溺れる

次の日、1人暮らしの私の部屋で。


約束通り来てくれた隼太に、ごはんを作ってあげたくて、無難にハンバーグを振る舞うと…



「ん、ウマいね。

莉愛は可愛いし、料理も出来るしィ…

俺、サイコォの女見つけちゃったね」


妖艶な笑顔でベタ褒め。



この調子で頑張るから、そのうちベタ惚れになってくれたらいーな…なんて。




食べ終わって片付けを始めると…



「莉愛ァ?

もっと食べちゃって、いい?」


後ろから抱きしめてきた隼太が、耳元で甘く囁いて…

つぅ、とその舌が耳縁をなぞる。


ざわっ!と身体中が反応して…

甘く疼く。



滑らかな熱は、艶っぽい水音を立てて、

甘噛みと一緒にそこを占領して…


奥まで突き攻める。



次第に隼太の手は、髪を絡めて…

身体を弄って…


私の感覚を支配する。




「ねぇ、莉愛、…いい?」


耳から身体へ波紋する妖艶な声音は、

すごくズルくて…


拒む事なんて、出来ないよ。



もちろん、拒むつもりもないんだけど…





隼太と出会ったのは、10日前。




親友の結婚式の日。


まだハタチなのに早すぎるけど、

羨ましすぎて、寂しすぎて…

3次会までしがみついてた、その帰り。


運悪くタクシーがつかまんなくて、繁華街の公園でひと息してると。



「うっわ!可愛い!

あーゆーコ、い〜ねえ!」


目の前を通るチャラい集団の1人が、そう騒いで…


その集団の全体がそれに便乗。



悪い気はしないけど…

恥ずかしいし、絡まれたくないし。


戸惑いながら視線を泳がすと…



バチッ!と。

なんだか妖艶な男と視線が絡んだ。



その集団の先頭に居たそいつは、


「早く帰んないと、危ないよォ?」


危うい笑みを浮かべて…

思わず見惚れた私を、フッと優しい瞳で包んだ。



そうして、立ち去りかけた時…



「隼太さ〜ん!車、回して来たっす!」


1人の男が駆け寄って来て。



その姿に視線を奪われた!



ジュンタと呼ばれた男は、私の視線を見逃さずに…



「知り合〜い?」


こっちにチラッと視線を流して、駆け寄った男に問いかける。


「えっ?」っと振り向いたそいつは…



「おー!莉愛〜!

え、なにしてんだよ!?」


私同様、驚いてる…

元カレ。



「…ヒロこそ何してんのよ?」


「あ〜、俺は今からリーダー送るトコ。

知ってんだろ?Heavy Voice。

お前と別れた時ぐらいにチーム入りしたんだ」


って、自慢気に話してるけど…

ぜんぜん自慢にならないから!



確かこの街じゃ1番大きな不良チームだよね?


今更なにやってんの…

しかもリーダーのアシっすか!



「で、莉愛は?

つーか、そのカッコ…


ぼーし屋やめて、飲み屋で働いてんの?」


「違うしっ!

友達の結婚式だったの!

で、タクシー捕まんなかったから…」



「だったら乗ってくゥ?」


そこで不意に、リーダージュンタが会話に割り込む。



「え、マジっすか!?」って驚くヒロと。


キョトンな私。



「知り合いだったら怖くないデショ。


心配なら、俺は別便で帰るからァ…

ヒロ、使っちゃってい〜よォ?」



確かにヒロなら怖くないけど…

それはそれで気まずいし!


てゆっか、なんて優しいジュンタくん!

思わず。


「あのっ、ぜんぜん一緒で大丈夫です!」



あれ…

いつから乗ってく前提に?





「ヒロォ、

どこでこんな可愛いコと出会ったのォ?」


後部座席で隣に座ったジュンタくんが、

私に妖艶な笑みを向けながら、そう投げかける。



「バイクの、車校っす!」



そう。

車校ではいつも、助けてくれたり教えてくれたり…


2コ下だけど、面白くて優しいヒロとはすごく気が合った。



ヒロとの出会いが…


ヤンチャな世界への壁を無くして、

年下彼氏への抵抗も無くした。


今までで、1番好きだった人。




「あん時はゴメンな〜?」


ジュンタくんと、出会い話で勝手に盛り上がっといて…

今度は、ほじくり返したくないトコを振ってきたヒロ。


あえて、無言を返すと。



「そんな俺も、今は一途んなって…

結婚考えてるくらいだからな〜!

スゴくね?」


なんて…



早っ!!

てゆっか、それ私に言う!?





付き合って楽しかったのは、3カ月くらい。


どんどんハマってった私とは逆に…

だんだん冷めてったヒロ。


いつのまにか、ただの都合がいい女扱いされてたのに…

わかってて側に居たかった私。



結婚を考えてる今カノと私は…

いったい何が違ったんだろう。


ヒロへの気持ちが無くなっても…

心が痛い。





「リアちゃんはァ?

今だれかいんのォ?


