40.ササヤカな日々

男物のスウェットを着て戻った私に


先輩はペットボトルの水を渡して


再び廊下へと案内された。



「俺まだ仕事あるからサヤはこの部屋使って」



真ん中辺りのドアを開けると


シングルベッドが隙間を開けて二つ。


本当にホテルの部屋みたい。



「や、あの、私リビングで寝ます」



「え?」



「同じ部屋で寝るのはちょっと…」



「あー(笑)。安心して、ここゲストルームだから」



「げすとるーむ…」



作業着で汗水流して一緒に働いていた先輩は


いつの間にかパーティーピーポーへと


変わってしまっていた。



「俺はリビングの奥の部屋で寝るからゆっくりお休み」



「おやすみなさい」



あの広いリビングで友達なんかを呼んで


ドンチャン騒ぎをした後に


ここに寝るための部屋があるとはね。




ずっと見ないようにしていた


昔の会社のホームページを開いた。


電気工事の小さな会社だったのに


いつの間にか事業が拡大されて


自社ビルになっている。




取締役数名の中に先輩の名前と


元カレの昇の名前が並んでいた。


事務員だった女性の先輩は


カスタマー何とか部の部長になっていた。




昇と結婚していれば


私も何とか部の課長にくらいは


してもらえていただろうか。


それとも寿退社してたかな。




違うな。




きっと子供が出来ないことを責められ


自分でも自分を責めながら


肩身の狭い生活をしていた。




ふかふかの布団に倒れ込むと


サヤカがいいと言ってくれた晴生の顔が


ぼんやりと浮かんできた。




生活を立て直せば元に戻れると


眠りに落ちながら思っていた。




晴生と二人で穏やかに暮らしながら


小さな幸せを感じていたあの日々を


夢の中で思い返していた。




深夜。




大きな手が私の頭を撫でていた。




疲れきっていたから


目を閉じたまま起き上がらずに


その温もりを感じた。




夢か。現実か。




考える前に意識は落ちて


目覚めた時には朝を迎えていた。





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