きみに優しくしたくなる朝は


 くっついてガムみたいに、離れなかったらいいのに。

 朝、目が覚めて瞼を空けるときみが映る。健やかな吐息と睫毛。胸が膨らんで戻って膝から下の足は絡まって少ししびれている。

 黒いわかめみたいな髪。でもそのわかめは縦に無数に細切りにされていて、指先で選り分けていくと最後の繊維の一本が指の腹をくすぐる。

 無防備に寝ているな。まるで幼い子猫みたいに。起きている時はジャイアントパンダみたいなのに、大きくて広い体を渡すまいとしているその姿はまるで小動物みたいだ。

 うっすらと主張するきみの胸毛。時が過ぎたら見慣れて、二人の胸と胸をつなぐ神経のように、触れ合った私の胸の先をちくちくと刺激する。

 腕の中から見上げた窓の外で泣いていた雲が別れていく。やらかい風が街を起こす夜明けをわずかに越えた朝焼け。エアコンのないこの部屋では昨日からずっとストーブが優しい熱と光を放ち続けている。

 この空間。このベッド。この幸せ。

 誰かの体温を傍に感じながら眠るのなんて、家族以外ではきみが初めてだ。思い出す。寒くて寒くて目が覚めてママの温かい足に冷えた足を押しつけた事。その日の外は雨上がりの水たまりが凍っていて長靴でそれを踏んで歩いた事。

 そんな幼い日々から少しずつ今を積み重ねていって、ようやくたどり着いたきみの腕の中。

 女の幸せは男なんだってそう感じる。男の幸せもやっぱり女なのかな? きみの幸せになれてたらいいのにな。優しい気持ちが独りよがりな切なさになってきみの頭を抱きしめたくなる。だけどそれをやったらきっと起こしちゃうな。丁寧に丁寧に、伝わらなくても、この感情を育ててきみに返していきたい。

 外から入る光はだんだん白とオレンジを増してきて薄暗かった部屋を満たしていく。本当は起きて、目玉焼きの朝食を作って、起きたきみに「おはよう」を言いながら一日を始めたかった。だけど起きようとするたびにきみの体温が邪魔をして、あと一歩の踏ん切りがずっとつかない。

 きみが傍にいるから携帯をさわる気にもなれない。きみの隣りじゃ集中して本も読めない。

 枕元に置いてあったCDコンポのリモコンのスイッチを押す。起きないでね、まだ、眠っていて。

 ギターが甘く響く、歌声が朝を彩る。

 今日はどこへ行こうか? そっと呟く。きみが起きるまでは、ボリュームは下げておこう。

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