?ありがと〜ッ!」


約束通り、タコ焼き屋に顔を出して…

なぜか一緒に食べる事に。



ま、なんでもいっか!


タダだし。

仕事終わって、小腹空いてるし。


…タダだしっ!




「ん〜!おいしっ!

揚げタコって、こんな美味しんだねっ!」


「出来立てはもっとウマいっすよ?

けど作んのは大変で…、ほら!

ヤケドすごいっしょ!?」


って、油がハネた痕でいっぱいの腕を見せる。



「うわ、スゴ……、痛くない?」


思わずその腕を、つぅ…と指でなぞると。



「…っ、リアさん何気にエロいっすね」


「えっ!…ゴメンっ!

そんなつもりじゃなくてっ…」


「ヤ、嬉しっすよー?」



や、嬉しくなんないでー!

てゆっか3コ下相手に、なに動揺してんの私!



「け、けどカツくんが同じモールで働いてたなんて、驚いたな〜」


話を変える。



「俺もっす!

リアさんはどこっすかー?」


「私は、本館2階の帽子屋だよ」


「マジすかー!今度行きますね〜」


来なくていーよっ!



「でも俺、本職はドカチンなんで!

タコ焼き屋は今日みたいに祝日とか、あとは土日しか出てないんすよ」


「へーぇ…

って!じゃあ休みは!?」


「雨の日っす。まぁ、若いんで!

それに、現場が早く終わる時もあるんで余裕っす!


あっ、この前リアさんトコに行った日も、早上がりでヒマだったんすよねー」



す、スゴい…

こんな美少年で可愛いのに、パワフル!



「なんでそんな働くの?」


「あー、俺んちビンボーなんで!

しかも8人兄妹っすよ?

長男なんでホント大変っす」


って、楽しそうに笑う。



もともといいコだとは思ってたけど…

改めて、すごく見直した。


きっと高校行ってないのも、金銭的な理由かも。



「だからステッカー収入とか、ありがたいんすよねー」


そこで突然、気になるテーマが投げ込まれる。



「ステッカー収入!?」


「そっす!

…あれ、きーてないすか?」



カツくんの話によると。


あのステッカーを20枚サバくと、21枚目から2割の売上バックが付くらしい。


しかもサバいた数が多いほど、幹部に上がっていくんだそう。



隼太って…

つくづく頭がいい。


でも私にその事を教えてくれなかったのは…

20枚とかムリだって、解ってるんだね。


自分が情けない…




「あ、リアさんこの後ヒマっすか?」


「え…、隼太から連絡なければ…」


「あ〜、今日は頼母子たのもしなんでナイっすよ!

じゃっ、みんなで飲みません?」



タノモシ?

なにそれ…


てゆっか、飲むって!



「17歳〜!

遊んでないで、少しは身体休めなさい!」


そー言うとカツくんはキョトンとしてから…

めちゃくちゃ可愛い笑顔を見せた。



「ソレ、心配してくれてんすかー?

ヤバイっすね!


けどダイジョブっすよ?

ドカタがない日に、ヘビヴォで連むのが息抜きなんで!」


「…息抜きかぁ。

けど私が行ったらあんまり飲ませないかもよ?」


「じゃあリアさん飲ませます!」



可愛いな、カツくん。

ただ、私は強いよ?




そうして、この前のビーチに集合する事に。


カツくんはもう少し仕事が残ってるらしく、ひと足先にたまり場に。




「あれ、莉愛…

今日、隼兄来ねぇよ?」


すぐに一生が見つけてくれて。

奏曲も同時に気付いたようで…



「…ヒマ人だな」


「…っ!、そっちがなッ」



カッチンきて言い返したトコで、一生が吹き出す。

目を丸くしてる奏曲の事はスルーして…



「…えと、

今日はカツくんに誘われてさ!」


「カツ?

アイツと連絡とってんの?」


「んーん、同じモールで働いてて…」


とそこから、本日2回目の職場説明へと繋がる。




「ボーシ屋?デウスある?」


そこで奏曲も会話に混ざる。


デウスってゆーのは、サーフとバイクのカルチャーをベースにした、人気急上昇のブランド。



「私っ、持ってる!」


「ソコ聞いてねぇよ!」


「っ、うるさいな!

入荷数少ないし私も好きだから、店員の特権で買っちゃうんだよね」


「あァ?ズルくね!?」


拗ねるように睨む奏曲が、可愛い。



「ゴメン、ゴメン!

でもさすがバイカーだねっ!

しかもオシャレじゃーん」


「…上からかよ」


「年上だもん!

あっ、今度入荷したらキープしといてあげるね?」



チッ、って舌打ちを返してる姿が…

今は可愛いよ年下クン!


優位に立てて、年上アピールも出来た事に満足!


な、私は…

そんなトコもガキなんだろーけど。




「それよりカツくんってさぁ、スゴい頑張り屋なんだね」


「あー、聞いた?

