1.ササヤカな日々
「初めまして、岸谷サヤカです~」
開店前に来いと呼ばれたのに
オーナーが遅刻で不在。
店の中には雇われ店長が一人。
黙々と仕込み中の真っ最中。
狭い店内。
聞こえてるはずの挨拶をシカト。
昔働いていたから
店のことはよく知っている。
ずかずかと厨房に入っていく。
「今日からバイトする岸谷ですけど」
背の高い私ですら見上げるほどの
デカイ男に声を掛けると
二重の大きい目がこちらを向いた。
うわっ、イケメン。
「あれ、オーナーいなかった?」
「遅れて行くから店長から制服とマニュアル受け取れって連絡ありましたけど」
「マジか。めんどくさ」
天然な人だと直感した。
「私はオーナーがここで店長してた時にバイトしてたから大体のことはわかります」
「へー」と言いながら店長は私に
白いポロシャツと茶色いエプロンを渡した。
「着替えたらオーナー来るまでマニュアルとメニュー見てて。俺仕込みあるから」
無愛想な人。
でも、包丁でネギを刻んでいる姿というか
うつむき加減の顔がとんでもなく好みで
メニューの隙間からチラチラ見続けた。
こんなイケメンを近くで見るのは初めて。
厨房の人が頭に巻くバンダナから
金髪に近い茶色い髪が少しだけ覗いている。
ガッシリした体型もゴツい手もタイプ。
ストライクど真ん中。
しばらくすると
「はよーございまーす」
高校生のバイトの子が出勤してきた。
夕方でも「おはようございます」なのは
昔と変わっていない。
店長はすぐに仕込みの手を止めて
「エリ、それが新しいバイトだから色々教えてやって」
と厨房から出てきた。
「エリでーす。よろしくお願いしまぁす」
「あ、よろしくね」と挨拶を返す私に
店長は手書き用の白い名札とペンを渡した。
「名前なんつったっけ?」
「岸谷です」
さっき自己紹介しましたけど?
「下の名前は?」
「サヤカです」
「じゃあ、サヤカは名札作ってエプロンにつけて。あとはエリに聞いて」
サヤカ呼びっすか?!
初対面で下の名前を呼び捨てされたことが
かなりの衝撃だった。
店長はまた黙々と仕込みを始めた。
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