37.ササヤカな日々

「ただいま。お、サヤカ復活した?」



「晴生、座って」



「何……」と言い掛けた晴生は


テーブルの上に並べられた紙を見て


顔をひきつらせた。




「説明して」




晴生は無言で正座をして


両手をついて頭を下げた。




「ごめん!サヤカ」




「土下座はいらない。説明して」




晴生は頭を上げてボソボソと喋り始めた。




「金はスロットに使ってて……。マイナスになった時に取り返すために金が必要だし。使っちゃいけない分とはわかってたけど、取り返しゃいいかなって……」




元プロの冬哉に教えてもらって


当たる台の見極め方もわかってきたから


そろそろプラスになっていくはずだと言う。




前向きすぎる。




「あのね、晴生。お小遣い範囲内で遊べないならスロットもパチンコも絶対にやらないで」



「わかった」



「私の貯金も使ったでしょ」



「ごめん」





平謝りの晴生を見て反省したと思ったから


親に頼み込んでお金を借りて


滞納している支払いを済ませた。




晴生には借用書を書かせて


月々返済するように約束した。




一件落着。




そう思っていたのは私だけだった。





収入を増やさねば!と意気込んで


ファミレスで朝から昼過ぎまで働いて


夕方から居酒屋で働き始めた。




張り切る気持ちに体はついていかず


足腰が痛くて数日しないうちに


湿布だらけで出勤することになった。




親への借金を完済するまでは


それでも働かなくてはいけない。




病み上がりに無理をしているせいで


疲れで常に倦怠感がつきまとう。




はー、疲れた……。




ようやく迎えた給料日に


和輝先輩にお金を返すと連絡すると


奢るから飲もう、と誘われた。




事情を知っている人に


話を聞いてもらいたかったのが半分と


食費節約でロクに食べてなかったのが半分で


甘い誘いに応じた。




「スーパー銭湯の無料券あるから行く?」



「行きたい!」



「じゃ、銭湯の後に飲むか」




スーパー銭湯なんて何年も行ってない。




先輩は岩盤浴のサービス券も持っていて


身も心も癒やされた。




併設されている和風居酒屋へ移動すると



「風呂上がりのビールは最高!」



中ジョッキを先輩に向けて掲げた。



私を見て笑う先輩はお風呂上がりで


下ろしたままの前髪のせいか


何だかかっこ良く見える。



「サヤはいい飲みっぷりだね(笑)」



「先輩もどんどん飲んで食べてくださいね」



「俺の奢りでしょ(笑)」



先輩のお皿に料理をパパパッと取り分けて


追加のビールを頼む。



「ほら、遠慮せずに」



「昔と変わんないね、サヤ」



先輩は熱燗とおちょこを二つ頼むと


「あちっ」と言いながら


お酒を注いで私の前に置いた。



「ビール頼んだばかりですが」



「いいじゃん。サヤはお酒のが好きでしょ?」



「好きです……、けど」



久々に飲んだら酔っ払いそうだなー。



風呂上がりのポン酒は回りそう。



「飲まないなら俺が飲むからいいよ」



「飲みます。飲みます」





案の定、泥酔。



どうやって帰ったのか記憶にはないけど


目を覚ますとパジャマで布団に寝ていて


隣の部屋のベッドには晴生の姿が見えた。




晴生のご飯の支度をして


ファミレスのバイトへ出掛ける。




軽い二日酔いを感じながらも


頑張れば報われると思っていた。







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