34.ササヤカな日々

父や弟もギャンブルは一切しなくて


私にはパチンコやスロットに


人生を狂わせる力があるとは


一ミリも考えずにいた。




自分のバイト時間を増やして


家計の赤字の補填をすることに必死で


晴生の生活に気が回らなかった。





そんな時にインフルエンザにかかり


仕事を一週間休むことになった。




「晴生、スポーツドリンクと食べる物買ってきて」



「お金は?」



「立て替えられない?」



「手持ちねぇな」




渋々と起き上がって


キッチンに隠してあった一万円を


晴生に渡した。





その夜


遅くまで帰って来なかった。




水道水を飲んで病と戦いながら


意識が朦朧とする中で


ギィとドアの開いた音がした。




「サヤカ、寝てんのか?」



「は……る……」



「飯ある?」




うん?



それを……買ってきて、と


頼んだのは、私では……なかったかい?




「……ないよ」



「マジか。じゃあ、俺ちょっと食ってくる」




え?と思ったけれど


もう何か言う気力も体力もなく


出て行く後ろ姿を見送った。






翌朝。



シングルベッドでグースカ寝ている晴生の


財布の中を見ると小銭しか入っていない。




一万円渡したのは夢か?




でも、キッチンのお金はなくなっている。




まだ高熱でフラフラしながら布団に戻る。




起きてきた晴生が仕事に行く準備をしているのを


薄目を開けて見た。




晴生はチラチラと私を見ていたが


寝ていると思ったのか


そのまま出て行くようだった。




しかし


出る前に私の引き出しを開けて


ゴソゴソとし始めた。




何?




息を殺して見ていると


今度は私がお金を隠していた場所を


何やら探していた。




お金を探してるんだ!




じゃあ、昨日の一万円は……?




諦めて出て行ったのを確かめて


通帳を米びつの中から回収した。




これはマズイ状況だ。




さすがにそう思った。




実家にひとまず通帳とカードは避難させて


それから……。




ああ、駄目だ。




熱で頭が回らない。



視界もグルグルする。




と、とりあえず何か飲んで食べて薬飲む。




お母さんに電話……。




布団の横にあるスマホを掴んで


電話を掛けた。




「もしもし?」



男の声……弟か。お父さんが代わりに出た?


も、どうでもいいや。



はあはあ、と息が荒くなる。



「ちょ、ごめ、助け……て……」



「サヤ?!どうした?!」



「熱、あって、動け……ない」



「すぐ行く。今どこ?!」



「家……」



「住所!住所言って」




遠のく意識の中で住所を言えたかすら


定かではない。




そのまま布団の横で転がっていた。







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