36.ササヤカな日々

「スロットかー。ギャンブルはハマっちゃうとのめり込むからねー」



お弁当屋さんで待っている間に事情を話すと


先輩はため息をついた。



「でも、パチンコはそこまでじゃなかったし……」



「スロットは旦那さんに合ったんだろうね」




似たようなものではないのか。




違いがよくわからないと私もため息をついた。





アパートに帰ってくると


ドアの前に大家さんがいて


家賃をもう三ヶ月も滞納していると


請求書を渡された。




は?




呆然としていると


先輩は「駐車場に車入れて来る」と言って


階段を下りて行った。




数分後


自分の分のお弁当とコーヒー二つを持って戻ると


玄関で立ち尽くしている私を座らせた。




「とりあえず食べようか」



「はい」




黙々とお弁当を食べる私に


先輩はお湯を沸かしてインスタントの味噌汁を


入れてくれた。




結婚してから、いや、同棲してから


晴生は私にお茶すら入れてくれたことはない。




不満に思ったことはないけど


今の私は晴生にとって何なのだろうか。




お弁当を食べていると泣けてきた。




「うぅ……」




本格的に涙を流す私をそっと


先輩は何も言わずに抱きしめた。





ひとしきり泣いた後


顔を洗ってぬるいコーヒーを飲んだ。




先輩は請求書を見ていた。



「家賃分のお金、貸そうか?」



「いえ、親に相談します」



「そっか。いつでも頼ってくれていいよ。サヤは妹みたいなもんだし」



「何年も連絡取ってなかったのに……」



「サヤが昇のことを忘れたがってたからさー」




元カレとは別れたくて別れたわけじゃないから


無理にでも断ち切らないと


好きな気持ちをなくせなかった。




同じ職場の人たちと繋がっている限り


どうしたって気になってしまう。




いつか昇のことを忘れたら連絡すると


和輝先輩には最後に言ったかもしれない。




「ようやく連絡来たら人妻でビックリだよ(笑)」



「すみません」



「謝ることないし。お兄さん投資やってて金ならあるからさ。遠慮すんな」



「ありがとうございます」




パニックになってた気持ちが少し落ち着いて


先輩を駐車場で見送った。




熱はすっかり引いていた。




家に戻って晴生の部屋にある


触るなと言われてるAVの入った箱を開けた。




家賃の請求書の他にも


携帯や光熱費の請求書もある。



他も滞納してるのか。



電気やガスが止まるのも


時間の問題だったのかもしれない。




未払いのものをかき集めて


テーブルの上に並べて


晴生の帰りを待った。








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