38.ササヤカな日々

ガシャンッ。




その日は二枚お皿を割った。




片付けていると破片で指を切って


何だか散々だった。





アパートに帰ると


ドアの前に大家さんがいて


「今月分の請求書だから」と


振込用紙を渡された。




給料日のすぐ後に


晴生の口座から引き落としなのに


何でだろう。




前回の家賃滞納の時に


次に滞納したら退去と言われてるし


仕方なく自分のバイト代から


家賃を振り込んだ。




もうこれで私はあと数百円しかない。




帰って来たら晴生に返してもらえると


当たり前に思ってた。





その晩。




晴生に家賃について聞いた時


冷たい汗が流れた。




まさかのスロットに給料を使っていて


もうお金は残ってないという。




「ごめん!サヤカ」




前の土下座から一ヶ月も経っていない。




こんな薄っぺらい土下座を見ても


あっそう以外は何の感想もない。




同じ言い訳はデジャヴを感じるだけ。




「私もうお金ないよ。どうすんの?一日二十円で生活できない」



「俺が何とかするから」



「どうやって?」



「姉貴に借りる」




思わずため息をつく。




「あちこちから借りればいいってもんじゃ……」



「じゃあ、どうすんだよ」



「なっ?!逆ギレ?!」



「キレてねぇよ」



「キレてるじゃん」



「とにかく何とかするから」




そう言って晴生は部屋と部屋の間の襖を


ピシャリと閉めた。




え?逆ギレ??




信じられない。




悪いのは全部晴生なのに。




「もう知らない!」




襖の向こうに言い捨てて


アパートを飛び出した。





行く当てなんかない。





実家にまた晴生がやらかしたなんて言えない。





どうしよう。





とりあえず七海に…。




電話しようとスマホを見ると


先輩からメッセージが入っていた。




『サヤのライター預かってるから連絡して』




すがるように電話をして


迎えに来てくれた車に乗り込んだ。




包み込まれるようなシートは温かくて


冷えた体と心にじんわり熱が届く。




先輩はしばらく車を走らせると


海岸沿いの公園の駐車場で停まった。




「浮かない顔して……。何かあった?」




こんなこと話すべきなのか。




でも、今は先輩以外に話せる人がいない。




「旦那が……、給料を全部使っちゃって」



「あー、スロットね」



呆れたように言う先輩は眉間に皺を寄せていた。



「喧嘩になって飛び出して来ちゃいました」



苦笑いを浮かべて軽い口調で言った私の頭に


大きな手が乗せられた。


ゆっくりと離れてハンドルを握る。




「今日は帰りたくない?」




そう聞かれて素直に頷いた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る