第4話 契約

――― 加納邸 夜

「竹中、少し調べてくれるかしら?」

 お風呂から上がった、わたしはどうしても気持ちの整理ができず、モンモンとしていた。

だから、そのモンモン解消におじいちゃん先生の身辺調査を依頼するために、執事の竹中を呼び出していた。

「はい、ひまりお嬢様、それで何をお調べしましょう」

 そこで言葉詰まる。そういえば、わたし、おじいちゃん先生の名前しか知らなかったわ。

まぁ、ちかんにあった時に、顔を合わせてるから、すぐにどんな人かわかるかな。

「今日、ちかんにあった時に助けてくれた先生の身辺調査をしてほしいの」

 竹中は少し、考えているようだ。

「それは、大事なことでしょうか?」

 まぁ、加納家の娘として男、しかも、わたしよりも遥かに上の年齢の人を調べるなんておかしいよね。

「ええ、お礼もかねて、少しどんな人か調べてほしいの、もし変な人だったら、後々面倒でしょう?」

 そんなわけないのに、口実って必要だからね。

「かしこまりました、ひまりお嬢様、では明日までには調べ上げておきます」

「お昼休みまでにお願いね」

「はっ、かしこまりました」

 無理言って申し訳ないけど、無理を言わざる得ない状況なの。

説明できなくてごめんなさいね。竹中。


―翌日に、竹中は約束通り、おじいちゃん先生の資料を手渡してくれた。



――その日、放課後


「おじいちゃん先生、実験をしましょう」

 わたしは、再度、おじいちゃん先生に差し迫った。

「…実験じゃと?しかし、その前にもう少し離れてくれんかのぅ?」

 そうはいかないの、もう引き下がるつもりもない。

「なら、賛同して」

 あまり、使いたいくないから素直にうなずいてほしいわ。

「…か…加納くん、もう一度初めから説明してくれんかの?」

「そうね、少し飛ばし過ぎたわ」

 どこから説明しようかしら。

「まずは、わたしのこの胸で高鳴る気持ちが知りたいの」

「それは、勘違いじ…」

「最後まできいて、おじいちゃん先生」

 言わせない、その先は言わせないわ、おじいちゃん先生。

「…はぃ」

 その困った顔ぉ、間近で見ると、ますます、高鳴る

「その気持ちが、不安定で、どちらかわからないの…」

「不安定じゃと?」

 そうよね、不安ならわかっても不安定はきかないよね。

「そう、ものすごく、不安定なの」

「ちなみにどんな風にじゃ、というか、もう少し離れてはなさんか」

「ダメよ、この距離じゃないとダメなの」

 これ、今誰かに、見られると、勘違いされるわ。

でもどうせ、この時間に誰も来ない…ここは離れ棟にあるんだもん。

「そ…そうかっ」

「ふふ、おじいちゃん先生でも照れるのね」

「…加納くん、キミは美人じゃからな、大抵の男はみんなそうなるじゃろう」

 目線を外して、どこをみて話してるのかしら?ねぇ?

「別に、他の男とか興味がなくて、おじいちゃん先生に興味があるのぉ」

 そういって、わたしはわたしを見てない顔を無理やり、向けさせる。

「ぐ…いたぅ」

「まったく、こんな美人を目の前にして、どこ見てるのよ?」

「わしだって男じゃ。こんな風にされて、マジマジみれるものか」

 その必死に抵抗する顔いいわぁ…

さらに胸の高鳴りが感じられる…

「おじいちゃん先生、確かめたいの」

「確かめるとは?」

「この気持ちが、二つの気持ちがどちらなのか…」

 静かに、見上げる。

 何かに憑りつかれたかのように、わたしの目がきっと、変わってる

覚悟を決める。使いたくない手を使わざる得ない。

「……」

 おじいちゃん先生の後ろには椅子がある。

そのまま、そちらに誘導するかのように、わたしは歩み進める。

一歩…一歩…さらに一歩…

少しづつ下がっていく、おじいちゃん先生…

 