アイツも親で苦労してるよな…」


「えっ、そこまでは聞いてないっ…


…そーなの?」


聞いていいもんかと、ためらいながら…

軽くふると。



「オヤジがパチ狂いなんだよ」


戸惑った一生に代わって、奏曲が答えた。



「そう、なんだ…」



大変そう…

なのに、あんな明るく振舞って…



ー「ヘビヴォで連むのが息抜きなんで!」ー


カツくんの言葉が頭を過る。



よし!

今日は一緒に楽しく飲むゾ!




「ところでさ、こーゆー飲み会の経費ってチーム持ちなんだよね?」


この前、コンビニでそう聞いた。


「ずいぶん太っ腹だけど…

そこまでして、やる意味あるの?」


私の疑問に…

なぜか黙り込む2人。



「えっ」って、戸惑うと…

「ま、ノルマ対応な」と奏曲。


そして一生の説明で…

隼太の話に出た、レディース幹部によるノルマトラブルの処理手口を知る。



ヘビヴォのファンであり、

ヘビヴォのアイドルでもある。

そんなレディースの幹部クラスは…

可愛いさも幹部クラスらしく。


男には色仕掛け、女には友仕掛けで…

あたしらと仲良くしよ!とか、

サバく相手を紹介する!とか、

実際に1人くらいは紹介したりして。


極めつけは、ノルマ達成で参加出来るこの飲み会。

出会いがあるとかヤレるとか、オイシイ餌をチラつかせるらしい。



ちなみに、経費がチーム持ちなのは幹部クラスだけで…

たくさんサバいたら幹部になれて、タダ飲み出来ると、ちゃっかり販促効果も。



そして毎回参加するってゆう奏曲や一生は…

きっと、女のコにとってのオイシイ餌なんだと思う。


なんて万全体制な隼太サマ…



てゆっか!

普通に飲み会参加してたけど…


隼太の彼女だから幹部扱いなんだとしても。



「まだノルマ達成してないしっ!」


頭を抱えこむ私に…



「あァ?マジかよ!」って呆れる奏曲と。


「莉愛はいんじゃね?」って優しい一生。



ー「だからステッカー収入は、ありがたいんすよね」ー



「カツくん、どーやってサバいてるんだろ」


その言葉を思い出して、ため息まじりに呟いた。



「ま、アイツは生活かかってんし、人望あんしな」



人望なくて悪かったねぇ!


奏曲を軽く睨む。



「聞いてみれば?

ステッカー売上、ダントツ1位だよ?アイツ。

それがきっかけで、トップ5入りしたぐらいだし」


「そーなの!?スゴいカツくん!」



すかさず、トップ5って?

一生に聞き返そうとした時…



「俺がどーかしたんすか?」


タイムリーな本人登場。



「カツくんっ!

おつかれ〜!

そ、あのねっ…」


さっそくサバくコツを聞こうとして…



ー「ヘビヴォで連むのが息抜きなんで!」ー



「…、えっと…、今日は楽しく飲もっ!

一緒にハジケるよ!」


再び頭を通り過ぎた言葉に、

聞くのは今度でいっか!と切り変える。



「えっ、リアさんハジケてくれんすか!?」


嬉しそうに笑うカツくん。



「うんっ!

若者のノリについてけるか わかんないけど!」


「ガキだから余裕だろ」


いちいち突っかかる奏曲を、また軽く睨みながらも…

テンションは上がってく!




ビーチでは当然レディース軍団が現れて、リーダーのコの姿も映ったけど…


今日はそんなに気にならなかった。



だってこの飲み会が、奏曲の言う"ノルマ対応"なら…

隼太がそれを任せてるレディースリーダーに、1番に連絡を入れるのは当たり前だもんね?







「カツくっ…

やだっ、コワイコワイコワイっ!!」


向けられた花火から必死に逃げる!



「ダイジョブ!これ熱くないヤツ!

ほら、いくっすよー!」


火ぃ出てて、熱くないワケないからー!



「ちょっ、危ないっ…、危ないってー!

カツくん絶対酔ってるでしょー!」


「まだまだよゆーっす!

つっかリアさん強いっすねー!

またエロリア見たいのに!」


「エロくない!エロくない!」


否定しながら、反撃の花火を取りに行くと…



「へぇ。莉愛エロいんだ?」


近くに居た一生が食いつく。



「だからエロくないって!」


再び否定したトコで…


カツくんがレディースに呼ばれた。



「じゃリアさん!また後でっ」




カツくんも、一生も、奏曲も…

たぶんオイシイ餌としての役目を果たすためか。

3人の内、誰かがいなくなっては戻ってくるの繰り返し。



そして奏曲が戻って来て…


「ずいぶんハシャいでたな」って隣に座る。



「え、聞こえた!?

