第7話 ドゥーンパーク
「リツー、カズー!」
「なんだー」
大きな声が俺と立也の耳に届く。
「今日の放課後またスマブラね!」
「おう」
「
「私は絶対諦めないもん!」
「愛ってほんとしつこいよな。何日目?」
「一週間」
「うわぁ」
「うわぁとは何よ!」
立也と顔を見合わせくつくつと笑う。愛をからかうのは俺と立也の楽しみだ。
「まあ飽きるまで付き合ってやるよ」
「カズのくせに偉そうに」
「くせにとは何だよ!」
「クスッ」
「あー、立也まで!」
周りの連中が声を上げて笑った。愛も立也も大きく口を開けて笑う。俺も拗ねたふりをしていたが、堪えきれず吹き出してしまった。
いつもの、騒がしい教室。中心にはいつも俺と立也、そして愛がいた。
あの頃の喧騒は、今はもう失われた。
********
舞鶴達を交え、スゲーッス・マウンテンを離れる。俺の家族とはそこでお別れになった。
「カズ、少し聞きたいんだが……」
「どうした?」
他の連中が話で盛り上がってる中、立也が小声で問うてくる。
「そもそもどうしてカズがここにいるんだ?」
「あー、それは」
立也からすれば不思議な話だろう。あの事件の後、出来ればここに来ることを避けるようにしていたからだ。
一昨年、一度過去を克服しにやってきたが結局観覧車には乗らなかった。
「これだ」
ヒラリと、ポケットに入れたチケットを人差し指と中指で挟み、取り出す。
「何だ、それ?」
「株主優待で手に入れた奴」
「そういうこと……。お前のとこが無駄にする訳もないか」
「ああ」
「そして美也ちゃんに最後の一押しを食らったとかそういうことか?」
「ご明察」
お見通しなようだ。
「ん、何それ!?」
福知が振り返り、チケットに目を止める。彼には株主優待制度の所から説明をした。
「てことはそれがあれば乗り物乗り放題ってこと!?」
「そうなるな」
「羨まし「マジすげえ!」」
リアクションが大きい福知に、モブ田の一言はかき消される。マジかわいそう。
「それより、天橋くんは清水くんの家族と仲が良かったんだね」
ここで舞鶴が、皆が気になっていたであろう質問を飛ばす。彼女はその事実を知っているはずだが、知らないフリをしているので何もおかしくはない。
「清水とは小学校から一緒だから、会う機会が多かったんだ」
「立也と清水っちが幼馴染とか初耳だし! マジ意外」
福知は清水っちという呼び方が気に入ったらしい。家族と別れた後も、この呼び方を続ける気でいるようだ。
「清水と天橋は、仲良いの?」
伊根町が首を傾け尋ねてくる。先程の観覧車の下りも聞かれていたので、もう伊根町に隠し通すことは出来ないだろう。
「「…………」」
立也と顔を見合わせる。
「ここの皆になら、話しても特に影響はないと思う」
「……そうだな」
立也の考えに同意する。彼は知らないが、既に舞鶴も知ってしまっている。残りは福知とモブ田だけなので、今更隠す意味も無いように思えた。
それどころか、ここまで来てしまっているので隠し通す方が大変だろう。
「あー、俺と立也は、伊根町の想像通り仲の良い方だ。少なくとも互いの家族をよく知ってるぐらいにはな」
「さっきも言ったけど、カズとは長い付き合いだしね」
素直に打ち明けてしまう。伊根町はもう一つ不思議そうに聞いてきた。
「カズ?」
「ああ、昔からそう呼んでたんだ」
「そう、なんだ」
その時ふと、伊根町は考え込む仕草をした。この展開、どこかで見たことがあるような……
「なんで二人の仲を俺達に隠してたのさー」
だがそこで、福知が会話に入り込んだ為に思考が遮られてしまう。大したことでもないだろうと、俺も考えるのを止めた。
「何となく、だ。色々と周りの反応がめんどくさそうだったからな」
「別にそんなことを知ったぐらいで何もしねえのにさー、な、舞鶴」
「え、あ、……うん!」
舞鶴さん、動揺してるのがもろ分かりですよー。何かをした張本人なだけに答え辛かったのであろう。
「次あれ行かない!?」
舞鶴は誤魔化すように、しっかり確認もせずテキトーなアトラクションを指差す。
その先にはドゥーンパークという、かわいい動物達や星達の彫刻がたくさん並べられている小さな公園があった。きっと動物の背中によじ登ったりして遊ぶのであろうそれは、見るからに幼い子供向けの施設だ。
「い、良いんじゃない?」
福知が気をつかうように愛想笑いを浮かべる。舞鶴は指差した姿勢で固まったまま、顔を真っ赤にしていた。
ぷるぷると、体が震えている。
「舞鶴はそう、いう……のが、好きなんだ、な……ぷっ」
普段の仕返しにと意地の悪い笑みを浮かべながら舞鶴をからかうが、つい最後に吹き出してしまった。
「……!」
キッと、鋭い目つきで舞鶴が睨んで来る。しかし全く怖くなかった。
そう怒らないで欲しい。それに今のはおそらく、お前にとっては逆に良い影響を与えるぞ。
「ははっ、俺も好きだよ、こういうの。あやにも子供らしくて可愛い一面があったんだな」
立也が、馬鹿にするようにではなく愉快だというように笑う。その後に続けられたTHE・イケメンなセリフが更に舞鶴の頬を赤くさせた。
彼女には言っていなかったが、立也はどちらかというと子供っぽい女の子が好きなのだ。ロリコンである。
美弥が立也に懐いているのも、立也が必要以上に美弥に優しくする為だ。いくら立也でも美弥はやらんがな。
舞鶴が流れ上、仕方なしにドゥーンパークで楽しんでいる素振りをしていると、どうやら伊根町が立也に用があるらしく、立也を呼び出し別の場所で話をし始めた。
福知が興味を示したが、伊根町に「二人だけの話」とそげなくはね返されてしまった。
その後の福知は、目に見えて落ち込んでいた。もしかしてこいつ伊根町のことが好きなのか?
「寺田ー、写真撮ってー!」
この状況の舞鶴を素直な温かさで見ていた唯一の人間が離れていってしまい、彼女のことがいよいよ哀れになってくる。楽しそうな演技をしているが、その笑顔が今にも泣き出してしまいそうなぐらい儚く見えたのは俺だけじゃないはずだ。
「はい、チーズ!」
モブ田はノリノリで撮っているし、福知は落ち込んでいて下を向いている。立也と伊根町は別の場所に居るのでやっぱ俺だけだったみたいですね、前言撤回します。
とりあえず立也の代わりに温かい目で見守ってみた。ドゥーンパークを十分に堪能(笑)し終えた舞鶴に、小声で「キモイ」と罵られてしまった。
だが余裕の笑みを返しておく。悔しそうに歯噛みする彼女を見るのは気分が良い。
などと挑発していると立也と伊根町が話が終わったらしく俺達の所まで戻って来た。
舞鶴も恋する乙女、先程の福知同様、伊根町に何の話をしていたのか質問したが、「後で話す」とこれまた軽い返答をされていた。気になるようで舞鶴の顔は晴れない。
立也の方を見ると、少しだけにやけていた。だが、どうせ俺には関係の無い話なので、特に聞き出そうとも思わなかった。
福知と舞鶴が悶々と悩んでいる様子を尻目に、俺達は次のアトラクションを目指した。
現在、午後三時。
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