5.ササヤカな日々

やって来た文化祭当日。



店長が迎えに来た。



バイクで。




「何でスカートなんだよ?!」



「だって~」



二人で行くと言われたから。



「いつも履いてねぇだろ」



「文化祭だし~」




姉から借りた光沢素材のカシュクールワンピース。


ふんわり着る物らしいが


ピタピタなのは見逃して欲しい。


ちなみに姉は妊娠中に着用していた。




店長は私の着飾った格好を見て


一瞬顎に手を当てて考え込んだ。




「はいはい。車取りに帰るから待ってろ」



「あっ、うちの車で行けばいいじゃん」




バイクを置いて、父の車で高校に向かう。



運転は私。



すぐに助手席の店長はウトウトし始めた。




土曜の夜はオーナーや他店舗の店長と


明け方まで飲んでいるから


普段の日曜は夕方まで寝てるらしい。




寝顔が天使すぎて神ですが!




待ち受けにしたい。


待ち受けにしたい。


待ち受けにしたい。




信号待ちでガン見しながら呟く。




無断で撮るわけにはいかず


心のシャッターを連写した。





中心部から少し外れた所に


宝鳴ほうめい高校はあった。




近くの駐車場に車を入れる。




店長はまだグッスリ寝ている。




ツヤツヤのほっぺたをつつく。




起きない。




颯斗くんのダンスまで時間あるし


もう少し寝かせておくか。




『先に行きます。起きたら電話して。サヤカ』




おでこにメモを張り付けて車を降りた。





学校という施設そのものに


足を踏み入れるのは久しぶり。




男子校特有の青春の匂いがする。




何だか懐かしい。




颯斗くんは一年何組だっけ?




フランクフルトをかじりながら


もらったパンフレットに目を通した。




中高一貫校のせいか


小学生を連れた親子連れが多い。


受験のための見学も兼ねてるのか


進学の相談ブースがある。




日曜なのにセーラー服を着た女子も沢山。


あちこちで声を掛けられていた。




三階の廊下を歩いていると


女装した男の子たちがカフェの前で


呼び込みをやっていた。




単にアイドルの制服姿を真似ただけの


雑なJKの颯斗くんを見つけた。




「よっ」と声を掛けると


颯斗くんは照れくさそうに笑った。




「サヤカさん!店長は一緒じゃないんすか?」



「車で寝てるから放置してきた(笑)」



「マジすか(笑)。コーヒー飲んでってください」



「うん。ありがとう」




案内についていくと


颯斗くんのスカートはホックの代わりに


ガムテープが貼られてるのが見えた。




「そのスカート留めてるの何?(笑)」



「さっきちぎれちゃって……」



颯斗くんはポケットからホックを出した。



「縫いつけてあげる。脱いで」



「えっ?!今ここ離れられないんで……」



「あー、じゃ、着たままでもいいや」




教室の隅にあるパーテーションの中で


少しファスナーを下げてホックをつけた。




「はい。オッケー」



「あざーす」




すると、他にも「俺も」という子が出てきて


しばらくホックやボタンを縫うはめになった。



「僕のはリボンの真ん中が外れて……」



中心に巻き付けてるリボンを


針が首に刺さらないように縫ってあげる。



この子、背高いな。



胸ぐらをつかんでカツアゲしてるように


周りから見えないだろうか。




「ほい、出来た」



「あっ、ありがとうございます!」




一段落すると


パーテーションの外に立っている人と


目が合った。




「サヤカ何してんの?」



「店長!自力で起きたんだ」



近付いてきて指先で私のおでこを弾いた。



「人のでこにメモ貼んな」



「間違いなく見ると思って(笑)」



私は両手でおでこ押さえた。



「まあな。人の文化祭でも母やってんの?(笑)」



「他ではやってないけど?」



「店でも皆のお袋じゃん(笑)」



「えー、まだ結婚もしてないのに」




颯斗くんのお店でコーヒーを飲んだ後


時間まで二人で各教室を見て回る。





お昼にはカレーを食べた。


チュロス、たこ焼き、肉巻きおにぎり。


安くて美味しいものが沢山あって


店長とシェアしながら制覇を目指した。








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