爆発は芸術だ 新潟県 小千谷市 片貝祭り四尺玉花火
ダーティサンチェス
直径120㎝ 重さ約420㎏
新潟県。この県はどうにもこうにもあいまいな県だと思う。
関東の一部として扱われたり、甲信越と言われたり。東北の一部だったり、今度は北信越だったり。
そんなあいまいな県は大きく3つの地区に分類される。
上越、中越、下越だ。
地図で見ると上越は下の方にある。これは何故かと言うと、昔のみやこ、つまり京都のある方向が上とされていた。それ故に京都に近い場所が上、遠い場所が下となる。これは越前、越中、越後にも同じ事が言える。
ともかくそんな新潟県の中越地方に小千谷市と言う市がある。おじやと読むこの市は人口4万人に満たない。にもかかわらず、たった2日間で20万人近くの観光客を呼び寄せる、夏の暑さが残る九月上旬のイベントがある。
それを片貝祭りと言い、目玉は何と言ってもギネスにも登録されている世界最大級の花火、正四尺玉の打ち上げだ。
僕が初めてそれを見たのはいつ頃だったか。
10代にもなっていなかったかもしれない。小学校にはすでに通っていたと思う。夏休みも終わって9月になったのに両親が花火を見に行こうと言ってきた。小さな僕はまるで何も考えずに行く―!!と大きな声で叫んだ。ただその時の僕は地元の小さなお祭りとの区別もつかず、いざ出発するとなんだかずいぶん長くドライブが続くな、このままどこか知らない場所に連れて行かれるんじゃないかと思っていた。そんな長いドライブが終わって全然見知らぬ家にたどり着いた。そこにはたまに家に来て父と話をしているおじさんがいて、ここが良く見えるんだと、僕と父で家の横にある2階建ての車庫の二階に上がっていく。
ほこりっぽくてささくれ立った、剥き出しの床にとりあえずブルーシートを敷いて、父と食べ物や飲み物を確保しに車と車庫の二階を何度か往復をする。車庫の二階には大きな窓があって、そこに嵌められているはずのガラス窓はその日に限り完全に外されていて、そっくり外が見えるようになっていた。
母は当たり前のように良く働きビールのボトルやら、プラスチックのパックに入った漬物なんかを持ってきてくれた。父はすでにリクライニングの座椅子をちょうど良い角度に倒し、花火を見る体制を万全に整えていた。
僕と言えば、その頃漬物何かにかけらも興味は無く、丸くて大きい大皿に載った唐揚げだったり、ウィンナーだったり、とにかく肉ばかりをパクパク食べていた。だけどそれも空を劈く爆音が聞こえてくるまでの話。ぱぁっと空が明るくなって、どんと強大な音が体の芯に響いてくる。そうして最初の爆音が響き渡ってからアナウンスが始まったいる事に気が付いた。
アナウンスが入り、夜空に花火が打ち上がる。それは一つだったり、ふたつだったり、ぱらららと小さくいくつも破裂したり、はてまたどんどんと続けざまに上がったり。それはそれは絢爛豪華ですばらしい物だったのだが、僕と言えば30分、1時間と時間が経つにつれて少しづつそのすばらしい芸術への関心を薄れさせていった。
今でもそうだが僕は遅い時間まで長く起きている事がとても苦手だった。
小学生の頃は8時には寝ていたし、友達が月曜夜10時のテレビ番組の話をしていても全然着いていけなかった。加えていつものように家に帰って家庭用TVゲームをプレイしたくなっていたのだ。暗い階段を降りて、家によく来る知らないおじさんの家にあるトイレを借りて倉庫の二階に戻ると僕はそれがもっとも優先すべき事だと心底信じて提案をする。
「ねえ、もう帰ろう、眠いし花火飽きたよ」
「帰ろう?〇〇(僕の名前だ)、これからがすごいんだよもう少し我慢しろ。
ほら三尺玉があがるぞ」
そう言われて空を見ると一筋の光が空えと波打った線を描く、ふっとその線が消えたと思うと空に一際大きな光が現れた。続いてどんッッ!と今までの花火にはない深い音がここまで届いた。一瞬花火への興味が戻ったがそれも花火のようにすぐに消えた。
「ほら、三尺玉も終わったよ、帰ろう?」
「ばかいってんじゃないよ、
次の花火を見に来たんだから、これを見なきゃ帰れないよ」
次の花火?もう花火はたくさんだよと僕は思った。
アナウンスでなんだか言っているけどまるで耳に入ってこない。
かと言って携帯ゲームも持ってこなかった僕は他にする事もなくて
窓の外に目をやった。
気のせいかもしれないが、なんだか辺りの空気が先ほどまでと変わったような気がする。しぃんと静まりかえって、虫たちの鳴き声すらなくなった。なんだか少し不安になってきた僕はそわそわとしだす。だけどすぐに空に向かって一つの光の粒が線を描き始めた。
そうして花火が打ち上がった時の音がまずこちらへ届く。それは今までの音とどこか違って重く、低い音だった。そして光の粒もきょろきょろとお祭りの出店に目移りして歩く子供のようにゆっくりと、だけど着実に空の中へと向かい、そして消えた。
その後。夜は昼間になった。歪に開いた金色の巨大な光の塊が目に飛び込んできた。
その瞬間に僕は死ぬと思った。あまりにも大きく想像できない程の爆発に完全に人生を諦めた。そして覚悟した。この後に来るだろう爆音は時間にして1~2秒程だろうか。ぐっと体に力を込めてその瞬間に備えた。
僕が覚えているのは花火の思い出じゃない。あれは爆発だった。大爆発と言った方がいいかもしれない。ぐっと力を込めた僕に向かってきたのは音じゃなくて爆風だった。全身を面状に風に叩かれるような感覚、とてつもなく低く重い音はびっくりするような物ではなく腹に響いてその存在を刻み込むような物だった。今までごねていた僕もその瞬間に言葉も失い体の動かしかたも忘れていた。
だがこういう場面で大人は現金だ。”それ”が終わるとそそくさと支度を初めてあっという間に車に乗り込んだ。僕はぼーっとしながらも後部座席に乗り込んで気が付いたら寝てしまっていた。
後から聞いた話では父がやっとこさ抱きかかえて部屋まで運んでいったらしい。
いつ寝てしまったかも覚えていない僕だがそれでもあの光は今も忘れられない。
直径120㎝
重さ約420㎏
正四尺玉
それが僕の街の物語だ。
ちなみに最近だと埼玉県鴻巣市でも正四尺玉の打ち上げをしているらしい。
ついでにぶっこむが新潟県の花火大会は片貝だけでなくどれも素晴らしい。
僕のおすすめは柏崎の花火だ。
尺玉100発同時打ち上げはぜひとも体験してほしいイベントだ。
爆発は芸術だ 新潟県 小千谷市 片貝祭り四尺玉花火 ダーティサンチェス @zyairoz
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