第9話 ひまり

 お昼休み、昼食をとるためにわたしは科学の実験室に向かっていた。

 高校三年になってからどうも、同級生との間に溝を感じてしまう。別にケンカとか話が合わないとかではないんだけど、どうも加納家ってのは厄介なことこの上ない。

みんなおべっかというか、ゴマをすってるように見えてしまう。男女問わず…

 わたしじゃなく、加納という名前に挨拶をしてるみたい。

どうせなら、わたしの屋敷の表札までいって挨拶してほしいくらいだわ。

 ただのひまりなのに…それ以上でもそれ以下でもない……


 なんて考えて、離れ棟にある校舎の中を歩いていると後ろから声がかってきた。

「加納くん」

「あら、おじいちゃん先生、もしかしてお昼?」

 どうやら、弁当をコンビニかしら。手提げ袋を片手に持っている。

 わたしは、おじいちゃん先生がくるのを待つことにした。

「そうじゃのぉ、加納くんもごはんかね?」

「ええ、一人で食べたい気分だったので」

 追い付いたので再び一緒に歩きだしていく。

 スマイルを崩さず、気にされないようにしなきゃね~

「そうか、んじゃわしは遠慮したほうがよいかの?」

「ふふ、まさか一緒にできて、光栄よ」

 そういって、わたしはおじいちゃん先生の左腕に自分の腕を絡める。

「っこ、これ、加納くん」

「なぁに?実験は終わるまで24h稼働中よ コンビニ並に同じよ」

 照れてる顔を見るのはいいわね。

 前回の事から少し前向きに考えてくれるようになったのはいいことだわね。

「しかし、こんなとこ見られたら…」

 いつもと同じ言い訳をするんだから。もぅ。

「ちゃんと、確認してるから安心して…」

 おじいちゃん先生の肩に頭を預けて、カップルが歩くように。

「うれしくない?」

 顔は見ずに、確認してみる。

「いや、そうじゃなくて、過激な行動は控えるべきじゃと…」

「これはそんなに過激かしら?」

 腕を組んで歩いてるだけなのに。

「キミは加納家じゃ、変な噂はご家族にもいくぞぃ」

 加納家か…本当にめんどくさいこと

「…加納くん?」

「…どうしたのおじいちゃん先生」

「いや、顔がきつくなっていたから、どうかしたのかと…」

 加納家の事考えてたからかしらね。

「べつに、気にしないで…いつものことよ」

 顔を見れず前を見てしまう。

「…加納くん?」



 安全に到着できたことで、おじいちゃん先生は実験室に入ると大きくひと息ついていた。

「はあぁぁぁあぁぁ…」

 そんなに不安かしら?

