第8話 珈琲

「パラメーター…」

 何を言われてるのか理解できずおうむ返しをするおじいちゃん先生。

「ええ、おじいちゃん先生は、わたしにどうなってほしいの?」

 どう答えていいのかわからないって感じで見つめ返してくる。

「わたしは、おじいちゃんの事好きなっちゃいけないの?」

 ググッとまわした腕に力をいれるとおじいちゃん先生から ぅっ と声があがる。

「これからずっと悪戯するだけになるじゃない」

「………」

 わたしが、止まらずしゃべり続けるのを静かに聞いてくれてる。

「ねぇ、おじいちゃん先生……」

 わたしは、顔を見られまいとハグするように抱き着き、再度質問をする。

「わたしを好きになってくれないの?」

 腕に力が入る。

「協力してくれるって言ったじゃない」

「……すまない、いきなり約束を破ってしまったのぉ」

「そうよ、このルールは、わたしだけのモノじゃない」

 なんでだろう、鼻がつまる。

「ずずっ……わたし、だけじゃ意味…ずず…なぃ」

「わしが悪かった…」

 わたしの鼻声のせいなのか、今日初めて聞く、優しい声だ。

 おじいちゃん先生から身体を離し、再度、顔と顔を近づける。

「そうよ、ちゃんとわたしと向き合ってよ」

 なんとか言いきり、ズズっっと鼻をすする。

「なにも泣かんでもええじゃろ……」

 イラっ……

「おじいちゃん先生、話聞いてたぁぁ?」

 思わずおじいちゃん先生の顔を両手強く挟んでしまう。

「ふふ、加納くん…」

 わたしの手を下ろして、わたしを見てくる。

 そして優しい笑顔で…


――「綺麗な涙じゃの…」


 顔に熱が走る。瞬間湯沸かし器以上に早さと温度で、顔が熱い。

「ひどい、こんな時にそんなのいうなんて」

 顔を両手で隠して、反論してるのを無視して、さらにまた。

「はっはっは、恥ずかしがる顔もよいのぉ」

 悔しくて、両手で叩こうかしたら、おじいちゃん先生の声に止められて…

「加納くんと長い事一緒にいて、初めて見る顔じゃの」

 また熱が走る…もうやだぁ~~~

「おじいちゃん先生、立場が逆よ逆」

「っほっほっほ、そうじゃな…」

 悔しいぃ……

 悔しがるわたしの顔をみて、おじいちゃん先生は笑ってる。

「キミは、本気なんじゃったな」

 少し、顔を俯かせて、もう憂げに伝えてくる。

「わしは、家内を亡くし…」

「……」

 わたしは口を開くことができない。

奥さんをずいぶん前に亡くした事は知っていた。

「わしには娘だけが残り、娘だけを愛し、娘のためだけに生きてきた」

 少し寂しそうに、でも誇らしげに、娘さんが今度結婚する事を嬉しそうに、伝えてくる。

「娘は今度結婚する、わしは…親としての仕事をやり遂げねばならん」

 わたしは、自己嫌悪に落ちなきゃいけないのに、それでもわたしのやることは曲げる気がないし、曲げたくない。


――そう思う自分が嫌い。


「わしは、キミに特別な感情を抱くことはない。色々な要素を含めてな」

「………」

 思わずを目を瞑ってしまう。ハッキリ言われて、心が痛い。

「それでもな…」

 えっ

「それでも、今キミが見せてくれた涙に、少しドキっとした」

 わたしの顔を見ながら、照れた顔を見せる。

「わしは、こんなにも綺麗な涙の持ち主から好意を抱かれておる」

 卑怯、罪悪感を抱いている最中にそんなこと言うなんて。

「改めて、この実験に参加を真正面から取り組むよ」

 優しい笑顔を向けてくれる。

「…おじいちゃん先生…」

 わたしも笑ってるはずよね。

「当たり前よ、わたしとの約束は絶対なんだから」

 照れるわたしは、強がって

「じゃぁ、今からおしおきよ」

 慌てるおじいちゃん先生は、えぇぇと言いながら慌てるのを横目でみながら、わたしは、実験用具がある棚に向かう。

「覚悟してね…」

 動けないおじいちゃん先生はとてもとても、顔が青ざめている。ふふふ

「か…加納くん、早まるなっ」

 なにを?なんてのは聞かずに、ティーセットを一式取り出す。

 わたしがクラブ活動入る前からあるらしく、珈琲が大好きなおじいちゃん先生は生徒とよく飲んでいたみたい。

わたしも去年までおじいちゃん先生と先輩数人で、実験しない日などはお茶だけでクラブ活動が終わるなんてのは普通にあった。


 一式をもって、フラスコをセットした台に持っていくと、さすがのおじいちゃん先生も気づいたらしく、少し安心してるらしい。

「ふふ…」

 準備をしながら、おじいちゃん先生を眺め、驚かせれたことに満足。

「ふぅ…脅かさんでくれ、それより手を自由にしてくれんかな」

 無視して、珈琲を準備する。鼻歌を歌いながら、無視をする。

「っこ、これ、加納くん」

 フラスコも先ほどから水からお湯に変わり、沸点を繰り返し、フラスコの口から白く湿った熱あのある蒸気を飛ばしている。

アルコールランプを消して、ミトンでフラスコを掴み、それぞれのカップに注いでいく。

 遠くから必死にもがき、椅子がガタガタ、手錠がガチャチャとならし、自己主張をしているけど、わたしはそれをBGM代わりに聞いていた。

「今日もブラックでいいの?」

 いつもブラックだから、ブラックでいいけど、疲れてるかもしれないし甘いのがほしくなるかもしれないしね。

「ああ、ブラックで…じゃなくて、手錠を外してくれぇ」

 返事をわたしは笑顔でかわす。

 マグカップを両手に持ち、おじいちゃん先生がいる場所までいき、その隣にある机におく。

「ねぇ、おじいちゃん先生、わたしが入れる珈琲はどうか、感想聞かせてね」

 わたしは、おじいちゃん先生を見つめ、それから手錠を外す。

外したおじいちゃん先生は手首を擦りながら、ひと息ついてわたしを見てきた。

「…まったく、困ったお嬢様じゃのぉ」

「ふふ、お嬢様は、元来そうあるべきよ」

 机に腰をかけて、おじいちゃん先生に見つめて微笑む。

 おじいちゃん先生はわたしの入れたカップを手に取りひと口飲む。

 口をカップから離し……


――― うまくて


―― あまいのぉ~

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