42.ササヤカな日々

次の日から


晴生は私と顔を合わせないように


徹底的に生活時間をずらし始めた。




『今日は仕事何時まで?』



『ご飯いる?』



『ちゃんと食べてる?』



既読スルーされるメッセージと


留守電にしか繋がらない電話を


何度も何度も繰り返した。




私の寝てる間に帰ってきて


私が仕事に出ている間に起き出して


私が帰るまでに出掛けている。




私が帰宅するとメモで伝えた日用品が


キッチンに置かれていた。


トイレットペーパー、ゴミ袋、洗剤…。


どれも百均で買ってきた物のようだ。




部屋には散らばった洗濯物と


カップラーメンやお菓子の残骸が残っている。




晴生は店が忙しい日は賄いを食べずに


帰ってきてるのだと思う。


それでも私が作って置いてある食事は食べず


コンビニのお弁当を食べている。




反抗期か!!




まあ、晴生も後ろめたさがあって


顔を合わせづらいのだろう。




一週間もすれば何事もなかったように


普段どおりに戻ると予想していたが


一向に姿を見せようとしない。




「晴生ー、いつまでそうしてるつもり?」




コッソリ帰ってきて部屋にこもった気配に


襖越しに話し掛けても返事はない。




「あっそ。無視するなら晴生のAV捨てるから」



反応がない。



寝たのか?



「あ、もったいないから売ろっかな~?」



やはり反応はない。



と、襖が静かに開いた。



「…やめろ」



久々に見た晴生の顔は真剣そのものだった。



「わかったから。一緒にご飯食べようよ」



「いらねぇ」



「お腹すいてるでしょ。カレー温めるからさ」



手を引っ張って座らせると


晴生は素直に従った。


カレーをテーブルに置いて


私も座って手を合わせた。




「俺のAV売るなよ?」



「わかったってば(笑)。早く食べて」



「絶対だからな」



「はいはい(笑)」




晴生はカレーをおかわりした。



空っぽになった鍋を洗いながら


日常の平和は取り戻されたと思っていた。




「AVのチェックするから部屋開けんなよ?」



「正直に観ると言えば?(笑)」



「とにかく開けんな」



「はいはい(笑)」




何度か襖の隙間を開けるふりをしては


晴生が「こら!」と閉めるをやっていたら


久々に布団へと誘われた。




AVを観ながらってのは気に入らないが


温もりに包まれる幸せの中で


明るい未来を夢に見ていた。





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