「そこまで、大げさにしないでもいいじゃない」

「加納くん…キミってやつは…」

「なんですかー 本当にうれしくなかった?」

 困った顔をしながら、苦笑いを浮かべつつも

「…いや…加納くんほどの美人じゃ、うれしくないわけがない」

「そう、それならこれからもたまに腕組みして歩きましょう」

 わたしは笑顔を向けて、実験台にある椅子に腰を下ろした。

「…はぁ……」

 身体全体に呆れる感を出しながら、おじいちゃん先生用の机に向かっていく。

「おじいちゃん先生?どこにいくの?」

「…いや、自分の席じゃが……」

「こっち……ここ、隣」

 そういってテーブルを指して、さらに椅子をズラしてこっちにこいと合図を送る。

「……しょうがないのぉ」

「素直でよろしい…ふふ」

 隣に座り、買い物袋をおいて、中からサンドイッチと銀紙の塊をだしてきた。

 わたしも、弁当のハンカチを開き、弁当箱をあける。

「おいしそうじゃのぉ」

 わたしの弁当みて、感心してるのか、驚いた顔をしてる。

「そぉ?少しわけてあげてもいいけど食べる?」

「いやいや、それはさすがに、加納くんのために作ってあるんじゃ、気にせんで自分で食べなさい」

 そういって、サンドイッチの袋をあけて、口にいれている。

「もぐもぐ…ところで、それはやはりお母さんの手作りかい?」

「やはり…というのは、誰か使用人に作らせてるって思ってたり?」

 疑問を疑問で返すのは失礼だけど

「そうじゃのぉ、加納家だとやはり浮世離れした感じが受けてしまうかのぉ」

 まぁ土地だけはいっぱいあって、家もお屋敷なんてつくくらいだから、この現代においては珍しいくらいの洋館作りにはなってるけど。

「ええ、その通りよ、わたしは生まれてこのかた、親の手料理なんて食べたことないわ」

「そ…そうか、それはちと寂しいのぉ」

 なんとも言えない顔で、サンドイッチをまたひと口食べるおじいちゃん先生。

「別に、もうそんなのは、加納家では当たり前で今後もそうだから気にしてないわ」

「ふむ、まぁそういうのも生まれの違いか」

 当たり前は人によって違うものだから、それを押し付けてしまうのはおかしいこと

 だからおじいちゃん先生もそれ以上に何も言わない。

「おじいちゃん先生、どうぞ」

 わたしは、お弁当のミートボールを箸でつかみ、食べさせようとしている。

「…いや、大丈夫じゃ」

「はい、あーん」

 話を切り替えたくて、こんなことやったけど、なんか楽しいかも

「だ…だから」

「あーん」

 しぶしぶ諦めて、口を開くおじいちゃん先生

「ふふ、どうぞ」

 口に入れてあげて、おじいちゃん先生の様子を伺うことに

「…もぐもぐ、うん、うまいのぉ、市販とは違う感じじゃの」

「そうね、うちはみんな手作りらしいわね」

「そうか、しかし、ソースの味も絶妙に酸味が効いていい感じじゃ」

「はい あーん」

 そんな姿をみて、もう一度わたしは卵焼きを箸で口に持っていく。

「いや、あんまり食べると、加納くんの分までなくなるぞぃ」

「あーんして、おじいちゃん先生」

 少し困ったように、甘える口調で強行する。

「…う……女子は卑怯じゃの…」

「そう?普通よ」

 しぶしぶ、卵焼きを頬張り、うまい、これも出汁が効いてうまいのぉ なんて言ってる。

「なんか、カップルみたいね ふふ」

 思わず感想がもれてしまう

「っぶっ…何をいうんじゃ」

 吹き出して、もぅ、でも慌てる姿もいいわね、やっぱり。

「ふふ、今度からもこうして一緒にお昼を食べようかしら?」

「毎回は無理じゃが、たまにならええよ」

「ふふ、前向きに答えてもらえてうれしいわ」


 さきほどから気になる、その銀紙はなんなんだろう?

「その銀紙は何?」

「おお これか、これは漬物じゃ」

 銀紙のアルミホイルの音を立てながら開けると、かすかに漬物の香がしてきた。

「どうじゃ、まぁ市販品じゃけど、おかずもらったお礼に」

「ええ、遠慮なくいただくわ」

 浅漬けかしらね

「おいしいわね、漬物なんてどれくらいぶりかしら」

「まぁ若い子は、わざわざ食べることなんてないじゃろうな」

「そうね、うちではあんまり食べないかも」

「加納くんの家ではなかなかでんのか」

「うちは洋食メインだから、朝もパンだしね」

 そうか、わしはご飯派じゃのぉなんて、顎を抑えながら答えてる。


「ねぇ、おじいちゃん先生」

「なんじゃ、加納くん」

「下の名前で呼んでもらえないかしら」

 わたしはそう告げて、おじいちゃん先生の顔をみる。

「下とは、ひまりとな?」

「ええ、加納の苗字はあまり好きになれないから」

 少し考えているのか、天井見つめて

「そうじゃな、加納くんが、いやなら、ひまりくんとでも呼ぼうかの」

「そうしてもらえると、うれしいわ…」

「ははは、まぁ二年も一緒におるんじゃ変には見えんが、やはりそれは二人きりでいいかの?」

 仕方ないね… わたしは加納家だし


――ええ だから もう一回、わたしの名前を呼んで


――― ひまりくん


 

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