33.ササヤカな日々

「ねー、晴生。ここにあったお金知らない?」



「あ、悪ぃ。ちょっと現金足りなくて使った」



「今月の食費なんだけど」



「給料日まで何とかして」




何とかしてって言われたって


私の貯金はこの一年でかなり使って


残高に不安を覚え始めていた。




今までは腰痛の悪化を恐れて


晴生の扶養の範囲内で働いてたけど


シフトを増やそうか。




家計簿をつけようにも


家賃と光熱費以外は使途不明金で


晴生のお金の使い道がわからない。




「必ず三万円返してよね」




月末にはきちんと戻って来たから


さほど気にしていなかった。




しかし


貯金口座に戻すつもりで


封筒に入れていたはずの三万円が


再び行方をくらました。




晴生を問い詰める。




「ごめん。ちょっと借りた」




勝手に持ち出さないように注意しても


同じことが起きるから


家に現金は置かないようにした。




それで一件落着だと思っていた。





忘年会シーズン真っ只中のある日。




珍しく昼間にオーナーから電話があって


二人でご飯を食べに行った。




「サヤカちゃん、大丈夫?」



「何がですか?」



「サヤカちゃんのお母さん入院してるんでしょ?」



「は?……母は元気ですが?」



「あれ?お母さんって言ってた気がするんだけど」




噛み合わない話を整理すると


晴生からサヤカの母が入院していて


治療費が必要だから給料を前借りしたい


と申し出があった、ということだった。




「それ絶対に渡さないでください」



「晴生、何かお金に困ってんの?」



「聞いてみます」





オーナーと別れた後


晴生の帰宅を待って話をしたけど


年末で出費が多くて


家賃の引き落としが出来なかったらしい。




具体的な出費が何なのか


いくら聞いてもハッキリしない。




さすがにお金のことは七海にも相談しづらいな。




悩んでるとオーナーから電話があった。




晴生の店の色黒店長に話を聞いてくれたようだ。



「もしかして晴生、冬哉ってバイトと出掛けてる?」



「あ、それ。そいつと遊んでから何かおかしい」



「冬哉ねー、元スロプロなんだわ」



「スロプロ??」



初めて聞く単語だったが


毎日スロットを打って生計を立てていたらしい。



「晴生も一緒にスロット行ってるっぽい」



「へー、そうなんですね」




パチンコには時々行っていたけど


お小遣いの範囲で遊ぶ程度だったから


それがスロットに代わったからと


大差がないと思っていた。




そんなのは甘い考えだった。






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