たまり場

隼太と会うのは、週2くらい。

会えない時に何してるかは、詮索しない。


ウザい女になりたくないから。



だけどやっぱり会いたいから。


隼太に聞いた、ヘビヴォのたまり場付近を…

さりげなくウロつく。




「あ、ダリア」



ふいに聞こえた声に、目を向けると…



「あっ!新撰組なりそこないっ!」


思わず口走った言葉に、

そいつの周りが一斉に吹き出した。



「てめっ…

いい度胸してんなァァア」


少し恥ずかしそーにして、その右手がまた私の頬を挟み掴む。



「ごっ、ごえんっ…つひっ」


てゆっか、やめて〜!

みんなの前でブサイク顔〜っ!



「ぶはっ!

ヘンな顔だから許してやるよ」


有難くないっ、有難くないから!




「お前にそんな事ゆー女がいるんだな」


そう割り込んで来たのは…


イツキくん!



初めて声聞いた…

この前はひと言も話さなかったよね?


ビジュアルと同じく、クールなイケボ。



「え、みんな気付かないのかな…

沖田総司ぐらい知ってるよね?」


イツキくんの言葉に食いついたら…



「ヤ、そーじゃなくて…」


笑いをこらえる当人と。



「てめ…バカにしてんのか?」


冷めた目を向ける新撰組。

じゃなくて、確か…ソーマ!



「それくらい知ってるし、

気付いてもそーは言わねぇよ」


仕切り直したイツキくんが、続きを答えた。



それはつまり、私がデリカシーもない失礼すぎる女って事でしょうか…


…それって!

隼太の株まで下げちゃう!?



「ごめんなさい!

なんか、私もからかわれちゃったから…

そのノリでつい」


神妙に謝ったら…



「だから、そーじゃなくてっ…」


今度はこらえ切れずに笑いだすイツキくんと。



「重っ!

なにマジモードで返してんだよっ」


同じく笑いだすソーマ。



意味がわからず戸惑ってると…


「要はァ!たいてーの女が、奏曲さんの前じゃトロケてベタ褒めしかしないって事っすよ!」


見かねた周りのコが、そう言葉を差し述べた。



あ〜!そーゆー事!


「わかる気がする!

私も最初に見た時は、あまりのイケメンっぷりにちょっとドキッとしたもん!」


思わず賛同すると。


調子が狂ったのか、軽く戸惑うソーマ。



「ふっ、かわいっ!」


つい吹き出してしまった。



「てめ…

ぶっ殺されてぇかァ?」


って再び頬を掴もうとした手を…



「いーじゃん。オモれ」


イツキくんが遮った。



別に痛くないからいんだけど…

なんかドキッ。



「も少ししたら、隼兄来るし…

今からソコのビーチで飲みやるけど、来る?」


大通りを挟んだ向こうにあるビーチに、親指を向けるイツキくん。



「行くッ!」


うそ〜!隼太来るんだッ!



てゆっか…


「隼、にい?

瞳が似てると思ってたけど…

まさかの兄弟!?」


「…従兄弟だよ。仕事も同じ」



そーなんだっ!?

だったら尚更、仲良くしなきゃ!







「ビールでいい?」


コンビニで大量のお酒を買って、

ビーチでくつろぐ。


のは私達3人だけで、他はハシャぎ…

や、暴れてる?



「ありがと。

ね、イツキくんのイツキってどう書くの?」


「一生、イチに生きる」


「珍しいね!?

なんかっ、カッコイイ!

ソーマは?どんな漢字っ?」


「俺は呼び捨てかよ!」


コーラを吹き出して、ツッコむ。



「あ、ほんとだ…

なんか今までの流れで、つい。

じゃあソーマくんがい?」


「奏曲でいーよ…

俺は演奏の奏に、曲」



それを頭に浮かべてみて…


「え、それでソーマって読むのっ!?

スゴいっ!めちゃ綺麗!


でもなんか…」



「似合わねぇとか言いてんだろ」


ってまた、頬を掴む。


だけど遮られた事で、やり過ぎたって思ったのか、その手は包むように優しい。




「い、言ってないじゃんっ」


「言おーとしてただろ」



なんとか反撃を考える。



「そーだ!ダリアってなに!?

ヘンに苗字と合体させないでよ!」


「似合ってんだろが!

目ン玉ダリアみてぇにデケェくせにっ」


なんて言い合ってると。



「名コンビ結成?

俺とはコンビ解消だな、奏曲。


で、リアはどんな漢字?」


そう優しく微笑む一生くん。



突然のサラッとな呼び捨てに、またもドキつきながらも…

近くの小枝で、浜辺にフルネームを刻んだ。




「へぇ、可愛いな。


改めて俺は、塚本一生。

俺も呼び捨てでいーから」



浜辺の文字から私に移動した、クールなのに優しい眼差しに、更なるドキッが訪れる。


やっぱイケメンって、心臓に悪い。



違うな、たぶん…


松山隼太の血族、恐るべしっ!





