3.ササヤカな日々

閉店の二時間前、二十二時。



高校生のエリは帰る時間。



まだ数組のお客さんがいるのに


ホールに残っているのは


初日アルバイトの私のみ。




久々の立ち仕事で足が痛い。


腰も痛い。体が悲鳴を上げている。




全てが片付いた午前一時。




グッタリ。




満身創痍まんしんそういとは


『全身傷だらけでボロボロな状態』


『心身ともに痛めつけられた状態』を指す。




文字通り、満身創痍。




レジ締めと着替えを終えた店長が


カウンターでうなだれている私の隣に座って


煙草に火をつけた。




「サヤカ、平気?」



「なわけないでしょうが」



「思ったより忙しかったな」



「クソオーナーめ。初日にホール一人は無茶すぎ」



「シフト組んだの俺だし」



「何考えっ……」




頭を起こして睨み付けた時


大きな手で頭を撫でられた。




ほえっ?!




今のは頭ポンポンってやつでは?!




「人手が足りなくてさ」



私を避けるように煙を吐く横顔が


超絶色っぽい。




やば。




「そ、それは仕方ない……」




ドキドキする。




その後は煙草を吸い終わるまで無言だった。




「遅いから送る。サヤカの家どこ?」



「ヴェセルハイツ」



「ああ、交差点とこの。了解」




店を出て駐輪場のところで


ヘルメットを渡された。




「えっ?!」



「俺バイクだから。被って」



「へっ?!」




ヘルメットなんて子供の時以来


被ったことがない。



とりあえず頭にズポッとはめた。



顎の下のベルトが届かない。




「あー、ベルト短いな」




店長が調整をしてくれた。



指先が顎に触れてくすぐったい。




「きつくない?」



「あ、大丈夫……」



「おし、乗って」



大型の青いバイクに跨がって


スタンドを蹴り上げた店長の後ろに


どうにかこうにか座った。



ふう。



「しっかり掴まれよ」



言われて上着の腰辺りを握りしめた。



「手回せって」



店長は私の腕を持って腰に巻き付かせた。




広い背中に体が密着する。




ドキドキと鳴る鼓動が伝わってしまう。




これは、やばい。




私は今イケメンにしがみついている。






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