32.ササヤカな日々

幸せのピークは結婚式だったと思う。




結婚記念日を忘れないようにという理由で


11月11日に挙式した。




あまり貯金がなかったから


家族と本当に親しい友人だけを招いて


こぢんまりとした式と食事会。




普段は全く化粧しない私が


プロフェッショナルの手によって化けた姿に


晴生は「可愛いじゃん」と喜んでくれた。




「ありがとう」



「毎日ちゃんと化粧すれば?」



「こんな上手く出来ないよ」



「まあ、どっちでもいいけど」




晴生の白いタキシード姿は


本当にかっこ良くて


この人が私の旦那さんなんだと


世界中に自慢したい気分だった。






この頃には晴生も大型店舗の仕事にも


スタッフにも慣れ始めていたし


私がいると他のスタッフもやりにくいだろうから


ヘルプに行くのをやめていた。




監視を兼ねてそばにいるべきだったと思う。




可もなく不可もないおじさん店長から


少し若いアラフォーの色黒店長になり


色黒店長は自分と仲良いバイトを一人


店で働かせるようになった。




そのバイトは三十代くらいで


晴生以上にホスト感の漂う金髪フリーターだが


バイクが趣味らしく晴生と気が合った。




平日の休みの日。




「冬哉とツーリング行ってくるわ」と言って


出掛けてしまう。




さすがに寒くなってからは


バイクでは行かなくなったけど


冬哉とやらと二人で連れ立って遊びに行く。




しかも、色黒店長になってから


スタッフたちに派手な子が増えて


飲み会がオールになるようになった。




経済的にも負担だったし


何より朝まで帰って来ない。




帰って来ても爆睡していて


会話する時間が極端に減った。




やっぱり晴生の店で働きたいと言っても


今は人手が足りてるから


サヤカをシフトに入れる余裕がないと


断られてしまう。




まともに顔を合わせられるのは


晴生がお昼前に出勤していく時の


わずかな食事時間くらい。




寂しいけれども浮気しているわけではない。




男友達との遊びやバイトスタッフとの飲み会は


文句を言わずに見守るべきだろうか。




モヤモヤとした生活が一年以上続いた。




ある日。




引き出しに入れていた食費の三万円が


消えていた。







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