居なかったら…

俺がもらっちゃって、いい?」


それは突然で。


私はもちろん、ヒロも驚く。



からかわれてんのか、慰めてくれてんのか…

だけどジュンタくんの瞳は、妖しさを纏いながもまっすぐで。


ゾクッとするような魅力に縛られて…

胸が騒ぎだす。




「……いーよ」



途端。

ジュンタくんが、グイッと私を抱き寄せる。



「じゃあ今から、俺の女ね」


耳元から、甘い声音が波紋する。





ヒロがめちゃくちゃ驚いてるけどムリもない。

その時は、付き合うまで3カ月も待たせたから。



きっと酔ってるんだ…


お酒には強いけど飲みすぎたし、

あとはジュンタくんの妖艶さに。



でも本当は…


ヒロへの当てつけもあったかも。



それに。


付き合ってみなきゃわからないって…

最近は思う。



結婚しても、長く付き合っても、別れる時は別れるし。


慎重に品定めしたって、うまくいくとは限らない。


恋人じゃない時の顔をどれだけ知ったって、恋人になった時の顔とは違う。



"こんなに好きになったのは、莉愛が初めて"

だったはずなのに…


いつもすぐに飽きられる。



だけどそんな私でも、飽きない人だっているはずだよね?


だから、そんな誰かを探して…

まずは恋愛してみようって思った。






「莉愛…

すごぉく、よかったよォ?」


私の長い髪を手で掬って、それにキスを落とす。



「…っ、もう…

隼太、上手すぎっ…


私…、(意識)飛んじゃうかと、思ったよ…」


「ん…、莉愛ヤバかったねぇ…

でも今度は手加減しないから、ほんとに飛んじゃうかもねェ?」



今ので手加減してたのっ!?



この若さで…

こんなエロくて、こんなスゴくて…


いったいどれくらいの経験を重ねて来たんだろ。



隼太ほどの男なら、抱いてきた女もめちゃくちゃイイ女なんだろーなぁ。


なんか自分の…

ひ、貧乳が、申し訳ない。




「綺麗だよ」


ふいに隼太が。

私の不安を見透かしたように、優しい瞳で囁いて…



「莉愛はねぇ、俺には勿体ないくらい…

イイ女だよォ」


そう続けて、私の胸を滑らかな熱でなぞった。




すごいスピードで…


隼太に溺れてくのを感じた。







「…彼氏出来た?」


働いてる帽子屋の店長が、呆れたふうに問いかける。



「あ…、またバレバレです?」


「思いっきり。

わかりやすいのよ、莉愛ちゃんは!


彼氏が出来ると張り切ること張り切ること…

こんな面倒くさい棚卸しまで楽しそうなんだから」



「…え、エヘヘ」


笑ってごまかす。



ショッピングモールに入ってるこの店は、店長と私(社員)とバイトのコ2人で回してる。


バイトのコは長くは続かないけど、

店長とはもう2年以上の付き合いで…

私のパターンは読まれてる。



「まったく…

あんまり頑張り過ぎないでよ?

別れた時のショックが仕事に響きまくるんだから!」


「ひどいッ!

別れる前提ですかっ!?」


「だっていつも長続きしないじゃない」



お…、おっしゃるとーりです…




だけど今度こそ。


隼太には、飽きられたくないよ…







「どしたのォ?

そぉんな、切なそぉに見つめちゃってェ…」


「えっ、んーん!

ちょっと、見惚れてただけっ」



私の事、飽きないでね…


そんな思いで見つめてたなんて。

なんか重い気がして、言えない。



「そ〜だ、莉愛。


ヒロさァ、チームから追い出しちゃったけど、いい?」



そーなの!?

や、いーも何も…


事後報告じゃん!



けど、まぁ。


「私は別に…、もう関係ないし…」



それに所詮チームだし。

仕事をクビってワケじゃないし。


だいたい…

ヒロにはひどい扱いされたんだから、同情の余地ナシだよ。



「ならヨカッタ。


だってヒロ見てたらさァ…

俺、嫉妬でイジメちゃいそぉだもん」



この人わっ!


なんでそう嬉しくなっちゃう事ゆーかな!



「でぇ。

莉愛は俺の女だから、もうチームの一員ねぇ」


そう言って、私にステッカーを差し出した。



「カッコい!

これ、ヘビヴォのステッカー!?」


「そぉ。いいデショ?

専門のデザイナーと俺のコラボ作ゥ」


「ウソっ、隼太スゴいっ!」



いったいなんなのっ…


イケメンで、色気だだ漏れで、優しくて、社長で、リーダーで、夜もスゴくて、その上オシャレで、こんな才能まであるのーっ!?



松山隼太、恐るべしっ!



「でねぇ?

莉愛も俺の力に、なってくれるゥ?」


私の何十歩も先を行ってるような隼太が…

年下らしく、まさかの甘えモード!



「なるよっ、当たり前だよ!」


それが嬉しくてたまんないっ。



「ありがとねェ。

莉愛ぁ…、大好きだよォ」


妖艶な笑みと声音が、私を包んで…

すぐにその腕からも包まれて。


また、溺れてく…







とは言っても。


甘えられた内容は、このステッカーをサバく事。


本来ヘビヴォにチーム入りすると、10枚のノルマが与えられるらしい。

それは彼女でも例外なく。



それくらい余裕!


ならいんだけど…

なんと1枚¥5000!


その値段には、メンバー加入費も含まれてるらしく。


メリットといえば…

ヤンチャなコ達にとっては、ヒロみたく自慢に出来る事。


そうじゃないコ達にとっても、揉め事があった時の後ろ盾が出来る事。


あとは、隼太のトコで格安に車が買える事とか。



ヘビヴォが1番大きなチームに膨れ上がったのも納得。


車も売れるし…

隼太って、頭もいーんだなぁ。



って!ノンキな事、言ってられない!


隼太の力になりたいけど…

私の周りに買ってくれそうな人、いる?


しかも買ってくれたら、くれたで…

その人の名前(あだ名可)とケー番を登録して、後日責任を持ってノルマを届けないといけないワケで。



前途、多難…






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る