2.ササヤカな日々

「サヤカさんは主婦の方ですかぁ?」



テーブルにメニューを並べながら


エリが聞いた。



「ただのフリーターだよ」



「オーナーの奥さん?」



「違う違う。オーナーみたいなおじさん嫌だし(笑)」



オーナーは四十代半ばくらいか


もっと上だったと思う。



「えっ、サヤカさんって何歳?」



「二十三歳」



「またまた~(笑)」




実年齢を伝えて本気で冗談と思われた。




遅れてやって来たオーナーが


ゲラゲラ笑いながら近付いてきた。




「サヤカちゃんはこれでも晴生はるきと同い年だよ(笑)」



「俺もう二十四っすよ」と店長も微かに笑っていた。



「あ、サヤカちゃんは早生まれか(笑)。ま、高一のエリちゃんからすれば二十三もババアだよ(笑)」



オーナーが私の肩をバンバンと叩いた。



「そんなことないです~。すみません」



エリが頭を下げると


てっぺんのおだんごが揺れた。





ホールの女の子は他に高校生が三人。


厨房は店長の他に高校生男子と


フリーターのアラサー男性がいるらしい。




オーナーはカウンターに座ると


煙草を吸い始めた。




「今日は暇だろうから三人で頑張って」



私は湯呑みにビールを入れて灰皿の横に置く。



「他の人は来ないんですか?」



「厨房の奴が休むってさ。だから晴生が一人で必死に仕込みしてる」



「オーナーは手伝わないんですか?」



「俺は今から駅前の店のヘルプ。じゃ、サヤカちゃん後はよろしく!」




ビールを一気飲みして


逃げるように去って行った。





お店は暇でも忙しくもなくて


エリから仕事を教えてもらいながら


私は手が空くと厨房の洗い物を手伝った。




「助かる」




店長がポツリと呟いた。




相変わらず愛想はない。




それでも


「いらっしゃいませ」と


「ありがとうございました」は


お客さんにきちんと言っていた。




低く響く声もいい、と思った。





ただイケメンというものは


目の保養のために存在していると思っていて


恋愛の対象になることも


ましてや恋愛対象として見られることも


考えたことがなかった。










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