41.ササヤカな日々

先輩の家で朝ごはんを食べて


車で家まで送ってもらった時には


晴生はまだ寝ていた。




起こさないようにバイトに出掛けて


ランチタイムが終わった後に帰ると


テーブルの上に封筒が置かれていた。




中には五千円が入っていた。




「全然足りないってば」




晴生なりに何とかしようとは


思っているのか。




掃除と洗濯を済ませて


買い物に出掛ける。




「五千円で一ヶ月乗り切れと…?」




晴生は店で賄いを食べるとして


私の食べる物をどうにかしないと


飢え死にしてしまう。




スーパーでモヤシと玉子を買って


ボロアパートで炒めて食べながら


電卓機能で何度も計算する。




全てを食費に回せるわけではない。




日用品だって必要だ。




トイレットペーパーもラスイチだし


米びつには僅かな米しか残っていない。




絶望を感じながら晴生の帰りを待った。




深夜に帰宅した晴生は黙ったまま


私の目の前を通り過ぎて部屋に直行した。




「待て待て待て待て待てーい!」




後ろ手に襖を閉めようとした太い腕を掴んだ。




「何だよ?金なら置いといただろ」



「偉そうに言える金額?!」



「足りねえのか?」



「…え?もしかして五千円で生活費が足りると?」



晴生は本気でキョトンとしながら


私を見下ろしている。



「サヤカも賄い出るだろ?家で食わなきゃいいじゃん」



「食事だけならそうだけど、ゴミ袋だってあと1枚しかないし…」



「そうか。必要なもんは何とかするから書いといて」



まさか店から持ってくるつもりじゃないよな?と


思ったが、晴生はそういう事はしない。



「光熱費は?携帯代は??」



「払っとくから心配すんな」



「心配すんなって晴生もお金ないでしょ」



「だから、心配すんな」




掴んだ手を振り払われて襖が閉められた。




何とかするって何?


心配すんなとはどうやって??




話をしてくれる気はなさそうだから


座って必要な物をメモに書き出す。




数分後


晴生は襖を開けてお風呂場へと


そそくさと入って行った。



出てきた時に「必要な物書いたから」と


メモを渡すと「おう」と受け取って


部屋へと閉じこもった。




晴生が拗ねて無愛想になっても


大体寝れば機嫌は戻っているから


この冷戦状態はどうせすぐに終わる。




何も解決していないけど


今は何を言っても無駄だから明日でいいや。


楽観的な気持ちで布団を敷いて


部屋の電気を消した。








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