4.ササヤカな日々

店長は人見知りなだけで


一週間も経たないうちに


すっかり私と打ち解けた。




厨房にフリーターの荒井さんがいる日は


三人で閉店作業をするけれど


いない日は私と店長の二人きりだから


帰る時間がどうしても遅くなる。




そういう時には必ずバイクで送ってくれた。




「いつもありがとう。毎度申し訳ないからいいのに」



「オーナーに遅い日は女子送れって言われてるから」



あー、ですよね。



「私みたいなのは別に襲われないし」



ヘルメットを返した。




「でも、女子だろ」




大きな手が頭をポンと撫でる。




それが店長の癖だっていうのは


男子高校生の颯斗くんにも同じように


頭をポンポンしているからわかってる。




わかってても、キュンです。




イケメンの頭ポンポンの破壊力に


モテない系女子は瞬殺されている。




「おやすみ、サヤカ」




バイクで走り去る姿に


キュンの沼から復活できない。




今夜もまた眠れない。






土曜日。




厨房に荒井さんと颯斗くんが入るから


店長はホールをメインに厨房を手伝う。




バンダナを外すと


明るい茶髪に白メッシュが映えて


これまたかっこいいんだ。




って見惚れてる暇はない。



週末は忙しい。



「エリちゃんは二階にドリンク運んで。店長はレジ。私はオーダー取りに行くから」



指示を出すと店長がふっと笑った。



「誰が店長かわかんねぇな(笑)」



了解の代わりに頭をポンとする。




仕事には慣れてきたけど


この手にはいつまでも慣れない。





ドキドキしてしまう。





店長がホールに出る日は


若い女性グループの客が増える。




土曜日だから客層が変わると思ってたけど


店長目当てに通っている人が結構いる。




常連さんっぽい綺麗なお姉さんが


馴れ馴れしく店長の腕を掴む。




「ハル君。今日お店終わったら飲みに行かない?」



「月末会議があるんで、すんません」



「えー、残念。もしかして彼女できた?」




その質問に思わず耳を澄ませた。




「いませんよ」




そ……、そうなんだ。



ホッとしてしまう自分は一体何を期待してるのか。





その日の帰り。




店を出る時に店長に呼び止められた。



「サヤカ、来月の日曜日ヒマ?」



「ヒマだけど」



「颯斗に文化祭見に来てって言われてさ。付き合ってくんない?」




ぅえっ?!




「い、行ってやらなくもなくなくないよ」



「どっちだよ(笑)」




店長は約束を取り付けると


本当に会議らしく二階の座敷の部屋へ


来店したオーナーと上がって行った。





文化祭って、も、もしや二人で?



エリちゃんたちも一緒……よね?





ああ、今夜もまた眠れない。









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