第6話 実験開始

 契約を結んだわたしたちは、あれから1週間がたつ。

 その間は何もする来なく、わたしは授業中の呼び出しもクラブ活動でも何もしない。普通に話して普通に終わる。そんな日々を繰り返していた。


――そして、一週間目の今日

「で、あるからこの式で予測となる結果は―」

 わたしと、おじいちゃん先生は、今クラブ活動中で科学の実験前にいつも予測学習の講義をしていた。たいくつ~。

 おじいちゃん先生は、すっかりあれからの出来事から、気を持ち直し今では普通。

「……クスっ」

 そのちょっとした笑いにも今じゃ、何事もなく講義を進めてる。

 契約を結んですぐ、実験なんて内容が内容だけに、ガッツついたモテナイ男子みたいでカッコ悪いじゃない。

 それにしても、あーゆ―事があっただと、おじいちゃん先生を見る目が変わったかも…

 ううん、わたしの気持ちが変わったのか。いつもの暇つぶしで来てる、クラブ活動の時間が楽しくて楽しくて、仕方がないって感じ。

「では、加納くん今から実験を行うから用具だしを手伝ってくれ」

 気分が喜々としてたら、いつのまにやら講義が終わってるじゃない。


――そろそろかな…


 

 わたしとおじいちゃん先生はいつもの実験用具を取りに、用具棚まで足を運ぶ。

 おじいちゃん先生の背中を見つめながら、わたしは今どんな顔かしら…

「じゃ、これを持ってくれんか?」

 わざと、そっと手に触れて、用具を受け取る。

 と、おじいちゃん先生はビックっと身震いをする。

「どうしたの?おじいちゃん先生」

「……いや、すまん」

 いいわ、その反応。油断をしたとこを突く。今は科学の実験中なら恋も実験中だってことを忘れてはダメよ?

「ふふ…」

 道具をいくつか受け取るけど、それは何もせずに、そのまま実験台に持っていく。

「じゃ…じゃぁ、始めることにしようかの」

「ええ、始めましょう」

 いつものように何事もなく、おじいちゃん先生の隣に立ち、それでも1歩くらいの距離は開けておく。

「まずは、ビーカーに液体を測りながら入れる…」

 薬品を手に取り、わたしは蓋を開ける真似をする。

「おじいちゃん先生、開かない」

「そうか、わかった、わしが開けよう」

 薬品を手渡し、この時もおじいちゃん先生は手に集中している。

 甘いわね、おじいちゃん先生。そんなベタな手を使うわけがないわ。

「……」

 警戒しつつも、何事もなく受け取る。

 安心した顔をして、ふふふ。

「じゃ、入れるぞ」

「ええ」

 薬品をビーカーに入れていく。

 知ってる?おじいちゃん先生。その測りをしている間は、そのことに集中する。

 でも、薬品は危険だから、入れたその後よ。

 そこはとても隙だらけ。

「・・・・ふぅ」

 安心のひと息かしら?それともわたしへの?

 薬品を入れ終わり、蓋をして、テーブルに置いたままのビーカーのメモリを見るために腰を落とす。実験台を手に置いた状態でね。

 わたしは、それを見逃さない。2年も一緒におじいちゃん先生とクラブ活動をしてきてるのよ。実験する仕草は、把握済みよ。

「加納くん」

「なぁに、おじいちゃん先生」

 台についたままの手にわたしは、自分の右手を乗せる。

 見下ろす様に、おじいちゃん先生をみる。おじいちゃん先生は見上げてこちらをみる。

「そ…その手を」

 無下に払えのけない、優しいおじいちゃん先生。

「ん~、手が何かしら?」

 わざとはぐらかし、笑うわたし。

「どけてもらえると、助かるのじゃが」

 そんなことでどけるなら、乗せないわよ。おじいちゃん先生。

「わたしの手は気持ち悪いかしら?」

「そ…そんなことはない」

 あらあら、慌てて。かわいい。

「そう…そうね、せっかく触ってることだし」

 そこで区切り、あいている左手を顎に持っていく。

「どんな感じかな?気持ち悪くないのなら」

 そこで、言い切りわたしは、おじいちゃん先生の手を擦り始める。優しくね。

「そんなこと言えるわけが…」

「いえ、言ってちょうだい。わたしの事を喜ばせてほしいわ」

 さきほどからの構図が変わることなく、見下ろしながら、わたしは手の平から指に切り替えて、おじいちゃんの甲をなぞり、また手のひらでなぞることを繰り返す。

「か…加納くん、くすぐったいぞ」

「おじいちゃん先生の感想なんて求めてないわ」

 話を逸らしたそうだけど逸らさせるわけないのに。

「わたしの手の感想よ?」

 わたしを見上げながら、必死に考えてるっぽい。

「なんでもいいのよ?ロマンあふれる言葉なんて求めてないから」

「柔らかくて、すべすべじゃ」

「そう、手は冷たいかしら?」

 心が温かいと冷たいなんていうけど、わたしはどうなんだろうな?

「…わしの今の状態では、ドキドキして正常に答えられん」

「こんな小娘にドキドキしてくれるんだね」

 ちょっと心温まるわ。

 さらに手を乗せた手をさげて、腕のほうに裾に指を入れて擦りだす。

「かか、加納くん」

 さすがに立ち上がろうとするおじいちゃん先生。

 すかさず、わたしは身体をくの字におり、左手で、頭を小突いてしまう。そのまましりもちをついてしまう。

「だめよ、まだまだ楽しませて」

「……加納くん」

 くの字に折った状態で、実験台に左肘をつき、手のひらに顔を乗せて、不敵に笑う。

「おじいちゃん先生、意外と毛が濃いのね」

 腕をさすりながら、手を行ったり来たり。

「それに手もゴツゴツしてる」

 そんな光景を目にしているおじいちゃん先生は、顔がとても困ってる。我慢して。

 わたしは、おじいちゃん先生の手に戻し、手を握る。

「立って、もういいわ」

「…ぁあ」

 おじいちゃん先生の手に力を込めて握り、引き上げる。そのまま立ち上がり、手を離し、おじいちゃん先生は、服を整えている。


「わたしの手は良かったかしら?」

 身だしなみを整えている姿を横目にわたしはたずねてみた。

「……わからん」

 わたしはその返答を聞いて、目を瞑る。


「……そう…」



――― じゃぁ継続 ね……

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