第3話 実験をしましょう③

 震えているわたしを安心させるように、おじいちゃん先生は、そっと手を頭の上に置いてくる。

「少し…我慢してくれるか?」

 何を?なんて思ったけど、状況が状況だけに、その言葉に頷いた

「…コクっ」


 先生は、わたしの肩に手をやり、そのまま抱きしめてしまう。

「――ぇっ」

 それからは、一瞬だった。おじいちゃん先生は、わたしを半身ずらして、犯人の手をもう片方の手でつかむ。

「ぐああぁ…いてえ……っ」

 チカンの手首を掴み、ひねりあげてそのまま持ち上げている。

「おまえさん、チカンは犯罪じゃ」

 ちかんの顔を思いっきり、睨み付ける。周りの乗客も、何事とばかりに視線が集中する。

「してねぇし、その女の勘違いだろうがぁ、くそ離しやがれ」

「ほぅ、しらをきるつもりか?」

 犯人は痛がりながら、わたしの顔を見てくる、目が合うとおじいちゃん先生の胸に顔をうずめる。

「おぃ…クソじじい、次で降りやがれ」

「いいとも、おりてやる、で、そのまま警察に厄介になるんじゃ」

 おじいちゃん先生と一緒に次で降りることになる。


 乗っていた乗客の視線を浴びながら見送られ、わたしたちは、ちかんと一緒に電車乗り場にいる。

「くそがっ、てめぇ、死ねやぁ」

 いきなり、殴りかかるチカンに、おじいちゃん先生は、こちらを見ずにわたしに告げてきた。

「下がっておれ、加納くん」

「…はい」

 少し不安になりながらも、返事して、そのままおじいちゃん先生の後ろに。


―――――――ダンっ


 一瞬何が起きたの?犯人が勝手に、横転して転ぶ。

「ぐぁっ」

 犯人は横転の痛みで声をあげてる。それからもう一度殴りに行く。

「くそがぁ…」

 ひきつった顔で、おじいちゃん先生を睨み付けているが、その迫力をよそに、おじいちゃん先生が、静かに動く。

殴りかかる手を左手で弧を描くように回し、そのまま右手で、ちかんの首を抑えて、ちかんの左腕の肘を逆に抑え、ちかんの右腕をそんまま背中で決めて、抑え込む。

「ぐぁああああああ」

 あっという間だった。何が起こったのか全くといっていいほど、一瞬だった。

「すまんが、加納くん、警察に電話してくれんかの?」

「……は、はい」

 見惚れていて、返事が遅れるも、すぐに携帯を使って電話をする。

 すぐに警察がきて、そのあとに色々聞かれて、時間が時間だけに親が迎えに来て、おじいちゃん先生にお礼をいい、わたしは家に帰ってきた。



 いまだに、あの光景が頭から離れない。

「…おじいちゃん先生、あんなに強いの?」

 言葉で再確認してしまう。ただのおじいちゃんじゃなかった。

 めちゃくちゃつよい…

それにかっこよかった…


―――『加納くん、下がっておれ』


 おじいちゃん先生の声を、言葉を思い出す。

 あの時の横顔も良かったな~


「いけない、いけない、お風呂入ろう」

 なんか、胸がざわつく。


…チャポン


 はぁ~極楽~、おじいちゃん先生のかっこいいとこみれたおかげか、お風呂が気持ちい…うーん。湯舟につかり、おじいちゃん先生との今日一日を思い出す。


「でも、おじいちゃん先生の照れた顔も良かったなぁ」

 あの照れた顔を見ると思わず、笑っちゃう。

 わたしなんて、きっとおじいちゃん先生のこどもより、若いのに…。

あんなに、照れて、汗かいて、どもって、でも嫌がらないの…

あの感覚が楽しい…また……したいなぁ~


ドクン―


ドクン―


え―

 なに、胸があっれれれ…胸が……


「――――……はっ、はっ…」

 動悸が止まない…


ダメ、ナニコレ、ハァハァ、ッ…


―――――その感覚や動機は答えが曖昧でだから調べることにする



放課後、わたしはいつもなら、いつもの日常を送るためにくるのだけど、今日は違う。


「おじいちゃん先生、話があるの」

 実験準備室に、今おじいちゃん先生と二人でいる。

「…話じゃと?しかし、近すぎじゃ、もう少し離れてくれんかな?」

 わたしは、今にも、キスができそうな距離でおじいちゃん先生に詰め寄っている。

「わたしは、この気持ちが知りたいの」

 必死に考えた、でもそれはあり得ない。

「気持ちじゃと?」

「昨日おじいちゃん先生に助けられて、家に帰ってから、おじいちゃん先生の事を考えるとずっと胸のドキドキが収まらない」

 一気に思いを伝えた。おじいちゃん先生はぽかーんとしてる。するよね。

「…それは吊り橋効果とかそんなじゃよ」

 おじいちゃん先生は、さらに優しく伝えてくる。

「一種の迷いじゃ、時間がたてば、解決する」

 でもそんな答えは、きけない。

「昨日の夜から今も、もう半日くらいたってる」

「明日には治っておる…我慢じゃ」

 わたしの肩に手をやり、身体を離してくる。

「そうね…ありえない感情だもん」

「そうじゃ、そんなのはあり得ない」

あっ


なんか、今イラっときた


今の否定されたこと、わたし的にプライドが傷ついた。

否定されると、否定されるだけ、それを余計に、それを否定したくなる。


「おじいちゃん先生…」

「な、な…なんじゃ…」

 きっと、今のわたしはひどく、小悪魔な顔をしてるのだろうなぁ…

声でわかちゃった。


「ふふふ…」

 おじいちゃん先生は、ひどく、困った顔してる。ううん、少し焦ってる?


 このままじゃ下がれない。

わたしの初恋かもしれない気持ちを

迷いとかありえないとかで終わらせるわけにはいかない。


 そして

その困った顔が好きってのは理解できた。


「おじいちゃん先生、わたし、好きです」

「え?」

困ったように固まる。


――――「だから、実験をしましょう」

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