てゆっか、まだコーラ飲んでるけど…

またバイク!?」


「うっせ。酒より単車なんだよ」


「筋金入りのバイカーだね…」



「莉愛はなんで、車じゃなくて単車?」


そこで一生の質問。



に、奏曲が横ヤリ。


「どーせオトコの影響だろ。

オンナで乗るヤツって、たいがいそーな」


「違うし!

車校代とか、購入費とか、維持費とか…

車じゃ払えないもんっ!」


「威張ってゆーなよ!

つか、車校も自腹?」


「…まぁ。

私んち(実家)、マイホーム貧乏ってヤツでさ」



だからバイト代で、学費とか車校代を払って…

バイクはローンだった。


ちなみに維持費は、車に比べて激安だから問題ナシ。



そんな私は。


社会人3年目に突入して、今は普通の生活が送れてるけど…


住んでる1Kの賃貸マンションは、リフォームされてるとはいえ築30年以上の格安物件だし。


相変わらず、タダとか割引券に弱い。



だから。


カツくんの大変さは、私とは別格だけど…

他人事とは思えなくて、ほっとけない。




「でもおかげでバイクに出会えて、

今じゃすっかりハマってるんだけどね!」


なんとなく静まった空気を、明るく返すと。



「…ま、オンナでイジるヤツは珍しいよな」


それに反応してくれた奏曲。



「まだイケる?」


そして一生は優しい瞳を向けて、下っ端下のコが用意したクーラーボックスのお酒に手を伸ばす。


「あっ、じゃあジーマがいい!」




「あんま飲み過ぎんなよ?

急にキてゲロったら、帰り送らねぇぞ?」


奏曲の言葉に、

飲み始めた私は軽く吹き出す。



「汚ねっ!

ソッコー、ゲロんなよ!」


「っ、ゲロってない!

てゆっか、送るつもりだったの!?」


今度は私の言葉に、

奏曲がハッとして動揺の色を見せる。



「っ、どーせ送らせる気マンマンだったろ!」


「そんな図々しくないよ!」


「どーだか!オンナは腹黒ぇからな!」


「〜っ、だったら送んなくていーし!」


そんな言い合う私達を、一生が制す。



「奏曲!


…隼兄のオンナ、な?」


意味深に見つめる一生に…



「…っ、だからなんだよ?」


そう吐き捨てて、バツが悪そうに持っていたコーラを口にする。


それを目にして!



「まさかっ…

送るために、今日もコーラ!?」


驚く私に、恐ろしく冷めた視線が向けられた。



「オマエ、幸せもんだな…

ぜっってーちげえから」


呆れた口調に。


勘違いが恥ずかしくて帰りたくなった…





しばらくして戻って来たカツくんは、かなり酔ってて…


一緒にいたレディースのコが送って行く事に。



「あいつ勃つのかぁ〜?」


見送るレディースリーダーが、ケラケラ笑う。



えーと…

聞き間違いだよね…



「じゃ、バッターこーたぁい」


そして今度は一生を連れて行く。



「ユリカ、俺帰る」


奏曲が、その後ろ姿に声をかけると…


振り返った顔から、あのゾクッする笑顔が零れた。



「りょ。あとで寄るぅー」


「くんな」


レディースリーダー…、えっとユリカ?

のアポ誘いを、シレッとながす奏曲。




「ね、あのコっ…

奏曲の彼女だったの!?」


意味深なやり取りに、期待を込めて問いかけた。

だとしたら、隼太とはシロだ!



「なワケねぇだろ。帰るぞ?」


期待はすぐに打ち砕かれて…


そして戸惑う。



カツくんが帰ったから残っててもしょーがないけど、まだ帰るとか言ってないし…

送んなくていい、で終わってたのに。



「あ〜、…っまだ飲むか?」


振り向いた奏曲が立ち止まってる私に、ためらいがちに声掛ける。



なんか調子狂って…

だけど実際、助かるワケで。



「んーん!…あり、がと」


照れくさいけど、素直に感謝。







「ありがと!

帰り、気をつけてね」


マンション前で、借りたメットを返すと…



「…


ステッカー、あと何枚?」


突然の話題。



「えっ?あ〜…、8枚?」


多さを誤魔化すように、疑問系。



「はァ!?

…なんでカツに聞かなかったんだよ?」


「…


別に今日じゃなくても、いつでも聞けるし」


「…


余裕だな。

ま、せーぜー頑張れば?」


呆れたように吐き捨てて、帰ってった奏曲。



優しいのか、イジワルなのか…


でもカンジ悪っ!

絶対すぐに売って見返してやる!



そうは思いながらも、笑顔が零れる…


今日は楽しかったから。




バイト三昧、ときどき彼氏の青春時代に…

味わえなかった" 仲間 "って存在。


それが遅れてやって来た気分。


そしてそれは…

隼太と会えない寂しさとか不安を、紛らわせてくれた。




3人とも、ありがと。



あ。カツくん大丈夫かな…



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