周りには、お酒と一緒に買った花火で盛り上がってるヘビヴォメンバー。



「夏だね〜」


眩しげに見つめる私に、一生が。


「莉愛もする?」



「…見とく、かな」


だってやり方が激しんだもん…


でもみんな楽しそうで、見てるだけでも十分楽しい。



隼太も早く来ないかなぁ〜。

私が居てびっくりするかな?



いや。


こんなトコまで押し掛けて、ってウザがられたり!



どーしよう…



「ね、私が居たら…

隼太、ウザくないかな?」


投げ掛けた疑問に、少し黙り込む2人。


やっぱりウザいのっ!?



「ヘーキじゃね?

それに、従兄弟に誘われたら断われないだろ」


一生のフォローは、きっと…

そーゆー事にしてくれるって事で。



「つかもーすぐウチのレディースも来っから、ドシッと構えとけよ」


奏曲のフォローも、たぶん…

気にするなって事で。



よし!

もうちょっと飲んで、気にしない!



てゆっか…


ヘビヴォにレディースとかあったんだ!?

ステッカー、女のコに売るのもアリだね。


じゃなくて!



「ねぇ、レディースの皆サン…

恐い系?」


私、イジメられたりしないかな?



「あぁ、暴走族とかのレディースとは全然違うよ?

なんての…

ヘビヴォのアイドル的ファンなカンジ?

チャラいけどね」


一生の説明は、なんとなく解るような…

解んないような…


どっちにしろ、ファンなら余計恐い気がする。




そして隼太は…

私とは会わなくても、そのコ達とは飲むんだね。


リーダーだから、しょうがないか…




「ひゃあっ!」


突然、顔に冷たいものが当てられて、思わず奇声。



「もーねぇだろ?」


それは缶ビールで、犯人は奏曲。



「〜っびっくりするじゃん!

てゆっか自分は!?

いつまでコーラ飲んでるの!?」


「うっせーな、単車なんだよ。

つか、オマエは?」


「私、電車…」



もし隼太に会えたら、送ってもらえるかも!

って企んでたから。




「あ、来た…」


一生の声に、心臓が跳ねる!



クルッと振り向いて、隼太の姿を捉えようとしたら…


それはレディースのコ達だった。




ガッカリ。

なのは、それだけじゃなく…



「一生〜!、隼太から伝言〜!

今日来れないんだってさー」


別格で目立つキリッした可愛いさの女のコが、そう言い放って…


「てーか、もうオンナ連れ込んでんだぁ?」


ゾクッとするくらい可愛い笑顔が零れた。



「アレ、レディースの頭」


奏曲が教えてくれたけど…



だからって一生には連絡しないで、そのコに連絡するんだ?


今日は私とも連絡取ってないのに。



しかもなんか親密そうだし、可愛いし…




「私、帰るよっ。

隼太来ないみたいだから…

またねっ!」


笑顔を取り繕って、足早にその場を後にした。




私は彼女なのに…

こんな絡み方しか出来ないなんて…!


情けない。





「送ってやるよ」


ふいにそう声掛けられて…



私を追い越す声の主、奏曲。


思いがけない優しさに、キョトンとすると…



「ええ〜ッ!

奏曲さん帰っちゃうんすかぁ!?」


「ウソッ!

やだっ、帰んないで下さいよー!」


近くにいたレディースのコ達が騒ぎ出す。



「あっ、いーよ!まだ電車あるしっ」


慌てて断ったのに…



「こっち!テレテレすんなよ」


って、バイクの駐輪場所に突き進む。



強引なのか、優しいのか…


結局、ついて行ってると。



「ダリアって何歳?」


「え、…ハタチ。奏曲は?」


「18。一生もタメ。

つか年上に見えねぇよな…

頼りなさ過ぎっつーか、ガキ?」



ガキぃ!?


や、不良チームのキミに言われたくないんですけど!



あ、今は私もその一員か…




ちょっとムカついたけど。

それもバイクに乗れば…



着く頃にはもう、ほーらゴキゲン!

夏の夜の風が気持ちいいっ。




「ありがと!

なんかちょっとスッキリしたっ」


「…


は?ココで帰らせんのかよ…

コーヒーくらい出せねぇの?」



え…

それ、するべき?


でも隼太の仲間だから、アリなのかな?



「だよねっ…

じゃあ、上がってく?」


そう応えた途端、

なぜかまた頬を掴まれる。



「バーカ!だからガキなんだよっ!

簡単に信用してんなよ、特にヘビヴォのヤツは…」


「…、はあっ?

言ってきたのはそっちじゃん!

大体っ、自分だってヘビヴォじゃん」


「うっせ。じゃーな」


そー言って、スパトラの音と共に去って行った奏曲。



なんなの…


てゆっか、2コ下にガキなんて言われたくないんですけど!



でも、隼太もそう思ってるのかな…




連絡もなくて、ビーチ飲みにも来なくて…

今なにしてる?







好きになるほど…


相手の状況とか考え過ぎて。

ウザがられるのが怖くって。


電話する勇気まで、なくなる私。



隼太にすごく、会いたいのに…






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