アクシデントスター
学校帰りにしばらくコンビニで立ち読みをして、出ようとすると傘がなくなっていた。買うのも馬鹿らしい気がして走って雨の中を進んでいるとオジサンにぶつかって水たまりに鞄を落としてしまった。たぶん教科書はもうべしょべしょ、しかも怒鳴られるし。
これは夕立だからしばらく待てば止むかなって思って駅前のコーヒー屋に入ると、軽くプチいじめを受けている連中に出くわしてしまってコーヒーを三人分奢らされた。幸いそれで解放されたのを良しとして、私は窓際に座って携帯で事あるごとにやっているタロット占いをする。結果は「星の正位置」だった。
今日のきみはみんなの中心、まさにスターだよ。
絶対ウソだ。なにか間違っている。
星座占いは十二星座中2位。ラッキーカラーは紺だった。私の盗まれた傘も紺色だった。
ああ、もうほんとツイてないな。雨は一向に止む気配もなく降り続いている。制服が夏仕様だから濡れたら下着が透けちゃうし。小腹が空いて何か食べたかったが、さっきタカられたせいでベーグルサンドを買うには二十円足りなかった。ポケットに入っているアメを二十円で買い取ってくれないかな、バカな事を考えながらそのアメを口に含む。
雨は止まない、お腹は空いた、例の三人組はまだ店内にいる。仕方なくトレイを片付けて店の外に出る。走るっきゃない。ぱたぱたと小走りに駆けてすぐ近くのバスの停留所そばの商店街の軒下に入る。濡れた髪を拭こうとしてハンカチを取り出そうとしたが、今度はハンカチが見つからない。あれだ、店に入って鞄を拭いて、そのまま机に置きっぱなしていたんだ。お気に入りだったキティちゃんのハンドタオル。
なんか泣けてきた。神さま、私なにか悪いことしましたか?
店に戻る気にもなれず、一人で心のドツボにはまりそうになっている青春のうら若き私。人生って、高校生って、もっと輝いていると思ってたのに。部活では足を引っ張り教室ではハブられ気味で。夢見ていた女子高ってやつはたったの一か月で私が抱いていた清純なイメージをものの見事に打ち砕いていた。
もう寝たい。道端で寝転がってダウン気味にごろごろしたい。たまにホームレスの人が無性に羨ましくなる。嫌だなあ、バスを降りてもそこから更に歩いて二十分。せめてお母さんが温かいお風呂を沸かしていてくれる事を祈っていると不意に肩を叩かれて私は飛び上がった。
「は、はい?」
見ると中年と呼ぶにはまだ若い、二十代後半から三十代前半くらいのちょっとオシャレな雰囲気の男性が私を見ていた。クールビズで背広もネクタイもしていないラフさが妙に似合っている。
「これ、きみのだよね。店から見てたらここにいるのが見えたから」
そう言ってハンドタオルを手渡してくれる。私は泣きそうだった。やっぱり今日のスターは私かもなんて調子に乗ってみたり。
「ありがとうございます。わざわざすみません」
「いいよ。気にしないで。可愛いハンカチだね」
そう言われたのがまた嬉しくて、私はそのハンカチを広げてその人に柄を見せる。
「ちょっとした限定品なんです。それで…」
うきうきと話そうとした私が急に言葉を切ったのをその人は傘の下から少し不思議そうに、でも優しい目で見つめている。
ここは、何としてでも乗り越えなきゃならない。絶対に気付かれちゃいけない。命に代えても。ハンカチの裏に「デブヒヨコ」ってマジックで書いてある事だけは、断固気付かれてはならない。
「そ、それで、私こういうの集めるのが趣味で、その…」
無理くり言葉を繋いでみるが挙動不審なのは一目瞭然だった。
その時一陣の風が吹き上げて指先でつまんでいたハンカチを宙に舞わせた。
それを上手いことキャッチしたワイルドさんの顔が笑顔から、ちょっとひきつった笑顔になった瞬間、私の笑顔は泣き顔に変わった。
「う、うぅ、あっ、わあぁーーーー」
私の頭の中ではなぜか岡本真夜の「Tomorrow」が流れていた。
涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように
ウソつけえー! こんな涙が人を強くする訳あるかっ!
明日っ! もう来んなっ!!!
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