ガタっ

 とうとう椅子に座ってしまう。

 その間も、わたしはおじいちゃん先生を見つめ続ける。

「加納くん、どうしたんじゃ、目が目が…」

「ふふ…おじいちゃん先生がオドオドする感じが好きなんですか?」

 そっと、おじいちゃん先生の顔を包み込む

「それとも、一人の男性として好きなんですか?」

 顔を近づける

「こ…これ、加納くん」

「……わたしは、どちらを選ぶべきなのかしら?」

 そのまま、耳もとでおじいちゃん先生に囁く…

「……ぁっ」

 そのまま、首に手を回し、わたしは先生にまたがる。

そして、先生を見つめる。


――「さぁ、おじいちゃん先生、実験をしましょう」


 絶句して、声がだせないのかな?それくらい妖しくなってるのかな?ふふ…

「おじいちゃん先生を愛のある好きなのか、それとも悪戯をすることが好きなのか?」

「愛?悪戯じゃと…」

「わたし、昨日、おじいちゃん先生のかっこいいとこをみてもトキメキましたし…」

 おじいちゃん先生の身体に力がはいるのがわかる。身構えてる。

「こうして、おじいちゃん先生を誘惑して楽しんでることでもドキドキしてるんです」

 顔を近づけて、わたしの吐息が顔にかかってるだろうな、だって、おじいちゃん先生の吐息がかかってるもん、息が荒いよ?

「ハァ…ハァ…」

「わたしの好きを実験したいの」

でもそれだけじゃダメ、一方通行は意味がないし、むなしいだけ…

「でも、わたしだけじゃダメ。おじいちゃん先生も好きになってもらわないと…」


言いたくないけど言わざる得ない。

今いったセリフは絶対に断れる。断ることを赦すことはできないわ。

わたしは、 加納 ひまり 加納家の娘 この町で権力をもつ娘よ。

「好きになる努力をしてもらうこと、それが実験です」

「それは無理じゃ、わしは教師で生徒に手を出すなんて、しかも加納家のお嬢様、これがどんな意味かはわからんことはないじゃろうぅ…」

 視線を外し、下をみるおじいちゃん先生 

その意味はわかってる…わたしは加納家、ただそれだけで、男子の誰もが、わたしに声をかけてこない。

「わしは首になるわけにもいかない…」

 申し訳ない気持ちが、どんな思いなのかはわからないけど、ここで引き下がれるほど、わたしの想いは下げることも、折ることもできないよ、おじいちゃん先生。

「娘さんの結婚式が近いってことだからかしら?」

 その発言に、驚き、わたしをみる。


「なぜ、それを…」

「少し調べさせてもらったわ」

 ここからだ、わたしはきっと悪魔の所業にも似た行いをする。

加納家の恥さらしと言われるかしらね。

「娘さん の結婚式でたいですよね?」

「もちろんじゃ…いままでどれだけ娘のためにがんばったか」

「ええ、では協力してくれますか?」

 それ以上言いたくない、言わせないでほしい。素直にうなずいてほしい。

「意味がわからん、それ以前に、わしはもう年寄りじゃ…」

 わたしは、黙って見続ける、その先を言わせないでと目でアピールをする。

「それに娘より若い子と恋愛なんて、無理じゃ、どうしたって」

「わたしが、加納家の娘じゃなかったら、受けてもらってましたか?」

「それは同じじゃ、加納くんを特別に見るなんてない。生徒は生徒じゃ…」

 少しなでおろす、わたしを他の人と同じに扱ってくれてる。…ありがとう。

「わたしは、加納家、権力があることをお忘れですか?」

 ―わたしは、ひどいことをいうね、これじゃ、脅しだ。わかってても…

「………それはどういう意味じゃ?」

「それが条件の一つです。おじいちゃん先生」

 ―口に出したくない、それは最低の脅し…

「………」


 おじいちゃん先生、わたし今どんな顔していますか?


 ―笑ってますか?


 それとも…


 ―泣きそうですか?


「…わかった、わしはその実験を手伝うことにする」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る